第6話 中二病は世界を救う

 固まっていた二人は、同時に再起動する。


「い、異世界って何ですか?」


「いやいや。ちょっと待って。魔王を討伐する目的って何?」


「そ、それがですね・・実は・・。」


 玲奈が再び語りだしたのを見て、今度は最後まで黙って、話しを聞く事にした。


 私は秋葉原という街の、コスプレイヤー最強トーナメント!というイベントに参加しに来ていたのです。


 この神イベントには毎年、全国のコスプレイヤーが終結します。


 秋葉原の街は、消えてほしいカップルと神達で溢れかえるのです。


 私は着替える為に、早く来たのですが、早く来すぎたのか誰もいなかったのです。


 早く来た理由ですか?流石に家で、着替えてから出る勇気は私にはまだありませんし、電車に乗れない可能性も出てきますので、早く来て着替えようと考えたのです。


 それに初参加でしたので、どなたかと交流を深めようと考えていたのですが、先ほど言ったように、私以外誰もいなかったのです。


 仕方がないので、とりあえず着替えを済ませてから待つ事にした私は、とある部屋でアンケートを書いていたら、恥ずかしい話しなのですが、眠ってしまっていて、気付いた時にはここにいたのですが、ここはコスプレイヤーが集まっている居酒屋さんですよね?


 ーーーーーーーーーーーーーー


 開いた口が塞がらないとは、この事を言うのだろうか。


 両目が点になるとは、この事を言うのだろうか。


 りのは呆然としながら、玲奈を見つめていた。


「れ、玲奈・・落ち着いて聞いて」


「へ?な、何ですか?素人ドッキリなんて嫌ですよ」


 嫌などころか大喜びするから!と心の中で叫びながら、りのは今までの事を話した。


「ア、アイドルなんですか!?す、すいません。わ、私…そっち系にうとくて」


「いやいや待って。驚くポイントが違うから」


「だ、だって、いきなり異世界だなんてそんな話し・・噓ですよね?」


「・・・本当の事よ」


「じゃ、じゃぁ。魔王を討伐したら貰えるって聞いてた、サタンマントは手に入らないと?」


「魔王を討伐したら手に入るハズじゃ。あやつはマントを羽織っておったからの」


「・・解りました。魔王を討伐しましょう」


「…………」


 りのの両手を強く握りしめ、何故か闘志を燃やす玲奈。


 きっとまだ、この世界が異世界だという事を信じていないのだろうと、りのはそう解釈した。


 玲奈と一緒に魔王を討伐するのは問題ないのだが、異世界だと信じていない玲奈を、連れて行くのは問題である。


 討伐するには戦闘は避けられない為、まずはそこから理解してもらう必要があり、玲奈の事をもっと知り、説明をする必要があると、りのは考えた。


「ね、ねぇ、アリア?玲奈はアリアが呼んだの?」


「う、うむ。どうやら別の所に仕掛けた部屋に入ったようじゃの」


「・・仕掛けたって、何だか変ないい方ね」


 とりあえずアリアに確認をとり、自分が最初に受けたチュートリアルを、玲奈にも受けてもらった方が早いのではないだろうか?


 りのがそう提案しようとすると、りのの隣に誰かが座った。


「お姉さん。いつものを頼む」


 声からして、女の子だろう。


 いつものと言う事は、この店の常連さんなのだろうと、りのは背中から聞こえてきた声を聞いて、そんな事を考えていた。


「ニャ?初めて見る顔ニャのだが」


 ミヤの困ったような声を聞いてしまい、いつものと注文した女の子の事が気になったりのは、後ろを振り返る。


 赤いマントを羽織り、怪我をしているのか両手首には包帯が巻かれ、手には黒いグローブが装着してある。


 グローブといっても野球のようなヤツではなく、5本の指がでるヤツであり、座っている為、マントの中の服は見えない。


 横顔しか見えないが、おそらく可愛い。


「くっ。や、やはり、我の記憶違いだというのか」


 そう言いながら、コツっと右手でカウンター席を叩く。


「すまない。いつものとは、魔力回復に万能な飲み物の事だ。ぐわっ!?」


 急に右手を左手で掴み、右足をガタガタと震えさせる女の子。


 当然、隣にいるりのは、何事かと見ずにはいられない。


 ぐわぁぁっ!と、右手を抑える女の子と、目があったような気がするりの。


 目があったと思ったら、再び痛がるのであった。


「し、しずまれぇ!くっ、くそ。ま、まさか・・封印術式が解けかかっているとでもいうのか」


「…………」


 りのは静かに、背中を向けた。


 関わっては、いけない女の子だ。


 そんな事より、私は玲奈と話しをしないといけないのだから…


「り、りニョ!」


 助けてくれと言わんばかりにミヤが、りのに話しかけてきた。


 本当であれば従業員としてミヤが対処すべき問題であり、りのには関係のない話しなのだが、友達になったばかりのミヤに頼られてしまっては断りづらい。


 何より、困った顔を見せるミヤが可愛い。


 仕方なくりのは、隣の女の子に声をかけた。


「あ、あのぉ…店員さんが困ってますよ?」


 見た感じ歳下だろうと思いながらも、万が一に備え、一応敬語で話しかけたりの。


「ふむ。それはすまない事をしてしまった」


 カウンター席に座っていた女の子は、そう言って立ち上がると、ミヤに頭を下げた。


「我の魔力に驚いてしまったのだな。兄上から、動物は敏感だと聞いていたが、まさか本当だったとは」


「違うから。後、敏感とか言わないで下さい」


「どうしてですか?」


「え?」


 何故、敏感と言ってはいけないんですか?とたずねてきたのは、玲奈であった。


「フ、フ、フ。我も教えてほしいのぉ」


「そ、それは・・・その・・」


 玲奈は満面の笑みであり、本当にどういう意味なのかを聞いているのだろうが、右手で右眼を隠すようにし、不敵な笑みを浮かべるこの子は絶対にどういう意味かを理解しているに違いない。


