第5話 コスプレイヤー

 

【5】神崎 玲奈


 とある酒場で声をかけられたりのは、固まってしまっていた。


 知らない人からパンティーを組まないか?と、声をかけられたのだ。


 固まってしまうのも、当然といえるだろう。相手が可愛い女の子だから許せるが、一歩間違えればセクハラである。


「お、おいりの。こやつ何を言うておる」


「た、多分、言い間違えたのよ」


 アリアが鼻先で、慌てて声をかけてきた。


 りのもまた、慌てた様子で返事を返す。


「あっ!ご、ごめんなさい。私ったら・・」


 りのに声をかけてきた人物、神崎玲奈は、りのに向かって頭を下げた。


 どうやら、間違えに気づいてくれたようだ。ホッと、胸を撫で下ろす。


ーーーーーが。


「組みませんか何て言われたら困りますよね?すいません。訂正させていただきます。組んで頂けませんか?」


 深々と、丁寧なお辞儀をする玲奈。


 さっきと、何が違うというのだろうか。


「お、おい!組みませんか?から、組んでくれと言うておるぞ!」


 アリアの顔が青ざめているのを確認したりのは、玲奈に話しかける事にした。


「れ、玲奈さん。あ、あの・・」


「は、はい。あっ!私の事は玲奈とお呼び下さい。歳は17ですので」


 ニッコリ微笑む玲奈。


 17歳だから呼び捨てでいいと言ってきたと言うことは、りのを年上だと思ったからだろう。


 玲奈の胸をチラ見しながら、17歳か・・と、わりかし失礼な事を考えるりの。


「私は水瀬りの。この子はアリア。それと、私も17歳だから呼び捨てでかまわないわよ」


 りのは、なるべくフレンドリーに喋りかけた。なんだか玲奈が、緊張しているように見えたからである。


「それと、さっきの話し・・なんだけど。そ、その・・パンティーって言ったんだけど」


「パ、パンティーですか!?」


 りのの言葉を聞いた玲奈は、驚いた表情を見せた。


 そんな玲奈の言葉を聞いたりのは、少し顔を赤くして、コクリとうなずく。


 初対面でいきなり、下着の話しをする事などまずないだろう。


 無論、下着の話しではく、言い間違えてますよ!と、こちらは教えているだけなのだが。


 りのが前を向くと、玲奈は困ったような顔をしながら、ブツブツ何かを呟いていた。


 小さくて聞こえない。


「パ、パンティー・・ですか。で、でも、これでパーティーに入れてくれるのであれば…玲奈!ガンバ!」


 何故か両手をグッと握り締め、気合いを入れている玲奈を、不思議そうに見ていたりのだったのだが、急に玲奈がスカートの中に両手を突っ込んだのを見て、慌てて止めに入った。


