第7話 天龍寺 葵は〇〇である

 ミヤと別れたりのは、鼻歌を奏でながら街の外を目指していた。


 お金がない以上、この街にいてもやる事がない。


 訳の解らない所に来てしまい、最悪だと思えば、ミヤとの出会いで、来て良かったかもとも思うりの。


「た、楽しそうですね」


「我等が仲間になったのが嬉しいようだな」


 そんなりのの少し後ろで、二人の会話が聞こえてくる。


 りのは慌てて、後ろを振り返った。


 驚いた表情をするりのを見て、不思議そうな顔をする二人。


「何でついて来るの?」


「え?」


「ク、ク、ク。お主はいらないと言っておる」


「そ、そんな…やっぱりパンティーを」


「いらないわよ。そうじゃなくて、あなたよ、あなた」


 玲奈がついてくるのはわかるが、もう一人の女の子がついてくるのは謎であった。


「ク、ク、ク。汝らが、我の力を欲していると聞いたものでな」


「欲してません」


「け、喧嘩はダメですよ!ラブ&ピースです」


 右手を真っ直ぐ伸ばし、左手で右眼を抑える女の子に、りのは両手を腰にあてて返事を返した。


 そんな二人の空気を感じとった玲奈は、二人の間に入って、ニッコリ微笑みながら、喧嘩の仲裁をする。


 喧嘩をしている訳ではないが、喧嘩しないでと言われてしまった以上、これ以上は何も言わない方がいいだろう。


 りのはそう判断して、アリアを呼んだ。


 しかし、寝てしまっているのか、アリアからの返事はなかった。


全く。人の気も知らないで。と、思いながらりのは二人に提案する。


「と、とにかく、街の外に出ましょう」


 街の出口に近いという事もあり、話しはそれからでいいだろうと考えたからであった。


 ーーーーーーーーーー


 街の出口付近で、看板を目にしたりのは、看板に目を通した。


 "いってらっしゃい!またのお越しをお待ちしてます"


 そんな看板や


"ここから先、ダイダス平原"


