第23話

「着いたぞっ。」

彼女は僕にそう言うと馬を止める。

僕等の目には大きな洞穴が見えた。

「ここが隠れ家かい?」

「昔のように贅沢はできないからな。それと…中に入る前にその鎧は外しておけよ。仲間が疑うからな。」

そういえばずっとアノーレスの兵士の鎧を身につけたままだった。

「さぁ、中へ入ろうか。お前のことを紹介しておかないといけないからな。」

ジャンヌはそう言うと僕を中へと連れて行く。

洞窟の中は陽の光が入ってこないから暗いままだし、僕には逆に住みやすそうだ。

「僕を中へ入れてくれたってことは仲間に引き入れてくれるってことかい?」

「ああ、お前のような勇敢な兵士が欲しかったからな。それに医療にも多少は知恵があるのだろう?それならば尚更、仲間に入って欲しいよ。」ここにくるまでに話をしたら彼女に気に入られ、僕は革命軍へ入ることができた。

中へ入るとすぐにきっちりとした男性がジャンヌの元へと駆けつけてくる。

「ジャンヌ様っ、よくぞご無事でっ。」

「ドローンか…私がいない間、何か変わったことは?」

「いえ、特にはございません。それよりもその方は?」

「彼か、彼は志願兵だ。それと彼は腕利きの医者だよ。それも少しは自分の身を守ることはできるほどのな。私が拠点で捕らえられているところを助けに来てくれた。まぁ、私一人でも逃げだせたんだけどな。」

「医者ですか、それはとても頼もしい。私も歓迎しますよ。」

ドローンという名の男性は僕に手を伸ばしてくる。

「私の自己紹介がまだでしたね。私はドローン、ここ革命軍の副官をやっております。何か困ったことなど欲しい者があったら私に言ってください。できる限りのものは準備いたしますので。」