「ほれ?どうした?意味を聞いておるのだぞ?答えてみよ」


 ある意味セクハラである。


「し、知らないわよ!!」


 バン!!っとカウンター席を叩いたりのであったが、直ぐに後悔する羽目になる。


 何故なら厨房から、バーバラが出てきた所に出くわしてしまったからであった。


「・・・ち、違うんです!!」


「ほお。何が違うんだい?」


 低い声で返事をするバーバラの声を聞いたりのは、心臓を握られているような気分になった。


 サッサッと、左右に首を向けるりの。


 助けてくれのアイコンタクト。


 しかし、さっきまで喋っていたハズの二人は、メニュー表を眺めていた。


(は、薄情者!!)


 絶対、注文しないでしょ!とツッコミたいりのであったが、バーバラの視線が痛い。


 何か言わなくてはマズイと、りのは考える。


「……!?む、虫です虫!残念ながら逃しちゃいましたけど…あははは」


 右手を挙げ、左手を頭の後ろに回しながら、りのはテーブルを叩いた理由を話す。


 綺麗な手を広げて見せて、潰してないアピールも勿論、忘れない。


「あ"ぁ?ウチの店は虫が出る店だと言うつもりかい?」


 バーバラの視線が、更にキツイ視線へと変わる。


 これはどう見ても、怒ってらっしゃる。


 りのの心臓は、バクバクであった。


「し、失礼しました!」


 りのはこの空気に耐えきれず、深々と頭を下げ、店内を出る事にした。


 何も食べたりしていないのだが、100Gをカウンター席に置いていく。


 お水代だと思えばいいだろう。そう思っての行動。


「待ちな!」


 しかし、りのがカウンター席に背を向けた所で、バーバラから声をかけられてしまうのであった。


 ビクッ!?と、しながらも、りのは考える。


 どうする?聞こえなかったフリをして、店を出るか?しかし、そうなるとこのお店に今後、来づらくなってしまう。


 せっかく仲良くなったミヤに申し訳ない。


 りのはビクビクしながらも、ゆっくりと後ろを振り返った。


「100G払ったんだ。ほら、コレを持っていきな」


 ドン!と、カウンター席に風呂敷が置かれる。


「あ、でも、そんな・・いただけませんよ」


「気にする事ニャいニャ。こう見えてバーバラは昔冒険者だったのニャ」


(こう見えてって言われても)


 どう見ても、冒険者かモンスターにしか見えない。


 そんな事を考えていると、ミヤが説明を始めた。


 その昔バーバラは、冒険者をやっていたらしく、冒険者にはとにかく優しいのだという。


 特に、女性のパーティーなら、なおさらなのだとか・・。


「余計な事を喋るんじゃないよ!全く。いいかいアンタ達!」


『イェッサー!』


「・・まだ何も言ってないよ、あたしゃ」


 いいかい?とそんな声で聞かれたら、はいとしか言えないだろう。


 三人はビシッと、敬礼のポーズで返事をした。


「生きてまた、ここに来な」


『は、はい!』


 そう言い残して、バーバラは厨房へと引っ込んでいった。


 それを見て、ミヤは楽しそうに笑う。


 久しぶりにバーバラの、楽しそうな顔が見れたニャ。と言いながら。


 そ、そうなんだ・・と、りの達は思ったが、楽しそうに笑うミヤを見て、さっきまでの自分達の行動を思い返してみて、とてもおかしな気持ちになった。


「あ、アナタ達!よくも私をはめたわね」


「はめてなどいませんよ?」


「うむ。いきなり虫だとか言いだしたのでな」


「だから、注文しないのに、メニュー表を眺めていたと?」


「しょ、しょうがないじゃないですか」


 そんな事を言いあって、ミヤと一緒に楽しく笑う。


「うるさいよ!とっとと出ていきな!」


「ご、ごめんなさいーー!!」


 厨房から聞こえてきた、バーバラの怒声。


 りのは慌てながらもカウンターの風呂敷を、バッと取り、店を出ようとする。そんなりのに、二人は続く。


「りの!」


 慌てる三人を、店の出入り口でミヤがお見送りをしてくれた。


 右手で自分の尻尾を掴み、クルクル回すミヤを見たりのは、思わず笑みがこぼれてしまう。


 右手を挙げ、左右に振りながら、りのはミヤに挨拶をする。


「ミヤ!約束!」


「解っているニャ。約束を守る為にも、必ず触りに来る事ニャ」


 それは、別れの挨拶ではなく再会の挨拶。


 尻尾を触らせてやるという約束を、お互い忘れてはいない。


 それは、約束を果たす為にも、またここに来いという新たな約束である。


 ふふふ。


 空は快晴、絶好の冒険日和であった。

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