Live.09『【新メンバー】ボクらの新しい仲間! ようこそ、LSBへ!【新機体】 ~ACCIDENTS ARE ALWAYS ABRUPT~』

『ふううううぅぅぅ──……!』

「バーグさん、大丈夫?」

『問題はありません。ただ私自身こういうメディアに出た経験はないので、やはり緊張はしてしまうようです』


 画面の奥で大きく深呼吸をする青の鎧を纏った騎士。それはよく見るとノベライザーの形を模しており、それをバーグが着込んでいる。


 これの他に二着、メディキュリオスと神牙を模したコスチュームもある。本家アーマード・ドレスの形態変化ドレスアップするとアクターの服装も変化するという仕様に対応すべく、今回のために特注して作ったコスチュームだ。


 新アクター“エクリエール・リンドバーグ・ノアン”、そして新機体“ゼスバーグ”として参戦するこの戦い、失敗は出来ないという緊張感が画面越しでも伝わってくる。

 そんな音声から伝搬してくる緊張感を察してか、鞠華たちから通信が送られた。


《バーグさん、リラックスリラックス。いざと言うときはボクらに任せて大丈夫だから!》

《そうだよぉ? バーグちゃんは設定通りのキャラを演じるだけでいいんだからぁ、心配はしなくてもいいんだよ?》


『そう言っていただけるととても心強いです。このリンドバーグ、初陣たるこのLSB、必ずや成功を納めましょう!』

「これじゃあ青の騎士じゃなくて侍なんじゃ……?」


《フッ、本番前に何してんだお前ら……》


 意気込みから感じる謎の和風感に困惑しつつ、通信からは二人の人気アクターの笑い声に、イジられアクターの呆れ半分な笑いも聞こえた。

 緊張もそこそこ、和むパイロット間にまた別の位置から通信が入る。


《皆さん! まもなく本番です。用意は良いですか?》


《ボクはオッケーです!》

《あたしも~☆》

《ああ、いつでも行けるぜ》


「僕らも。ね、バーグさん!」

『ああっ、ちょっと待って下さい最後に設定の再々確認を……! はい終わりました! 私も準備完了です、多分!』


 AI特有の超速読み込みで最終確認を済ませ、アクター全員が準備を完了させる。

 LSB初となる追加戦士を迎え入れた戦い。これがどのような結末になるかは神のみぞ知る。


《では本番まで5秒前! 4、3、2、1──》


 レベッカのカウントが始まり、各アクターには一瞬の緊張が走った。演者たちの気持ちが刹那に切り替わり、LSBのプロとしての顔となる。

 そしてnicoシステムが起動。これにより、操縦席内部の様子は全視聴者の画面へと映し出されることとなる。



《グッモーニンアフタヌーンイブニナイッ☆彡 戦う女装ウィーチューバー、“MARiKA”だよっ! 今日もLSB、はっじまっるよーっ☆》



 〈キタアアアアアア〉

 〈とんでもねぇ、待ってたんだ〉

 〈い き が い〉

 〈これを見るために生きてるってはっきり分かんだね〉

 〈マリカ~~~~すき(真顔)〉



 鞠華のタイトルコールから始まるLSBは、早速無数のコメントによってシステムの画面を埋め尽くす。不特定多数のファンたちの声無き声援と挨拶に戸惑いを隠せない二人。

 これがLSBをする立場側からの視点。観る側とでは全く違う、今までに感じたことのない感覚に、カタリとバーグは圧倒されるばかりだ。


 ステージに立つアイドルの気持ちを味わったところで鞠華と百音、そして嵐馬の登場挨拶が終わる。いよいよバーグらの出番が来た。


《みんな~! 今回からのLSBは特別なのは知ってるよね? ついこの間メンバーに入った新人アクター、バーグくんが参戦するよ!》

《鞠華っち初の後輩ちゃん! いやぁ~わくわくするねぇ♪ あたしも楽しみだよっ☆》



 〈そういえばそうだった〉

 〈男装女子と聞いて〉

 〈ニューメンバーどこ?〉

 〈もう待ちきれないよ! 早くしてくれ!(せっかち)〉



「みんなも待ってる。行こうバーグさん!」

『ひっひっふ──……はいっ! いざ出陣です!』


 タイミングを見計らい、出撃するノベライザー。カメラが回されたのは上空。そこからまばゆい光と共に機体は召喚される。

 一際目立つ青の鎧、顔には堂々『ゼスバーグ』と投影されたバイザーを付けた異界の騎士──“マジックナイト・ゼスバーグ”。それがこの世界で与えられたもう一つの名称。


 LSBに参戦する新機体はそのまま上空から目的地へ向けて降下。そして地面までもう数十メートルとなったところで機体を回転させ、アクロバティックに降り立つ。

 そして今日まで幾度と無く繰り返した練習の成果も発揮する。


『ハローハロー、マイネームイズ“エクリエール・リンドバーグ・ノアン”! 先日の紹介動画に預かりました、自分のことはバーグとお呼び下さい。以後、お見知り置きを! そしてこの機体は“ゼスバーグ”。初の男性型アーマード・ドレスの名は伊達じゃない!』


