第47話 ゴブリンの集落とオークキング

 

 四十七



 ボク達に助けを求めて来た山賊さん達を、逃げない様に両手と腰を縛って全員を繋ぎ、ゴブリン達が凍り付く場所へと向けて歩いてますが、さすが山賊さん達が根城にしてるだけあって、その場所は旧街道から外れた山林の奥地にありました。



「お前らの話は本当だったのか……!」


「だ、だから言ったじゃねぇかよぉ! ほ、ホントにこの先に行くのか……?」



 ゴブリンキングが凍り付く場所は、山賊さん達がアジトとしてる洞穴の近くらしく、驚く事に、山賊さん達はゴブリンキング達と共存してたらしいです。だからこそ、目の前で氷漬けにされて行くゴブリンキング達を見た山賊さん達は、次は自分達だと怯えた訳ですね。


 しかし、運が良かったですね、山賊さん達は。

 魔力探知で分かっていたから山賊さん達が犠牲になる事は無かったですが、もしもゴブリン達との仲間意識が強くて結界に突っ込んでたら、ボクが結界を解除するのも間に合わずに氷漬けになっていた筈です。

 あ、でも、この山賊さん達が人を殺して金品を強奪してたならば、いっその事結界に突っ込んで死んだ方が良かったですかね?

 まぁ、それはこの先調べられて分かる事ですし、学園の生徒であるボクが心配する事でもないですね。人間の法で裁いてもらうです。


 それはさておき、山林の中にチラホラと氷漬けゴブリンの姿が目に入って来ました。どのゴブリンも、まるで自分が死んだ事さえ気付かないといった表情のまま凍り付いてます。中には、歩いてる最中の片足を上げた状態のゴブリンもいますね。

 山林の中に広がるその光景は、さながらかつての世界の箱根の森美術館の様です。……行った事は無いので、写真でしか見た事なかったですが。



「原因は何だ? 魔物が減るのはありがたいが、もしも人間が犠牲になる可能性があるなら、そいつを調べなきゃならん!」


「そいつが分かったら、俺たち山賊は逃げねっすよ!?」


「お前たちには分かんなくても、冒険者である俺には分かるかもしんねぇだろ? ……このまま真っ直ぐで良いのか?」


「ああ、そうでさぁ。もう少し行くと大きな岩があって、その岩に俺たちのアジトの洞穴がありやす。そのアジトを正面に見て左……つまり、トキオ側に進んだ辺りにゴブリンの集落がありやして、後は話した通りでさぁ」



 進むごと……ボク達からすれば戻る方向ですが、とにかくそちらに向かうごとに氷漬けのゴブリンの数がだんだんと増える中、山賊さん達がアジトとして利用している洞穴が現れました。洞穴の入口付近にもゴブリンの氷漬けオブジェがあり、山賊さん達とゴブリン達が本当に共存関係にあった事を教えてくれます。

 あ、洞穴の中で氷漬けになってるゴブリンも居ますね。ボクの結界から逃れようと洞穴に逃げたのは良かったものの、逃げ場を無くし、結局氷漬けとなったみたいです。


 しかし、山賊さん達……本当に運が良いですね。


 ボクの結界が山賊さん達のアジトを通ったのは、恐らく昨日の夕方くらいです。そしてそのまま夜を明かし、朝を迎えました。

 そうなると、ボクの結界は当然この辺りに留まる事になり、結果、ゴブリン達は結界に触れたり、逃げたりしながらも氷漬けとなり、そこへアジトに戻って来た山賊さん達が次々と氷漬けにされていくゴブリン達を見て、恐ろしくなって逃げた。

 しかし山賊さん達は、一旦はその場から逃げたものの、山奥に向かって逃げた為、助けを求めるなら街道だろうと戻って来た所で、ボクが山賊さん達の存在を魔力探知で知り結界を解除した……って所ですね。


 そう、ボクが推理してる間にも歩き続け、ボク達は目的のゴブリンの集落へと辿り着きました。



「一際デカい建物の前に居る……凍ってるのは確かにゴブリンキングだな。それに、ジェネラルやリーダーも多数……。集落全体のゴブリンの総数は500体以上は確実か」



 ゴブリンの集落は、山を切り開いた山間の村といった物でした。そう、正に村です。

 建物も少なく見積もっても100棟以上あります。一棟につきゴブリンが5体から10体暮らしてたと仮定すれば、ボクの魔力探知での数とも一致するので間違いないでしょう。

 目的の一つでもあるゴブリンキングの死の確認は、一際大きな建物の前で確認出来ました。

 まだ遠目でしか確認出来てないので、これから近付いて詳しい死因や状況検分を行う必要があると判断したレイド先生は、その一際大きな建物へと近付いて行ったです。レイド先生の言葉はそのタイミングで呟かれたものでした。