という看板などを目にする。


つまり、ここから先は街の外を意味しているという事だ。


 辺りをキョロキョロ見渡すりのは、モンスターがいない事を確認する。


 なぜキョロキョロしているのだろうか?二人は訳も解らず、りのを見ていた。


「大丈夫そうね。よい、しょ」


 りのは安全を確認すると、バーバラからもらった風呂敷を広げ、中身の確認をする。


 りのの予想通り、中身は食べ物であった。


 どう見ても100Gでは買えないほどの量と質。


 バーバラの温かさを噛みしめながら、りのは二人に声をかけた。


「とりあえずコレをつまみながら、少しお話しをしない?」


 一人で食べるには量が多い。


 それに、ジーっと見られながら一人で食べるのは、何だか心苦しいものがある。


そう思っての提案だったのだが、それに答えたのは違う人物であった。


「そうじゃぞ。遠慮する必要は……ない……あ、肉は……ワシ…のじゃ…ぞ」


「アリア起きたのね」


「ワシは最初から…おき…て…おったわい」


「食べながら喋らないで」


 ムシャムシャとハムらしき物を食べながら喋る妖精アリアに、軽く注意をしてから二人を手招きする。


「あ、あのぉ。さっきから気になっていたのですが、それはラジコンか何かですか?」


 りのに勧められた二人は、地面に座るのだが、玲奈がアリアを指さして質問をしてきた。


 おもわず顔を合わせるりのとアリア。


 どうやら、まずはそこから始める必要があるようだ。


「とりあえず、自己紹介から始めましょう」


 りのは、玲奈の質問には答えずに、お互いの事を知る所から始める事にした。


 約一名、名前も知らない子がいるのも、その理由の一つでもある。


「私は水瀬みなせりの。信じてもらえるか解らないけれど、アイドルをやらせてもらっているわ」


 日本という国とあえて表現したのは、ここが異世界だからであった。


 何故なら玲奈ではない、もう一人の女の子が異世界の住人かもしれないからだ。


 りのは二人の反応を待たずに続ける。


「2月14日の日に、ゲームのアフレコの仕事をする為に秋葉原に来てたんだけど、気付いたら来てしまっていたの」


 この世界に来てしまったと、再三ここは異世界だとアピールする。


「そこで知り合ったのがこの子よ。名前はアリア。見ての通り妖精でアリアが言うには、日本に帰る為にはこの世界の魔王を倒す必要があるらしいわ」


 りのに紹介されたアリアは食べるのに夢中で、特に挨拶はなかった。


 りのの言葉を聞いていた二人は、顔を見合わせる。


「や、やはり…私の目にくるいはなかったようですね」


「ク、ク、ク。我が同胞よ。何も心配などせんで良い」


 二人はそんな会話をしている。


 ため息をつきたい気分ではあるが、気持ちは解らなくもない。


 いきなり異世界に来てしまった。妖精です。魔王を倒さないと。などと言われて、そうなんですか!?となる方がおかしいだろう。


 若干、嫌、かなり仲間意識を持たれているのは、気のせいであってほしい所ではあるが…


 そんなりのに、玲奈が手を挙げて質問してきた。


「りののその格好は何のコスプレですか?」


「コ、コスプレって。コレはステージ衣装よ」


 赤いチェック柄の上下には、黒いハートが刺繍されており、黒い靴下は膝下まである。


 中は水色のワイシャツで、青いネクタイをしめており、ポニーテールにしているこの姿こそが、TVなどでの"アイドル水瀬りの"本来の姿である。


おほん。と、ワザとらしく咳をしながら、りのは玲奈の方を向いた。


「とりあえず、次は玲奈の番ね」


「は、はい。私は神崎玲奈かんざきれなといいます。歳はりのと同じ17歳。私も秋葉原という街で、コスプレイベントに参加していた所、気付いたらここにいました」


「質問いいかしら?アンケートを書いたって言っていたけど、どんなアンケートだったの?」


 りのは手を挙げて、玲奈に質問をする。


 自分はアンケートに答えた後に、この世界にやってきた。


 それならば玲奈もまた、アンケートに答えた為に、この世界にやってきてしまった可能性が高いと考えたからである。


 それに、りのはアンケートの最後の質問にアイドルと答えたら、魔王を倒すのにアイドルで挑むという、訳のわからない事になってしまっている。


 もしも玲奈がコスプレイヤーと書いていたらと思うと、気になって仕方がない。


「アンケートですか?普通ですよ。住んでる所やスリーサイズとかですけど…」


 りのの質問の意味が解らず、首をかしげる玲奈。


「…職業とか、そう言った事は聞かれなかったの?」


 スリーサイズも気になる所だが、今はそれどころではない。


 りのの質問に、玲奈は静かに首を振る。


 どうやら、聞かれていないみたいであった。


 そっか。と、一言伝え、アゴに手をあてて考えるりの。


「フ、フ、フ。真打ち登場ってヤツだな」


 赤いマントをひるがえし、バッ、ババババっと色々なポーズをとる少女は、高らかに名乗りを上げた。


「赤き漆黒の炎!闇の恩恵を授かりし我の真の姿は漆黒の堕天使!操りし魔物は天に昇る龍と書いてドラゴンヘブン!」


「・・・」


「ク、ク、ク。なんじらが我の力を求めるのも無理はないことよ」


「・・・」


「我が名はユーシスティス。この世界を救う者である」


「・・・で?本名は何?」


 どう見ても日本人だし、日本語ペラペラだし、ユーシスティスなんて偽名としか思えないし。と、りのは冷たい眼差しを向けた。


「愚かなり。我はたった今名乗ったばかりだというのに・・やれやれだな」


 イラッとしたりのは、真面目な話しをしているんだからちゃんとして!と、注意をしようとしたのだが、ユーシスティスと名乗った少女に、何故か熱い眼差しを向けながら立ち上がった玲奈に遮られてしまった。


「いい、いい。凄くいいですよ」


「ほほぅ。どうやら汝は見る目があるようだ」


「・・・」


 ガッシリと握手を交わす二人を、りのは無言で見つめていた。


 コスプレイヤーである玲奈の心に、つきささる何かがあったのだろうか?