 自己紹介と共にギラリと輝くバイザー。しっかりと決めポーズをして台本通りの台詞を言う。

 決まった──バーグ、そしてカタリもそう思う。一方で視聴者の反応は……。



 〈ああ!顔に!顔に!〉

 〈自 己 顕 示 欲 の 化 身〉

 〈かつて名前を顔に書くロボがあっただろうか〉

 〈バカっぽくてすき〉

 〈個性強すぎて草〉



『ぬわ──っ! バカっぽいとはなんですかバカっぽいとはっ!? カッコいいですよ!』


《バーグくん落ち着いて、落ち着いて!》


 しかし彼女にとって予想だにもしないまさかの反応だったようで、バーグは文字通り顔を真っ赤にしてコメントに反論していく。

 正直な所、カタリ自身常々感じていた。顔に文字というあまりにも飛び抜けた個性はそう簡単に受け入れられるものではないということを。


 ド派手な登場も自身の個性にかき消される形となって終わり、ふくれっ面のバーグはそのままにLSBへと移る。


 戦いの舞台となるのは十年前の災害跡の瓦礫が未だに散乱する生々しい痛ましさが残る地域。

 地名は千葉の浦安という場所で、近くには遊園地が建てられている。このような惨状が広がっていても、人が多く集まってくる名所でもある。


 そんな場所でのLSB。しかし、ここに現れたはずのドレスはどこを見渡しても見つからない。


《敵は……どこだ?》

《いないなんてことはないだろ。どこかに隠れてやがるんだ》


《目標の識別登録ドレスコードは“クノイチ・コノハガクレ”。どうやら保護色で周囲の景色と同化する能力を持つと思われます。捕捉出来ないのもそれによるものかと。死角から不意打ちを受ける可能性があります。気を付けて!》


 レベッカからのオペレートで敵の情報が僅かながら判明する。

 その識別登録ドレスコードとなったのはそういうことのようだ。忍者のように姿気配を消し、隠密に行動するタイプの模様。


 姿が見えなければ確かに何も出来ない。これまでのメンバーだけであれば苦戦は確実となる相手となるだろう。しかし、ここにはそれを打ち破れる機体がある。


《バーグくん! お願い!》


『あいあいさーです! ──カタリさん、索敵お願いします』

「うん、索敵ね」


 小さく耳打つような小声で指示をもらい、カタリは目を閉じた。

 いつぞやの鞠華との戦い。無数の分身から本物を見つけ出したように、今度はどこにも姿が見えない敵を見つけ出すのだ。

 カタリの願いに機体は最大限応えてくれる。程なくして手前のモニターに今回の敵が潜む場所がどこなのかを映し出す。


『そ・こ・だあああああッ!』


 捕捉した瞬間、ゼスバーグはクナイを瞬時に創造し、投擲した。

 真っ直ぐ直進する武器は透明となっていた“クノイチ・コノハガクレ”へ見事命中。攻撃を受けたドレスは景色に溶ける保護色を解除し、その紺色装束風の姿を現す。



 〈すげぇ。見えない敵に当てやがった〉

 〈アイエェェ……〉

 〈タツジン! ワザマエ!〉

 〈これは期待の新人だぁ!〉



『ふっふ~ん。どうですこの一撃、この性能! ただの個性の塊じゃないのがゼスバーグです!』


 OPの汚名返上と言わんばかりのドヤ顔を決め、誇らしげな様子を見せるバーグ。実際に索敵を行い、武器の創造までしたのはカタリであることは視聴者は一切知る由もない。

 そんな裏側のことなど気にすることなく、戦いは次のステップへと続いていく。


 忍者がモチーフとなっている今回の敵“クノイチ・コノハガクレ”は印を結ぶような仕草をすると、次の瞬間には複数もの分身が現れた。


《あ──っ! ボクの“マジカル・ウィッチ”のアイデンティティを奪ったな! 許せない! ドレスアップ・ゼスマリカ!》


『あちら方も分身ですか。これはいつぞやの戦いを思わせますねぇ。しかし相手が悪かった!』


 鞠華が怒りのドレスチェンジを行い、魔法少女の装甲を纏う。同じく分身をして複数体ものドレスと対峙、戦闘していく。

 こちら側の目を欺き続ける今回の敵。厄介この上ない性質を持ち合わせた相手なのだが、ノベライザーというイレギュラーとはち合わせてしまったのは明らかな不幸としか例えようがなかった。


