3-6 BLはいつも隣で待機している

「うちのクラス、文化祭の出し物どうする?何か案ある人は言ってほしいんだけど」


「縁日とか?」


「お化け屋敷だろ」


「楽しいのがいいよねー」


 がやがやとクラスのみんなが騒がしい。それを俺は自分の席でぼーっと眺めていた。俺はこれに参加する必要はない。黙っていれば話はじきに終わる。まあ、佳那芽さんはそうはいかないようだけれど。


「かなは何かいい案あるー?」


 文化祭係の女の子が佳那芽さんに向けて意見を求める。それに対して佳那芽さんは特に動じることなく答えを返した。


「そうだね、何か小っちゃい子向けのをやってみたいな。宝探しとか」


「いいねえ、迷うなあ」


 うん、大変そうだなぁ。と、他人事のように思いながら机に突っ伏していると、視界にひらりとスカートが映った。

 ふっと目線を上げると、華さんが俺の前の開いている席に座っていた。


「……どうしたの?」


 周りに気を使うように、俺が目立たないように。そして相手に聞こえる声音で、俺は華さんになんの用か尋ねる。


「んー、何か案あるかなって思って」


「逆にあると思ってるの?」


「ワンチャン?」


「まあ、ワンチャンねえ。でも生憎とこれといった案はないかな」


 ていうかあってもはいって手上げれる雰囲気じゃないし。故に案を考える必要がほぼない。去年もいつの間にか決まってたし、そんなもんだ。


「じゃあ今考えてみてよ」


 何故俺が考えねばならんのだろう。まあ暇だし、適当に考えてみるもの良いかもなあ。どうせスマホ触ったり本読めないし。


「……そうだなぁ」


 とは言え、一から案を考えられるほど頭が回ってくれるとも思わない。誰かの案をリメイクというか、付け足しをするのが無難かな。


「風船敷き詰めた所に鍵隠して、制限時間内で探せた数だけお菓子ゲットとか?」


「小っちゃい子向けだね」


「まあ、その方が運営楽だったりしないかなと思って。あと去年軽く見てた感じ小っちゃい子多かった印象あるから」


 まあうろ覚えなんだけどね、ゲームしてたし。そんなことを思ってるともつゆ知らず、華さんは感心しているような表情を見せた。


「それ、いいじゃん。やってみたい感ある」


「……へ?」


 結構適当に言っただけなのだが、華さんには好感触なようで俺は困惑を隠せない。


「それ、意見出してみたら?」


「ん、いやかな……」


 お世辞だと思った。まあ仮にお世辞ではなかったとしても俺は言わない。もう二度とクラスで目立つようなことは御免だ。


「そっかあ、じゃあさ、その意見私が代わりに伝えてあげるよ」


「いいけど、立案者が俺ってのは言わないでいただけると」


「どうしよっかな」


「あっこれあれだ、そうして欲しくばみたいなやつ。こんなところで聞く羽目になるとは」


「や、まだ言ってないけどね」


 そうか。まだ、言ってないか。そうだね、確かにまだ言ってないね。それって言おうとしてたってことでおけ?


「言わないから心配しないで。じゃあ意見貰ってくよ?」


「どうぞ、採用されるとは思わんが、まあ伝え方とか伝える人で印象変わるかもなあ」


「やった、じゃね!」


「うん」


 華さんは教卓で話している女子集団のもとに向かった。俺は再び机に突っ伏す。平和な時間がまた訪れてくれた。

 と思っていたのだが、また誰かが俺の近くに来た感覚。通り過ぎてくれたらよかったのだが、近くで立ち止まった。


「巽君」


 声がして、若干の憂鬱が消え去った。顔を上げると、佳那芽さんが目の前にいた。んー、でもこれ目立たない?


「……どうかした?」


「何話してたの?」


 華さんの方をちらと見てから、俺に向き直る佳那芽さん。別に隠すようなものでもないので正直に伝えることにする。


「何だろ、文化祭についてかな。なんか案あるって聞かれた」


「ほんとに?」


「一体何を疑われてるんだ……」


「や、ほんとならいいんだよ」


「それでいいんならいいんだけど」


 どうしたんだろう。俺なんかやらかした?いややらかしてないと思うけどなあ。でも今後何かあるかもしれないから気を付ける分にはやって損はないだろう。


「……それだけでしょうか?」


 恐る恐るの形で佳那芽さんに聞くと、少しキョトンとしたから口を開いた。


「ああうん、それだけかな」


「さようか」


「うん、さようです」


 笑みを見せ、おどけた様子で言う佳那芽さん。

 そっか、それだけか。残念なような、目立たずに済んで良かったというか。

 きっとこの思考回路も直さないといけないんだろうなと、ふと思う。華さんと話した時もそうだ。周りの目を過剰に意識しすぎている。

 玲司とわちゃわちゃしているのはあまり気にならなかったのに、玲司の部分がクラスの人気の女子になった途端何でこんなにも周りの目が気になるんだろうね。不思議だあ……なんて。