「その腰ぐらいまでのマントが、ますね」


「ふははは。コレは魔力を解放している証。我が魔力を解放している時は、真っ赤にるのだ」


「ふ、封印したら、ど、どうなるのですか!」


「ほしがりちゃんめ。特別に見せてやろう!」


 ニヤリと口元をゆるめ、術式封印!と唱えると、ユーシスティスと名乗る少女は、サササってのとマントを脱ぎ、裏返して着だした。


 何回も練習しているのか、その手つきは手慣れたものである。


着替え終わると、先ほどとは違うポーズをとりながら、名乗りをあげた。


「我は闇と契約した漆黒の堕天使」


「な、なるほど。だから黒なのですね」


 闇と契約しているからなのか、真っ黒なマントを羽織り、中も全身真っ黒な服であった。


 髪も黒く、襟足部分で一つ結びにしている髪は腰まで長い。


 どうやら真っ黒なマントは、術式を解放すると、真っ赤なマントへとかわるらしい。


 ユーシスティスの様子を見ていた玲奈は、納得したようであり、そんな二人のやりとりをりのは、遠い目で見ていた。


いやいや、リバーシブルじゃん。という思いと共に…


 ーーーーーーーーーー


 盛り上がる二人に頭を抱えるりのは、アリアに助けを求めた。


 魔王を討伐するどころの話しではない。


 まずは、ここが異世界だという事を自覚してもらわなくては話しにならないと、りのはアリアに説明して頭を下げた。


 アリア自身も魔王を討伐しなくてはマズイ為、大好きな食事を中断してでもと、りのに協力する事を決意したようだ。


やれやれ。仕方がない。といった態度はどうかと思うが、ここは我慢だ。と、りのは自分に言い聞かせた。


「盛り上がってる所、申し訳ないのだけれど、ちょっとコッチに来てくれる?」


 りのは二人を手招きして、自分の前に座るようにし、アリアにお願い。と、伝えた。


 アリアはうむ。と一言そう言うと、親指と人差し指で丸を作り、その穴から玲奈を除き込んだ。


「神崎玲奈。歳は17」


「は、はい!」


 アリアに名前を呼ばれ、背筋をピンと伸ばして返事をする玲奈。


「ふむ。住んでる所は東京都〇〇〇。趣味はミシン縫い。特技は…き、決めポーズとはなんじゃ?」


「ど、どうして解るのですか!?」


 玲奈は驚いた表情を見せる。


 それは、アンケートに書いた内容と一致していたからであった。


「決めポーズってアレかな?」


「うむ。しかし、恥じる事ではないぞ!」


 りのの質問に、当然!といいながらユーシスティスと名乗る少女が答えた。


 きっとこの子も、決めポーズを練習しているのだろうなと、りのはそう解釈した。


「アリア。この子の職業は何?」


 ずっと気になっていた質問をアリアにぶつける。


「う、うむ。魔法…「ま、魔法使い!?」


 魔王を討伐するのに、まともな職業の人が仲間になってくれたとなればそれは心強い。


「嫌、違う。コヤツは魔法少女じゃ」


「・・・ハイ?」


 チラっと玲奈を見ると、不思議そうな顔をしていた。


 何か問題でも?と言っているように見えたのは、気の所為であってほしいところだ。


「れ、玲奈。と、とりあえず、おおお、落ちついて、コッチに来て」


「りのが落ちつきなよ」


 とりあえず、玲奈の事は後回しだ。


 そう決意し、りのは自分の隣に玲奈を座らせた。


 自然と玲奈の手を握ってしまったのは無意識であり、りのの手が震えている事に気づいたのは、当然、玲奈だけであった。


「アリア。この子もお願い」


 ユーシスティスと、名乗る少女は私達と一緒で、異世界に飛ばされて来たんだとりのは決めつけ、アリアに見てくれるようにお願いした。


「うむ。名前は天龍寺葵てんりゅうじ あおい。歳は17じゃな」


「・・な、何故!知っているのだ!?」


「趣味は魔界探索。ちゅ、ちゅうにやまいにかかっておるのか?」


「…!?わ、我は闇に生きる漆黒の堕天使。やまいなどにはかからんわ!はっははは」


「ちゅうにびょうね。それは大した病気じゃないから気にしないでいいわ」


 りのはアリアに、職業を見てとお願いする。


「ふむ。天龍寺葵の職業は・・。」


 ゴクリと息をのむ。


「正義のヒーローじゃ」


「・・・ハァ」


 深いため息とともに、哀しい瞳で天龍寺葵を見つめるりのであった。

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