ハッピーバースデー(2)

「あんな怒らなくてもいいのに!酷いよ木村

さん!」

左手でスプーンを振り回し、ユリは私に同情

を求める。結局、講義の残り時間は全て説教

に変わり、放課後図書館掃除という特大プレ

ゼントも渡された。

「騒いでたのはこっちだし、仕方ないでし

ょ。早く食べないとカレー冷めるよ?」

同情を払いのけ、ユリを宥めながらフォーク

でパスタを絡め取る。こちらが騒いでいたの

は事実なのだから。

「でも、友達は大切にしなさいって小学校で

習ったじゃん!」

ユリは未だに納得がいかない様子。そこまで

ムキにならなくてもいいと思うのだけど。

「授業は静かに受けましょうとも習ったでし

ょ?」

ユリの反論を軽くいなす。そして水を取りに

席を立ち上がり、少し後ろにある給水器の列

に並ぶ。

「(あの能天気な部分がなければなぁ。言動も

いつも子供っぽいし。)」

ユリの恋愛事情について考えていると、列の

先頭に立っていた。講義で使わなかった分の

脳をフル回転させながら紙コップを手に取

り、水を入れ始める。

「(でもああいう所に惹かれる可能性もある

し、寧ろそういう性格の人が好きって人も。

あるいは……)」

「あ、あのー。」

不意に後ろから声がかかる。見る感じ、優し

そうな一つ下の学生だろう。顔も中々整って

おり、ユリと不釣り合いという感じはしな

い。それどころかお似合いかもしれない逸材

を見つけた。

「はい、どうかしましたか?」

ユリの友達が貧相な雰囲気を醸し出しては、

ユリ自身の品性が疑われてしまう。なのでこ

こは好印象を与えるべく、とても柔らかく返

答を返す。これぞ大人。

「ずっと水零れてますが……。」

前言撤回、確実に悪印象である。はっと手元

を見ると紙コップから零れた水が私の手を濡

らしている。

「ご、ごめんなさい!すぐどきます!」

顔が赤く染まっているのが分かる。急いで手

を拭き、そそくさと踵を返す。嘲笑されなが

らの視線がとても痛い。

息を整えながらなんとか席に戻るとユリは未

だ不満気に頬を膨らませ机に項垂れていた。

「で、木村さんの事は置いといてメンバーは

どうするか決まった?」

持ってきた水を口に含み、冷静を装いつつ話

題を逸らさす。

ユリはゆっくり体勢を戻し、ニヤついた顔で

「優希は私がいればいいんだよね。私だけで

もう十分だって事だよね。」

と、的外れな発言をする。ユリがいた方が良

いのは実際事実であるが、決して2人がいい

とかはない。

「いや、私は大人数が嫌だし、私の家もそん

な広くないからそう行っただけなんだけ

ど.....。」

「そこは棒読みでもいいから、そうだねーと

か言って欲しかったな。」

冷静にダメ出しをされてしまった。私のこの

ような発言をマジレスというのだろう。また1

つ賢くなった所でお望みの言葉を返す。

「あっ、そうだねー。」

「遅いよ!まったくもー。」

やれやれといった表情をしながら、カレーを

一気に頬張る。私も笑みを浮かべてパスタを

食べながら、壁掛け時計を見上げる。

今は12時42分。私が生まれた時は20時31分

なのであと8時間ないくらい。先の事を考え

つつ、一定のリズムで回り続ける秒針を見つ

める。

「…優希?フリーズしてるよ〜?ねえ〜。」

「えっ?あ、ごめん、考え事してた。どした

の?」

「なんか反応悪くない?さっきもそうだけ

ど、寝不足?」

「いや、しっかり眠ってるはずなんだけど

な……。」

ユリの言う通り、確かに最近反応が悪い。す

ぐ何かに意識を集中させてしまう。アスペル

ガー症候群というものもある様だし、後日病

院へ行こうと思う。

「まあ、そういう時もあるでしょ。で、どう

する?」

今、一体なんの話をしていたのかすっかり忘

れていた。先ほどまで人は多い方がいいかも

しれないと思いはしたが具体的に誘う人が思い浮かぶかと言われるとそこまで際立って仲

が良い人が出てこない。

「人に関してはもうユリが決めていいよ。た

だし、ちゃんと私が知ってて尚且つ仲良い人

ね。」

「分かった。声かけてみる。」

カレーを口に流し込み、水を一口飲んだ後に

スマホを取り出す。若干口元が汚れているの

で紙ナプキンを渡し、口元を拭くように促す

とユリは素直に口を拭き、再度人材選びを開

始する。

その光景を静かに眺めつつ、ゆっくり食事を

再開する。

やがてユリは、スマホを耳に当てた。

「(電話?誰に……?)」

「もしもし木村さん?あのさー……。」

「馬鹿野郎!!」

持っていたフォークを机に叩きつけ、スマホ

を取り上げ電源を切る。

反応が悪いはずだった私が繰り出したスピー

ドは、雷のようだった。

現時刻 12:45

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