 カタリの想像の力により本体の位置は割れている。その情報を百音と嵐馬に送り、それのサポートに移る。


《鞠華! バーグのおかげで本体の位置を特定した。お前はそのまま偽物を押さえてろ!》

《頼んだよ鞠華っち~☆ 新しい後輩ちゃんは優秀で先輩としても嬉しいぞぉ☆》


『しっかり戦いの補助も出来るのが最新鋭機の実力です! 道中の分身体もお任せ下さい!』


 ゼスランマとゼスモーネを本体の位置へ送り出しつつ、その道筋を邪魔する分身体を射撃によって蹴散らしていく。オペレートが本職のバーグにとってサポートはお手の物。

 そしてついに本体との位置が近くなる。身の危険を察知したドレスは再び透明化して去ろうとするが、すかさずゼスバーグによるパラライズ弾の命中により麻痺。動きを止められた。


《“抜刀一閃・灘──”》


《あ! 嵐馬君、今回のとどめはバーグさんか百音さんに譲ってあげてください。バーグさんは初戦なので出来ればそちらにと支社長が……》


《あああああ、もう何でいつもそうなんだよ! くそっ、おい星奈林、バーグ! どっちでもいいからさっさとやれ!》


 案の定とどめは許されなかった嵐馬。譲り渡すようにこの場から離れると、いなくなった位置にゼスバーグが入る。

 せっかくの晴れ舞台。ウィルフリッドはノベライザーゼスバーグをただのゲストとして扱うつもりはないらしい。


《じゃあじゃあ、一緒にやっちゃおう! ダブルキックだぁ~☆》


『良いですね! それじゃあ、タイミング合わせましょう! ……カタリさん、詠唱はミュートしておくので何かそれっぽい文章お願いします!』

「え、えぇ~!? 即興で? 出来るかなぁ……」


 突如として発生したミッション。先日の約束通り、こればかりは一人で何とかしなければならない。

 ドレスに現在進行形で迫っている以上、もはや猶予はない。頭脳をフル回転させてこれから放つであろう必殺技を考える。


「ええい、とにかくダブルキック。それでいいんだよね?

『並びながらドレスに迫るゼスバーグとゼスモーネの二機。痺れて動けない隙を突いて、高く飛び跳ねる。宙返りをして構えたキックのポーズのまま勢いよく激突! ドレスはその威力に耐えきれずに貫かれてしまうのであった』──!」


 素人が即興で捻り出した文章にもノベライザーの力は反映される。

 ドレスに向かって併走する二機は、詠唱通り高くジャンプ。そのまま空中で一回転をしてキックの構えを取り、勢いよく蹴り込んだ。


 相手もガードするが、二つの機体から生まれた威力には耐えられない。その紺色の衣服は貫かれ、機能を停止させた。


『映え映えのダブルキック、成功ですね!』


《イェ~イ、そうだね! 今回のラストは後輩ちゃんと一緒に決めちゃった♪ 初めてにしては良い感じじゃない? あたしたち、意外と相性いいのかもね☆》



 〈88888888〉

 〈モネさんやっぱりすてきやわ〉

 〈バーグもナイス活躍やったで〉

 〈モネ姉さんの次に推します〉

 〈モネバグ尊い〉



 コメント欄には無数の賞賛が流れていく。新たなメンバーを改めて歓迎するコメントも少なくない。これを見てかバーグも満足げだ。

 本体を撃破したことにより、分身は消滅。迎撃に勤しんでいた鞠華と嵐馬は二機の下へと向かい、LSBの終わりに向けて準備をする。


《今日はモネさんとバーグくんの二人で決まっちゃいましたね! いやぁ、初戦なのに息ぴったり完璧な同時攻撃。まったく新しい後輩は侮れない!》


『お褒めに預かり光栄です、鞠華先輩。実を言うと自分は戦うよりもサポートが得意なので人の動きを読むのに慣れているんです。なので次からはもっと頼っていただいてもいいんですよ?』


《う~~ん、頼もしすぎて後が怖い。これいつかボクらの出番無くなるんじゃない? 期待の新人くんは才能に溢れすぎているような気がするところで、今回のLSBは終──わりっ! 次回は普通の動画でこの前の質問返信するよー! まったね~☆》