見た目からして賢そうな男だ。

僕は彼の手を握ると彼と同じように自己紹介をする。

「僕はジル、ジャンヌの話していた通り、昔は医者をやっていたよ。ジャンヌからある程度の話は聞いた。革命軍に入ったこと、それと君達と一緒に戦えて光栄だよ。」

「………。」

彼は微笑んだままチラッと僕の手を見る。

だが、すぐに何事もなかったかのように振舞ってきた。

「ジャンヌ様、彼の案内はルイとレイモンに任せたら如何でしょうか?彼等ならきっと彼とも仲良くなれそうですし…それに少しだけお話があります。」

「んっ?そうだな、そうしようか。それならば、すぐに「僕らのことを呼んだ?」

彼女の後ろを見るとリナと同じくらいの年頃の男の子が二人立っている。

彼等はいつのまに近くに来ていたのだろう。

「丁度良かった、お前達二人にも紹介しよう、彼は。」

「ジルでしょ?」

「まったく…盗み聞きとは良くないな。まぁいい、分かっているなら彼を案内してやってくれ。」

「ヘーイ。」

気だるそうな返事を彼等はするとドローンが彼等の頭を小突いた。

「もっとはきっと返事をしろ。…失礼しました、ジル。これからはこの二人がご案内致しますので、それでは。」

「ジル、また後で話をしよう。」

二人は軽く僕へ挨拶をすると奥へと歩いていく。

ドローンは僕の手を握ってから何だか様子が少しおかしく見えた。

もしかしたら吸血鬼とバレてしまったのか…いや…考えすぎだろう。

「ジル?話聞いてんの?」

あの二人のことについて少し考えていたら目の前にいる二人が退屈そうに僕へ声をかけて来る。

「あっああ、えっと…確か君達は?」

「あっ自己紹介がまだだったよね。僕はルイ、それでこっちがレイモン、よろしくね。」

「よろしくお願いします。」

一人は活発そうな短髪な男の子のルイ、もう一人は大人しそうな同じような髪型をした男の子のレイモン。

「ああ、よろしくね、二人とも。」

「チッチッチ、なってないな。ジル、君は僕達よりも後にきた兵士なんだろ?それならば僕らよりも下っ端ってことだ。敬語を使わないとな?」

「ルイっ、そんなことを言ったら失礼だよ。それにジャンヌさんも言ってたろ?僕達にはそういうのはなしだって。」

「それでもだよ。俺達だって最初はこき使われただろ?それと同じさ。」

「僕はそんなこと反対だよ。」

彼等は二人とも言い争いを始めてしまった。

こうして見ているとルイは年相応な男の子でレイモンの方が彼よりもしっかりとしてるのかもしれない。

それにしても他にも兵士はいるようだが活気はなさそうだ。

それだけ厳しい状況が続いているということか。

物資もあまり足りてないようで切羽詰まっているとジャンヌから聞いていた。

それもそうか、こうして隠れて行動しなければ彼等に捕まり、殺されてしまうかもしれない。

そんな状況で好き勝手に行動はできないだろうし。

まずは必要最低限の物資を手に入れることが最優先なのかもしれない。

そんなことを考えて彼等の言い争いが終わるのを待っていたがどうやらまだまだかかりそうだ。

どうしたもんかな。

「ったく、またお前らはくだらん喧嘩なんかしてんのかい?」

突然、誰かに後ろから肩を掴まれ、振り返ると顔に傷跡を残した男が立っていた。

「ピエールっ、ルイが話を聞かないんだ。」

「あっ?それはお前の方だろうがっ。」

「はぁ…お前ら喧嘩をやめないとぶん殴るぞっ。ただでさえこっちは疲れてんのにそんな大声で叫ばれてちゃゆっくりとやすめないだろうがっ。」

男はドスのきいた声で二人にそう告げると二人はすぐに口を閉じた。

「それで…お前は?」

今度は僕のことを彼は睨みつけてきた。

彼の目を見ていると何だか恐怖を感じてしまう。

「僕は…ジル。今日から…仲間に入ったんだ。」

「ほぅ…仲間にねぇ。それは本当なのかい?」

「うん、ジャンヌの姉ちゃんが連れてきたんだよ。なんでも凄腕の医者だとか。」

余計なことは言わないでほしい。

これではますますハードルが上がってしまうではないか。

「凄腕の医者ねぇ。そんじゃ、ちょっと面でも貸してもらおうかな。もちろん、断んねぇよな、ジル。」

「ああ。」

僕は半分強引に彼に連れて行かれる。

「ここだ。」

彼が連れてきた場所には大量の怪我人がベッドに横になっている。

どれも酷い状況だ。

中には助かる可能性がないものもいる。

患者の呻き声や嘔吐の音などでまさに地獄絵図だった。

「こいつらをみんな治してやれとは言わない。本当ならみんな助けてやりたいとこなんだが多分、それは無理なんだろう。それなら助かる可能性があるやつだけ、助けてやってくれ。」

「これはみんなアノーレスが?」

「ああ、あいつら以外にこんなことする奴なんていねぇよ。こいつらの殆どが国のために戦った兵士なんだ。中には戦争に負けてから加わった志願兵や奴らに襲われていたところを助けた村人なんかもな。あいつらはそうやって遊んで暮らしてんだよ。人を傷つけることを娯楽かなんかだと思ってやがんだ。俺はそれが許せなくてよ。絶対に奴らを一人残らず、殺してやる。じゃなきゃ無残に殺されていった仲間に合わせる顔なんてねぇからな。」

どこまで奴らは非道な人間なんだ。

これでは…彼等の方が僕らなんかよりも化け物に近い存在ではないか。

「ピエール。」

ジャンヌもドローンとの会話が終わったのか、僕達の元へと集まった。

「ジャンヌか、外の様子は?」

「酷い状況だ。奴らは私達を捕らえるためにいくつも拠点をマアトル辺りに置いている。拠点をどうにかしない限り、迂闊には行動はできないよ。取り敢えず、これを見てくれ。」

彼女は地図を取り出すと僕達の前に広げる、地図には赤い丸がいくつも書いてあり、この隠れ家の周りにも何個か書かれている。

「この印の書かれた場所、全てに奴らの拠点がある。本当は全ての拠点を潰しておきたいところだが、それは今の状況では難しいだろう。それに今は物資を手に入れる方が最優先だ。」

「そうだな、今の状況じゃ、物資はもって後2日程だ。今すぐにでも取りに行った方がいいだろう。だが、問題は誰が行くか…だが。」

「動ける者は少ない、だからといって一人では太刀打ちできるはずもない。だから、少人数で行こう。」

「少人数って誰を行かせる気だ。」

「着いて来てくれ。」

ジャンヌは僕達を連れて移動をする。

そして到着した場所はさっき僕達が入ってきた入口だった。

そこにはドローンともう一人知らない男性が立っている。

「アルフォンス…来ていたのか。」

「ああ、お前が帰ってこないと聞き、来たのだが…どうやら助けはいらないようだな。」

アルフォンスと呼ばれた男は立派な鎧を身につけた男だ。

「それでこの男は…初めて見る顔だが…。」

彼は目を細めて僕のことをじっと睨みつける。

何だかあんまり歓迎されてなさそうに感じてしまう。

「彼はジル、俺達の味方だ。」

ピエールが彼にそう言うとアルフォンスは僕の姿を見て鼻で笑う。

「こんなヒョロヒョロな貧弱者じゃ、剣すら握ることはできないだろうに。まぁそれでも肉壁にはなるか。」

顔に似合わず、嫌味な男だ。

「そうだ、ちょうどいい。俺がこいつの腕前を見てやろうか?」

「まったく、私達はそんなことをしているほど暇ではないのでね。用がないならお引き取りを。」

彼女はそう言うと手を出入り口へと向ける。

「はぁ…君のことが心配だから来てやったのに、そこまで邪険に扱わなくても良いではないか。まぁいいか、君の元気な顔を見ることができたし、私はこれで失礼させてもらうよ。」

彼はまた僕の方を嫌な目つきで見ると不敵に微笑み、帰っていった。

「何しに来たんだか…。」

「まぁ、助けてもらっている以上は奴の好きなようにさせておけばいいさ。…話がずれてしまったな。明日、我々はアノーレスの拠点を一つ叩く。そのメンバーは私、ピエール、ルイ、ジル、後は付いてこられそうな兵士を数人だ。ドローン、お前は私達が留守の間、ここのことを頼んだ。」

「ええ、お任せを。」

「それでは兵士を集め次第、作戦を説明する。その間、お前達はここで少しの間待っていてくれ。」

突然だが、僕はいきなり戦場へ送られるみたいだ。

ここで彼女達に認められれば…。

だがそのためにも先ずは計画をちゃんと聞いておかないと。

明日は大変な一日になりそうだ。

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