 そのレイド先生の後を、カルガモの親子の如く山賊さんたちが続きます。

 縛られた山賊さんたちのロープを握ってるレイド先生がそちらへと行くので、当然山賊さんたちも行く他はないですね。となれば、山賊さんたちの動向に注意を向けてるボクたちも自然とその建物へと向かって歩き出しました。



「俺、初めてゴブリンの集落ってのを見るけど、人間の村と変わらねぇんだな」


「確かにクリスの言う通りですね。だけどドワーフの僕としては納得いかないですね。もっとしっかりとした建物を建てて欲しい所ですよ」



 恐らくゴブリンキングの城……のつもりの建物へと向かって歩いてる時、ゴブリン村の様子を見回していたクリス君とノルド君でその様な感想を述べていました。ボクとしてはクリス君の感想には共感を得ますが、ノルド君の感想には共感出来ないです。……ノルド君、人型とは言えゴブリンは魔物ですよ? 建物を建てる事だけでも凄いと思うです。



「猫っ子一匹見ないですぞ……」


「当たり前ニャ! むしろ居なくて良かったニャ……! ゴブリンは悪食ニャ、猫が居たら確実に餌として喰われてるニャ!」



 クリス君とノルド君で建物の話をしている一方、ネコーノ君とミサトちゃんで猫の話をしてました。しかしネコーノ君、そこは人っ子一人って言うのでは?

 ネコーノ君の表現はともかく、ミサトちゃんの言う通りですね。ゴブリンは何でも食べる悪食で知られてますし、だからこその繁殖力です。他種族の雌や人間の女性を苗床として繁殖するので、嫌いな魔物ナンバーワンですけど。

 しかし、だからこそこれ程の集落のゴブリンが死滅したのは良かったですね。魔力探知でこの集落に人間が居ない事は分かってましたが、これ程の数のゴブリンが集落を築いてたとなると、かなりの数の女性が犠牲になった事が分かります。


 現に……



「む? この土の山は何だ?」


「それは……人間の墓ですぜ、レイドの旦那。あっしらは山賊……今までにそれこそ数多くの人間を襲ってきやした。当然、女の数もかなりになりやす。あっしらが楽しんだ後はゴブリンどもに提供してたんでさ。その後はゴブリンどもの子供を産まされ続け、発狂し、死んだらゴブリンが肉を食べて、残った骨をあっしらがあそこへ埋める訳ですぜ」


「――ッ!!!! お前ら……!」



 ……レイド先生と山賊頭との会話でそう言ってますし。


 と言うか、殺っちゃっても良かったですね、この腐れ山賊どもは。むしろ今からでも遅くはないと思うです。

 ですがみんなが居る以上、ボクが直接殺すのは出来ないですし、そんな姿をミサトちゃんには見られたくないです。

 しかし、この怒りをどうすれば……。


 ――ッ!!!?


 怒りの矛先をどこに向けようかと思っていたその時、ボクの張った結界内に突如として強い魔力反応が現れたです。魔力の大きさからすれば、恐らくオークの群れのリーダーだと思うです。

 ですが、どうやってボクの張った結界内に侵入したんですかね? 例えオークキングだとしても、ボクの結界『氷結結界フリーズバリア』に触れればたちまち全身が凍結して即死のはずです。実に不思議ですね。


 オークが結界内に現れたのは不思議ですが、結果としてはオーライです。このオークに山賊たちを始末してもらうとするです。

 オークは豚頭の魔物という特性上、やはり豚さんと同じく鼻が利くです。400m程離れた場所に居ますが、ボクたちの匂いに気付いて直ぐにこっちに来るはずです。あ、動き出しました。

 後は山賊どもを盾にすればオッケーですが、レイド先生が少し……いや、思いっ切り邪魔ですね。



「レイド先生!」


「……何だ、ユーリ? 今の俺は機嫌が悪い。用事なら後にしてくれ……!」



 腰に佩いた剣に手をかけ、今にも抜き放ちそうなレイド先生。気持ちはすっごく良く分かるですが、とにかくこっちに来てもらわないとレイド先生も巻き込まれてしまうです。


 となれば……



「レイド先生! あそこで何かが動いた気がするです……! もしかしたら生き残ったゴブリンジェネラルかも……」



 ……こんな些細な嘘も許されますよね。


 ゴブリンキングは群れの中に常に一体しか存在しませんが、ジェネラルクラスは何体も居ます。そしてジェネラルクラスの強さはレイド先生にも匹敵する強さなので、その名前を出せば否が応でもレイド先生はこちらに来ざるを得ません。何故なら、先生という立場である以上、ボクたち生徒の命を守る為に行動する事が義務付けられているからです。



