第1話 ハッピーバースデー(1)

「じゃあ場所は優希の家でいい?」

「えっ?う、うん。大丈夫。」

今日は私、成瀬優希の誕生日。今は今日行う

誕生日会について打ち合わせをしている。

「ついに大人の仲間入りだね、優希。

やっとお酒が飲めるんだよ〜。」

お酒は美味しいんだぞー、と呟く彼女は友達

の松場ユリ。ユリはスマホのメモに明日の事

について色々と書き込むと、何かを思い出し

たかのように話を展開させていく。

「そういえば、20歳になると世界が変わるっ

て言うんだって。」

「そうなの?」

確かに出来ることは広がるけど世界が変わる

は言い過ぎではないかと思いつつユリの話を

聞く。

「優希も20歳になれば分かるって。

それで〜.....。」

「ユリあのさ..........。」

誕生日会を成功させようと精一杯努力するユ

リは容姿端麗、文武両道と高スペックであ

り、裏表の無い性格でとても完璧なのだが、

「松場、うるさいぞ!私語は慎め!」

脳天気なのが玉に瑕。

「ごめんなさーい、木村さん。」

声を荒げて注意する講師を飄々とした態度で

受け流し、淡々と話を続ける。

「それでね、誕生日ケーキは優希の好きなチ

ーズケーキを予約しておいたよ。」

「あー、うん。ありがと。」

そんな事を御構い無しに話を続けるユリに若

干の恐怖を覚えつつ感謝を伝える。

「まぁ、優希の誕生日を祝うのは吝かではな

いしね。私の時も祝ってもらったし。」

ペンダントをチラつかせ、はにかんだ微笑み

をこちらに向ける。そんな大層な事はしてな

いけど、凄い喜んでくれてたのがまだ記憶に

新しい。

「嬉し泣きしてたしね。あの時はびっくりし

たよ。」

「いや、あれは友達にちゃんとしたサプライ

ズされるのは初めてだったの!」

紅潮した頬を手で覆い、言い訳に近い発言を

マシンガンの様に飛ばす。普段の立ち振る舞

いからは考えられない程の動揺をするユリを

見て、笑いを堪える。

「そ、それであと決まってないのは?なにか

あったっけ?」

ニヤニヤが止まらない表情をどうにか抑え、

話を戻す。ユリも手を胸にあて、一度大きく

深呼吸してから、後はメンバーだけとメモを

見ながら伝える。

「私はユリだけでいいと思うけど.....。」

「えー?もう少し人がいてもいいんじゃない

かなぁ?気になる人とかいないの?」

「気になる人?いないなぁ。」

だが確かに誕生日会をするならユリの意見も

一理ある。誰かいないかと顔を上げた途端、

ギョッとし苦笑いが零れる。

「どしたの?そんな顔して?」

私の顔の異変に気付いたユリが、背を向けっ

ぱなしだった黒板側に視線を送ると鬼の形相

でユリの前に立つ木村さんがいた。

「「「..............................。」」」

暫くの沈黙の後、木村さんが口を重々しく開

く。

「随分と仲の良いことだなぁ?松場、成

瀬。」

異様な雰囲気に包まれる最中、木村さんとは

相対的に軽々しくユリが口を開く。

「木村さんも誕生日会、くる?」

真顔で答えるユリに、私の顔は青ざめ、木村

さんは顔を真っ赤に染める。

「行くわけがねぇだろうが.....!」

「そっかー。残念だねぇ、優希。」

再度木村さんに背を向け笑顔を見せるユリ。

今はその笑みが煽っているように感じてしま

うのはきっとこの状況下のせいであろうと願

いたい。

それにしても、ホントにメンタル強すぎる

よ、ユリさん…。

現時刻 11:37

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る