 理由は理解している。男子からのヘイトもトラウマの一部であるから。ならばこれも克服しなければならないことになる。俺の勝負は、佳那芽さんを惚れさせるだけのことではないと今になってようやく全部わかった気がした。


「みんな聞いて、案が最低限出揃ったから多数決するよー」


「……じゃあまたね」


「うん、また」


 自分の席に戻っていく佳那芽さんをぼーっと眺めた後に黒板に書かれている文字列を見た。「縁日」、「お化け屋敷」、「カフェ」、「宝探し(バルーンプール)」、「フライドポテト」、「休憩所」と書かれている。

 ……休憩所は流石にあかんでしょうに。


 ***


 その後、クラスでの出し物は「宝探し(バルーンプール)」となり、シフトを決めて放課後。欠伸を噛み締めつつ教室を出て部室に向かう。教室を出ると一気に柵から解放された感覚が溢れ出す。

 ぐぐっと伸びをして、長く息を吐く。文化祭が近づいているという事実が皆を浮足立たせている。その雰囲気が俺は苦手だ。何というか、精神的に疲れるんだよなあ。


「巽君」


 控えめな声量で佳那芽さん俺に声をかける。クラスの女子に掴まっていたように見えたのでそそくさと部室に向かおうとしていたが、うまくかわしてきたようだ。

 ……言い方が悪いだろうが俺からしたらそんな感覚。


「一緒行こ」


「うん」


 何というか、ラッキーだ。好きな子と部室行くって青春っぽくない?今までこれがなかったのは俺が速攻で教室出ていくからなんですけどね。そうなるとラッキーと呼ぶのは何か違うな、これ。


「初めてだね、なんかこう、一緒に行くの」


「佳那芽さんいつも友達と話してからくるからね、俺はさっさと行っちゃうし」


「だからかー!いつの間にか教室にいないのは」


「最速だからね」


「何でそんなに自慢げなの」


 俺の方を見て笑いかけてくれる佳那芽さん。俺も俺で佳那芽さんの顔を見て話すことに照れは一学期ほどではない。一学期は佳那芽さんと話す時、常にド緊張してたと思う。

 ……さて、チャンスだぞ天篠巽。佳那芽さんに言わなければならない。文化祭一緒に回りませんかと。これを言えなければ終わると考えろ。そのくらいのことだと思わないと絶対言えない。


「……あのさ、佳那芽さん」


「ん、なに?」


「や、あのですね。ええっとぉ」


「なになに、いきなりどもり始めたじゃん」


 ぬあああぁぁぁ!言葉が詰まるぅ!きょどりが消えないぃ!表情は一切の焦りを見せないが、内心えぐいくらい冷や汗かいてる。てか冷や汗は普通にかいてる。


「ゔぅっ!ゔぇん!……どうかした?」


「え、いきなり爽やかになるじゃん」


「や、喉の調子がね」


「今戻ったんだ。じゃあ続きをよろしく」


 笑顔が固まる。まあですよね、そうなりますよね俺もそうする。


「……文化祭なんだけど」


「うん」


「一緒に……!」


「うん」


 きっと佳那芽さんは俺が何を言おうとしているのか想像がついているのだと思う。明らかにからかって面白がっている節がある。……まあ、なんか楽しそうだからいっかぁ。


「……一緒に文化祭回りませんか?」


「えー?どうしよっかな」


「ちょっと?佳那芽さんもう俺が言おうとしてたこと予期してたよね!?」


「あはは、ごめん冗談冗談。んー、じゃあ交換条件があります」


 にっこにこでそう言う佳那芽さん。物凄く嫌な予感がするが、予期することは可能だ!きっと玲司や正臣とも文化祭回れって言うのだろう。受けて立つ!


「宮原君と日野君を巽君から文化祭デートに誘うこと。そしたら最終日空けておくね?」


「……はい」


 拒否権はない。俺は思考することを諦め誘わなきゃという使命感だけを頭に叩き込んだ。




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《改良版》何で俺のラブコメは男ばかり寄ってくるんだよ!!! 海風奏 @kanade06mikaza

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