Live.08『新・入・演・者 ~HELLO FROM ANOTHER WORLD. NEW XES-ACTOR~』
ある日のこと。『MARiKA♡チャンネル』にある動画が投稿された。それは結果としてLSB関連のものではあるが、それでも通常の動画よりも多くの再生回数を叩き出す作品となった。
その動画と言うのが──
【グッモーニンアフタヌーンイブニナイっ☆彡】
【今日も女装ウィーチューバー、“MARiKA”でぇーすっ!】
【もしかして初見さんはサムネに釣られちゃった? でも残念、その正体は“男の娘”なのでしたーっ……てねっ!】
【ここまでがテンプレですよー。覚えといてくださいねー】
【とまぁ、冒頭はこれくらいにして、本題の前にやらなければならないことがあります! それはですね、前回のLSBについての謝罪です!】
【とある事情で放送が中止となり、楽しみにしていたみんなの期待を裏切るような形になってしまったこと、ゼスアクター並びにスタッフさんたちを代表して謝ります。本っ当にごめんなさい!】
【前回の生放送からたった一日なのにも関わらず、こうも連続でミスが起こるなんて、ボクも最近ツイてない……】
【でもボクは負けませんよ! 不幸の連続は幸運の前触れって言いますしね! 次からはそうならないよう、ボク自身、そしてスタッフ一同全力をもって防止に努めて参りますから!】
【……はい、以上スタッフさんからのカンペは終わりっ(おい)】
【ここからは本題に入りますっ! なんと、なんとなんとなんとですね! ボクらのLSBに新しいアクターが所属することになったんですよーっ! では、期待のニューフェイス、“エクリエール・リンドバーグ・ノアン”くんです! 別スタジオからの中継でどぞーっ!】
【……はーい! “MARiKA”さんからのバトン、受け取りましたー!】
【皆様、お初にお目にかかります。今し方偉大なる先輩から紹介に預かりました、エクリエール・リンドバーグ・ノアンと申し上げます! 初の男装アクターとして次回からのLSBに参加させていただくことになりました! 名前がちょいと長いので“バーグ”と呼んでください!】
【正直な所、不安ばかりではありますが、視聴者の皆様方からのご声援のほどをと思っております。以後、お見知り置きを!】
【……はい、ということでですねー、なんとLSBに新アクターが増えることになりました! しかも男装! 女の子のパイロット! いやぁ~また華が増えますなぁ!】
【ってか『偉大なる先輩』ってw(照)】
【いやはや、何をおっしゃりますか。わ……自分からすれば“MARiKA”さんは大大大先輩! LSB初心者の自分にとっては敬愛すべき人物なんですから! ほらほら、せ・ん・ぱ・い(ハート)】
【んおっ、何という言葉の響き……! 先輩かぁ……ついにボクもそう呼ばれる日がくるとは……。早速幸運キタ──ッ! って感じ?】
【はいはい恍惚になるのはこれくらいにしてですね、LSB初の追加戦士であるこの自分に質問出来るチャンスを先輩がここに設けてくれるそうなので、早速それに甘えちゃいますよ!】
【質問内容は動画のコメント欄に書いてね。次の動画で質問を返す予定だから。あ、当然だけどあんまり個人情報に触れるような内容はNGだよ? 常識の範囲内でボクの可愛い後輩へのメッセージを送ろう!】
【ではではー、これで今回の動画は終わりってことで! みんなからの沢山の応募待ってるよーん♪】
【次回のLSBでは自分が大活躍!? してもいいんですか? 他の先輩方の出番かっさらっちゃっても大丈夫ですか? いいんですか! では乞うご期待!】
【いやいや加減はしてね!? ランマや百音さん、そしてボクにも出番は残すように! これ先輩からのお願い! では次のLSBまでばいばいっ!】
『MARiKA♡チャンネル』
▷チャンネル登録(35.8万人)
視聴回数8,300,327回
コメント数:15830
〉まさかの新メンバー追加
〉男装キャラとは恐れ入った
〉こマ? 推します
〉LSBって女装集団の集まりじゃなかったのか……(困惑)
〉一体いつから──LSBが女装集団だと錯覚していた?
〉何…………だと…………!?
〉名前からして外国籍なのかな?
〉出身はどこですか!!!!!!!1!!1!!!!
〉かわいい
〉所々本当の一人称が出かけるあたりまだまだアマチュアだな。でも応援するぜ
〉なるほどマリ×バグ……
〉いやバグ×マリだろ
〉MARiKAが受けという周知の事実
〉ちょっと待ってBLじゃないやん! ノマカプやんコレ!?
〉現実のキャラに受け攻め設定はいやーきついっす
〉おれはすき
〉誕生日はいつ?