「ストップ!ストープ!れ、玲奈!ななな、何で脱ごうとしているのよ!」


「え?何でって、りのがパンティーをよこせば仲間にしてやるぜ!グヘヘへって言うから」


 サッ。


「…見損なったぞりの」


「あ・の・ね?一言も言ってないでしょ。と、とにかく玲奈。脱ぎかけないで、キチンと履きなさい」


 おそらく半尻であろう玲奈に、りのは頬をひきつらせながらそう伝えた。

 _____________


 とりあえず、玲奈をカウンター席に座らせ、詳しい話しをする事にしたりのは、先ほどの話しをして、誤解を解く事から始めた。


「わわわ、私が、パンティーを組みませんか?と言ってしまってたんですね?すいません」


「い、いいよ、いいよ。誰にだって、言い間違える事だってあるよ。気にしないで」


「・・パーティーとパンティーじゃぞ。言い間違えるのかのぉ」


 しぃー!っと口元に人差し指を立て、りのはアリアを黙らせる。


 そんな会話をしているとは知らずに、りの達の元へミヤがやってきた。


「フニャ?りのの友達ニャ?」


「あっミヤ。さっきはありがとう。この可愛い子は玲奈。玲奈、この可愛い子はミヤよ」


 りのはお礼を言いつつ、二人を紹介する。


 りのに紹介された二人は、無難なあいさつを済ませた。


「ところで、ニャにか食べていくのかニャ?」


「あっ!そうだった・・ミヤ、実はね」


 りのは気まずい表情で、ミヤに状況を説明する。


 お金があまりない為、水と100Gで食べれる物がないかという事を伝えるりの。


「ニャるほどニャるほど。ニャら、先に水を持ってくるニャ」


 その間に、何か注文があれば呼んでくれと言い残し、厨房へとひっこむミヤにお礼を伝え、再度玲奈に話しかけた。


「ねぇ玲奈。私とアリアは、本当に魔王を討伐しようと考えているのだけれど」


 そうしなければ、現代に戻れないのだ。


「はい。私も、魔王を討伐しないといけない理由があります」


「え?そ、それって・・どんな理由なの?あっ!答えづらければ、答えなくていいわよ」


 もしかしたら、誰かの仇うちの為だったりした場合、この質問は嫌な質問になるかもしれないと考え、最後にそう付け加えるりの。


 りのの質問に、少し考え込んだ玲奈は、何かに納得したように首を縦に振って語り始めた。


「信じてもらえるかわかりませんが・・・」


 玲奈の話しを、黙って聞くりの。


 玲奈の話しはこうだった。

 ________________


 私の名は神崎玲奈17歳です。


 私の事をどんな人かと一言で言い表すのであれば、そう!コスプレイヤーです。


「コ、コス…プレイヤー?」


「な、なんですか!知らないのですか!」


 りのが聞き直すと、玲奈は前のめりになって、りのの顔を凝視する。


 あと数センチで、唇がくっついてしまいそうな、そんな位置であった。


「し、仕方がないですね。そこまで言うのであれば、教えて差し上げます」


 コスプレイヤーとは、漫画やアニメ、ラノベ等の架空の登場人物になりきる人の事です。


 コスプレイヤーとコスプレの違いは、そこにあると私は思います。


 例えばただのメイド服を着た人はコスプレであり、で、大人気のキャラクターである女の子のメイド服を着た場合もコスプレであります。


 では、コスプレイヤーとは?というと、それは本人になりきる事です。


 先ほどのキャラクターで例えるとした場合、喋り方や髪型、仕草などを、研究に研究を重ねた者だけがコスプレイヤーになれるのです。


 ではなくこの場合、。と言うのが、コスプレイヤーとしての常識ですね。


「ちょ、ちょっと待って!コスプレイヤーの話しは解ったから、先に進みましょう」


 りのは、興奮している玲奈に落ち着くようにと、言葉を遮った。


 というのも、りの自身オタクな為、こうなると話しが長くなると解っていたからである。


 オタク故に、玲奈が例えているキャラクターの名前や外見も想像がついてしまう。うむ。マジ天使♡


 りのにそう言われてしまった玲奈は、こほんとワザとらしく咳払いをしてから、続きを語りだした。


 2月14日の日に私は、あるイベントに参加していました。


「2月14日・・・イベント・・?」


「な、何ですか!寂しい女め!とでも思ったのですか!」


「ち、違うの。そ、その…実は、わ、私も、その日に…その…」


 少し顔を赤くしてつっかかってきた玲奈に、りのは顔を青くして言葉を返した。


 コスプレイヤーとか、リゼロから始まったなどの情報からして玲奈はおそらく、自分と同じ境遇にいる可能性が高いのではないだろうか。


 青ざめた様子のりのを見た玲奈は、どういう事なのかを予想した。


「ま、待って下さい。そ、それじゃあ、りのもやはり…」


 玲奈は震えているようだった。


 信じられない事が起きた事を共感できる人物に出会ったとなれば、そうなるのが普通だろう。


 りのはそう考えた。


 何故ならりの自身、身体が震えているのだから。


 こんな訳の分からない目にあっていたのは、自分だけではなかったのだ。


 二人は同時に口を開いた。


「異世界に飛ばされたのね」


「コスプレイヤーだったのですね」


「・・・・ハイ?」


「・・・へ?」


 二人はしばらく固まってしまうのであった。

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