「何だと!? 本当か、ユーリ! どこだ! どの方向でそいつを見た!?」



 予想通り、レイド先生は山賊どもをその場に残してこっちに来てくれたです。



「あっちです! あそこの木陰ら辺に何かが動く影が見えたです!」


「分かった……! 俺は様子を見てくるから、お前らは山賊どもが逃げない様に見張ってろ!」



 そうボクたちに指示を出したレイド先生は、剣を抜き、ボクが指さした方へと向かって行きました。

 後はオークの残党が上手い事山賊どもを殺してくれるかですが……



『ブキイィィィッッ!!!!!!』


「な、何だ!?」

「この声はオークか!!!?」

「お、おい! オークだ! オークが出たぞ!」

「た、助けてくれ!」



 ……ボクたちと山賊どもの前に姿を見せたのは、身の丈が3mを超える『オークキング』でした。全身を金属鎧に包み、その手には巨大な戦斧が握られてます。

 よく見ると、金属鎧に土くれが付着してますね。という事はなるほど、土の中に潜ってボクの結界をやり過ごしたって訳ですね。

 確かに結界は土の中にまでは張ってなかったですが、意外と頭が良かったんですね、オークキングは。瞬時に結界の欠点を見破るとは思いませんでした。……手下を犠牲に見付けたのかもしれないですが。


 オークキングの頭の良さはともかく、これならば何も心配せずに山賊どもは皆殺しですね!


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 魔物名:オークキング

 種族名:豚鬼族

 ランク:Aランク

 特徴:オークを束ねる、オークにとっての絶対の象徴。体長は3mを超え、その膂力は人間の頭を軽く握り潰す程。

 長く生きたオークが、多くの栄養と魔力を得た末に『リーダー』『ジェネラル』を経て進化出来る存在。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


『ブフゥゥゥ! ブフゥゥゥ……! ――ブガァァァッ!!!!』


「ひいぃぃぃ……ッ……!?」

「や、やめ……ッ!!」

「ぎゃあああああああああッ!!!!!!」


 ボクたちの目の前に現れたオークキングは怒髪天を衝く咆哮を上げた後、その手に持つ巨大な戦斧を振り上げ、そして山賊どもへと向けて横薙ぎの軌道で振り抜いたです。3mを超す巨体ゆえのさすがの膂力ですね。

 ロープで全員が繋がれた状態の山賊どもにオークキングの攻撃を避ける暇など無く、全員が正にゴミの様にあの世へと旅立って行きました。

 今までの悪逆非道の数々を思えば……とは言っても、ボク自身山賊どもが何をしたのか詳しい事は分からないですが、とにかく断罪は為されたという事です。


 という事で、後はオークキングをサクッと殺るだけの簡単なお仕事です。

 山賊どもを皆殺しにするというボクの目的を立派に果たしてくれたので、オークキングにはそのお礼を兼ねて、苦しまずに一瞬であの世に送ってあげるです。



「ユーリ! 何を前に出てるんだ! 下がれ! 下がってレイド先生を待つんだ!」


「そうです、ユーリさん! 僕とクリスがあの大きなオークの足止めをするので、ミサトさんと一緒に後ろに下がって下さい!」



 むぅ。クリス君に肩を掴まれて後ろに下げられてしまったです。これでは【双刃剣ブラフマー】を出しての攻撃が出来ないです。見えない真空斬を放とうとしてたのに。



「二人だけじゃ無理だニャ! あたしも牽制に参加するニャ!」


「僕も華麗な魔法で援護しますぞ! 『土の山猫ソイル・ワイルドキャット!』」

 ――にゃあ〜〜〜ごぉぉぉ!!


『ブフゥゥゥ! ――ッ!? ブキイィィィッ!』



 クリス君とミサトちゃんでオークキングの目の前を目まぐるしく移動して牽制し、ノルド君が隙を突いてバトルハンマーでその足を攻撃します。大したダメージは無さそうですが、その痛みに気を取られたオークキングはネコーノ君の放った土の山猫によって完全に足を取られ、そのまま転倒したです。


 しかし、何故にこうもボクの邪魔をするのか……なんて事は思わないですよ? みんな、強大な魔物から少しでも生き残る為に精一杯の努力をしてるんです。となれば、ボクだってみんなに合わせるです!



「ボクだってみんなに負けない所を見せるです! 『土の穿孔杭ソイル・パイルバンカー!』」



 転倒したオークキングへと向けて放ったボクの硬質化した土の円錐は、全身を金属鎧で包むオークキングの土手っ腹を貫き、即死となる一撃になりました。……頭を一瞬で潰した訳じゃないので即死では無く少し苦しんだかもしれないですが。


 ともあれ、これでブダイ山での面倒事は全て解決の筈です。棲息してた魔物は全滅ですし、山賊も駆除出来ました。

 後はゆっくりとレイド先生が検分するのを待って、セダイへと行くだけですね!



「お、お前ら……!? お、オークキングを連携とは言え瞬殺とは……」



 山賊どもの断末魔の悲鳴と戦闘音に慌てて戻って来たレイド先生が呆然と呟いてますが、とりあえずは一件落着ですよ?


 しかし、本当にスッキリしたです♪


 こうしてボクたちは、予想外の出来事とは言えオークキングを倒し、セダイに着いた時に騒がれる事になるのでした。

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泣き虫破壊神と女神達 桜華 夜美 @yami_haluka

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