説得

さとると瑠璃は間宮コンツェルンの最上階に到着した。

薄暗く、長い廊下の奥に、「社長室」と書かれた重々しい扉が見える。

「るーちゃん、怖くない? 大丈夫?」

今更ながら、瑠璃を引っ張ってきた自分に後悔するさとるだった。

しかし、瑠璃は、

「大丈夫。さとくんがいるもん」

と、にっこり笑顔を浮かべた。

さとるは安堵して、

「よし、じゃあ行こう。」

と、瑠璃の頭を撫でた。

辺りに人の気配が感じられないのが不気味だった。


どこから敵が襲ってくるか分からない状況で、さとるは慎重に瑠璃を守るようにして廊下を歩きだした。

「社長室」に着いたと思った瞬間だった。

1人の人物が壁の影から姿を現した。

黒いスーツにサングラスをかけている背の高い男性は、

「失礼ですが、新堂様ご一行でいらっしゃいますか?」

と、丁寧に頭を下げた。

「そうですが・・。あなたは?」

さとるは警戒しながらその男性に声を掛けた。

「わたくし、社長秘書をしております、ヴァイオレットと申します。以後お見知りおきを」

と、うやうやしくさとるに、名刺を差し出した。

「僕達、間宮さんに話が会って来ました。どうか通してください。」

ヴァイオレットは、無表情に頷くと、

「よくぞここまで来られました。社長もあなたと話がしたいと仰っております。只今お取次ぎ致します」

そう言って、しばらく姿を消した。


しばらくの後、重々しい扉が開かれた。

「どうぞ、新堂様」

ヴァイオレットは、社長室の扉を開けると、さとると瑠璃を招き入れた。

後ろ向きに、社長席に座っている人物が見えた。

さとると瑠璃は、社長席に近づいた。

「あなたが間宮さんですね」

と、さとるはその人物に声を掛けた。

「いかにも。わしが間宮コンツェルンの総帥、間宮半蔵だ」

半蔵は、ゆっくりと椅子を回転させると、さとると瑠璃の方を向いた。

ぶっきらぼうな、いかにも不愉快といった印象を受ける。

「僕達、間宮さんに話が会って、ここまでやってきました。」

「よくここまで来られたものだ。それは褒めてやろう」

半蔵は無表情な顔をして、さとるに言った。

「用件は・・言わなくても分かっている。大方、わしに自主しろと言いたいんだろう」

「違います、違うんです。間宮さん。その前に言わなければいけないことがあります」

「何だ?」

「はっきり言います。僕は財閥なんか継ぐ気はありません。瑠璃ちゃんが幸せになれるはずないから・・。」

「何だと?!」

半蔵は驚いた様子でさとるを見た。

「だからお願いです。もう瑠璃ちゃんを狙わないでください。お願いします!」

半蔵はどうしていいか分からない表情を見せた。

「しかし、新堂財閥と間宮コンツェルンが対立している以上・・。」

「だから、僕は財閥なんか継ぎません! 貴方は人を不幸にしてまで偉くなりたいんですか!」

「お前・・。」


しばらくの沈黙の後、半蔵は重々しい口を開いた。

「わしの負けだ・・。瑠璃ちゃんや新堂夫婦を狙った罪は免れまい。自主することにしよう・・」

「間宮さん! ありがとうございます!」

さとると瑠璃は頭を下げた。

「よかったね! るーちゃん!」

「さとくん、ありがとう! おじちゃん、ありがとう!」

瑠璃は半蔵に抱きついた。

半蔵は照れくさそうに瑠璃の頭を撫でた。


しかし、その時だった!


バキューン!


一発の銃声が鳴り響いたのだった・・・。






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