 鞠華の進行で終わりの準備を始めていく中、それは不意に起きてしまう。


《──! 鞠華くん、待って! まだ終わってない!》


《えっ……?》

《何っ!?》


 唐突なレベッカからの通信。それを耳に入れた時には倒れたドレスがいるはずの方向を見やる。

 するとそこには全身の半分以上がぼろぼろの布切れ同然の姿となったドレスが立ち上がっていたのだ。


《野郎まだ生きてたか! しぶとい奴だ。すぐに終わらせるぞ!》

《合点承知ー! 綺麗にLSBを終わらせなかった罪は重いぞっ☆》


 あの一撃を受けてまだ倒れていなかった。このまま取り逃がしてはいけない。

 すぐさまエンディングを中断して戦闘に戻るが、相手は再び透明化を図って姿を消してしまった。


《しまっ……、待てこのぉっ!》


『私としたことが……カタリさん!』

「うん。そのまま真っ直ぐ進んでる。相手が瀕死なのは変わらずっぽい──って、待って。何か別の何かが来てる!」


 その反応を捉えた途端、すぐにそれは現れた。



《“チミドロ・バンテージ”》


《なっ……!?》

《これはっ……! まさか!》


 ドレスを追う百音と嵐馬。それを妨害するかのように、鈴の音ような声と共にどこからか現れたが二機にまとわりつく。

 それだけに止まらず、今度は空からもう一つの反応。見上げると快晴だったはずの空はいつの間にか曇天の空へと変貌を遂げており、巨大なエネルギー状の剣にも似た得物を持った謎の機体が宙を飛んでいるのを確認出来た。


『これは……非常にまずいです! カタリさん、ノベライリングを! 急いで!』



《──“裂キ誇ル黒薔薇ノ荊ルフトシュトルム・フェアヴェーエン”!》



 そんな声がここにいる全てのアクターの耳に届く。そして──

 浮遊体が持つ剣が展開された刹那、巨大な暗黒の稲妻に襲われる。音すら遅れて聞こえてくるような、そんな絶大な威力を持った混沌の力が振るわれた。

 辺り一帯を灰燼とせんばかりの一撃。瓦礫の山は塵芥と化し、あまりにも広大な煙となって周囲を黒灰色に染め上げる。


 天災級の威力を持った不意打ち。それに成功させたのは──この世界に存在するもう二機のアーマード・ドレスによるもの。



《アーッハハハハッ! 作戦大成功★ 今度こそやってやったわ! ざまぁないわ、マリカスぅ!》



 高笑いする謎の声。この不意打ちに成功した事実に喜びを顕わにするのは、傘型の武器を開き、あたかもメリーポピンズを思わせる動きでホバリングする黒のドレスからだ。

 かの機体の名は“ローゼン・ゼスタイガ”。アクターは飴噛大河あめがみたいが

 その目下、今し方の広範囲の技を完璧に回避し、無傷なままでいる純白の機体。その名を“ミイラ・ゼスシオン”。


 突然の乱入者らによる妨害は浦安の瓦礫地帯を一瞬にして吹き飛ばした。未だに舞い散る煙塊を地上から眺めるゼスシオンだが、すでに変化が起きていることを察していた。


『不意打ちとは感心しませんね……。“ネガ・ギアーズ”のお二方』


《なっ……、あれがタクミが言ってたニューフェイス? あんな技持ってるなんて聞いてないんだけど!?》


 通信から聞こえる驚きの声。それもそのはず、砂煙が晴れて視界に映る光景は、無惨にも破壊されたアーマード・ドレスのはずだった。

 だがそこにあったのは蛍光レッドの巨大な皮膜と二つの魔法陣に守られた四機の無傷な機体。塵芥が完全に晴れると六つに及ぶ自立稼働の兵装が防御膜を解き、持ち主の下へ戻る。


 ゼスバーグノベライザードレスノベライリングが一つ、“ニアフューチャーズ・マシンメディキュリオスフォーム”の固有兵装スレイブビットと“マジカル・ゼスマリカ”の防御壁がゼスタイガの攻撃を無にしていたのだ。


『お二方の噂は兼ねてより聞いております。自分の晴れ舞台にまで妨害しに来たことを悔やみながらお帰りいただければと』

「なんか怖いよ、バーグさん……」


 画面越しにでも伝わる初舞台の妨害という悪事に対して沸き起こっている怒りの感情。真の操縦者たるカタリは少しばかり恐れるのであった。

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