〉は? マリカとイチャつくなし
〉新キャラごときに嫉妬すんな見苦しい
〉せやな
〉にしても急だな。もしかしてこの前のLSBに関係あるのかも
〉あの黒いドレスみたいなのも気になるところ
〉あれが新キャラの機体なんでしょ
〉まさかスカウトしたのか。ありえる
〉おれも先輩って甘ボで囁かれてぇなぁ~おれもな~
〉マリカスの後輩とかカワイソスwwwついてねぇーなぁ
〉お前ほんとどこでも湧いて出てくるな引っ込んでろよ
〉一周回って好きなんでしょ(すっとぼけ)
〉部屋にマリカのポスター壁中に貼ってたまに舐めてそう
〉ぱんつの色は何色ですか
〉早速常識の範囲外の質問で草
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†
「『せ・ん・ぱ・い』……だってさ、バーグさん」
『ああああ! 動画外でそれには触れないでください! カタリさんヒドいです! あんまりです! 私だってその実すごく恥ずかしかったんですからコレ!』
先日投稿された動画を改めて観返し、悶絶するバーグ。
その様子がおかしくてつい意地悪になってしまう。これが動画用に作った仮初めのキャラクターだとしても、その普段することのない姿を見せつけられて恥ずかしがる姿がとても新鮮であった。
オズ・ワールドとの締結から一週間。その間は度々事件は起こるものの、依然としてエターナルは捕捉出来ず、何も出来ないままの日々を過ごしていた。
だがある時、ウィルフリッドがある提案を提示してきた。それこそが──
「君らのノベライザーを新たなアーマード・ドレスとしてLSBに参戦させたいのだが、どうかネ!?」
というものだった。
LSBの参加。それはカタリ自身喜ばしいことでもあるのだが、とても強大な問題が彼の前に立ちふさがった。
それが服装である。それ自体が仕事でもある鞠華や嵐馬。
だがカタリは機体の稼働に問題が出るほどの強い羞恥心が存在しており、拭いきれない障壁として立ちはだかったのだ。
アーマード・ドレスの特性上、異性の姿格好にならざるを得ないLSBで、男が一人あるべき格好のままなのは違和感がある。仮にそれで通しても今度は視聴者が納得しない。
そこで第二案の提示。それこそが──
「ではバーグ君。君がノベライザー、もとい“ゼスバーグ”のアクターとして“男装”して参加するというのはどうかネ!?」
『いいですねやりましょう!』
二つ返事で了承してしまったのがこの結果ということだ。
そこからはあっという間のこと。鞠華の協力の下、案外ノリノリな様子でことが進んでいき、こうなってしまったのである。
『私だって最初はこんなキャラ設定だとは思わなくて緊張しながらやってたんですよ! いやまぁそれなりに楽しかったですけども』
「だとしてもこれは……うん。僕はいいと思うよ、後輩キャラ。似合ってるかどうかは別として」
『な、なんかどことなく辛辣ではありませんか? カタリさん、そんな感じでしたっけ……?』
妙に毒づいた中辛な評価。普段は温厚な心優しき
それはそれとして、全開にしていた窓からある人物──もとい、鳥類が二人の下へと帰ってくる。
「おやおや、何だか賑やかですね。どうかされましたか?」
「あ、トリさん。どうだった?」
やってきたのはトリ。鳥らしく空を飛んでの社内侵入だ。
彼は戦線締結の前に一行から離れ、ある任務を遂行していた。それはエターナルの痕跡を探ることである。
「はい。ここ数日で起きた事件について、いくつか情報を掴んできましたよ」
『流石トリさんです! ではその情報を……』
優秀なサポーターは今回も有能を発揮。数日間に起きた事件現場から情報を集めてきた模様。
早速情報を共有。オズワールドのとある一室にて一行の会議が始まった。
「被害者のリストです。一見すると無作為に被害に遭っているようにも見えますが、ある共通点がありました。それがこちらです」
『ふーむ、形はどうあれ全員十年前の災害に遭っているみたいですね。これは確かに怪しい』
「災害?」
『あ、この事をお教えするの忘れてました。実はこの世界はですね……』
カタリにとっては初耳となるそれを、バーグは今思い出したかのように説明をし始める。
今から十年ほど前にこの国を襲った天災、人呼んで“
十年という月日と国内外による企業の支援により全体の70%の復元と再開発が完了しているものの、現在も完全ではない。未だに当時の面影を残した地域もある。
そしてそれの被災者は後にある存在を呼び寄せる要因となったいた。それが“アウタードレス”。衣服を模した巨大な敵である。
『被災経験者の絶望やストレスの発生などの諸条件によってアウタードレスは出現します。衣服の形が様々あるのは、呼び寄せてしまった方の願望が具現化した物と推測されます』
「ってことはこの前のドレスも被災者から出来た物ってことか……」
『もっとも倒したところで媒介者となった方に影響はほぼありませんけどね。あ、このことは鞠華さんらには内密に。もしかしたら知らないかもしれないかもしれません。私たちがそれをネタバレするのは禁忌。いいですね?』
ドレス誕生の経緯についてを口止めされ、それに素直に頷くカタリ。
世界のあらゆる機密を守るセキュリティもノベライザーの前には無力。その世界の住人でさえ一生かけても知られることのない情報も知ることが可能であるため、無闇な口外は世界への悪影響を及ぼしかねない。
この話はおそらくその類いなのだろうと察する。重要機密聞いてしまった以上、口に出さないのが介入者特権を持つ者のルールだ。
『……はい。このリストに記載されている人物らを検索しました。どうやらドレスの媒介者となった方とそうでない方がいるようで、ドレスを生み出したか否かは関係なさそうです。手当たり次第に被災者を襲っているのかもしれません』
「となると気になるのは理由ですよね。被災者だけを狙うのに何の意味が──」
その時、けたたましい警報が鳴り響く。トリの言葉をかき消して部屋中に轟く音。
この音が何なのかは理解出来ている。レベッカが事前に教えてくれた、災害の出現を意味する音──そう、アウタードレスの出現だ。
「来たみたいだね。ノベライザー……いや、この世界では“ゼスバーグ”の出番が!」
『そ、そうみたいですね……。ああ、緊張ががが』
「……え? ど、どういうことですか? ゼスバーグとは? そのようなアーマード・ドレスは情報にありませんでしたけど……!?」
思いの外早い出番の到来にやる気立つカタリ。かちかちに緊張するバーグ。そして痕跡調査のためにしばらく二人の下を離れていたトリは何がなんだが分からない様子を見せている。
ノベライザー、もといゼスバーグの華々しいデビュー戦。意気揚々と機体のある場所へと向かって行った。
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