第45話 山道にて

 

 四十五



「……『フレイム!』」



 ブダイ山の旧街道を進み始めて直ぐに出没したゴブリン五体をそれぞれボク達五人が仕留め、その後レイド先生の指示によってクリス君達が一箇所に集めたゴブリンの死体を、ボクは炎の魔法で燃やしました。

 いつも通りの炎の魔法を放ったつもりでしたが、炎の色が少し黒い気がするです。ゴブリンを焼いたからですかね? 肌の色も喑緑色と汚い色ですし、炎にもその色が出たのかもしれません。


 そんな事を思いながら炎を見つめてましたが、ゴブリンが骨まで燃え尽きた所で、レイド先生がボクに話し掛けて来ました。



「……本来ならもっと時間が掛かるもんだが、僅か10分程で燃やし尽くすとはな。ユーリ、お前の魔力は相当なもんだな……! マイアが言ってた意味が分かったぜ」


「こ、これくらい普通です……! マイア先生が何と言ってたかは知らないですが、ボクの魔力はそんなに凄くないです!」



 だって、魔力測定器だとゼロですし。



「謙遜するな! 俺は褒めてるんだぞ? 変な魔法を使ったのはいまいちよく分からんが、お前の魔法はみんなの窮地を救う事が出来る筈だ。これ程の高威力なんだからな! 但し、フレンドリーファイアはするなよ?」


「し、しないです、フレンドリーファイアなんて!!!?」


「ハッハッハッハッ! よしっ! 出発だ!」



 冗談にも程があるです!


 もしもボクがフレンドリーファイアなんてしてしまったら、死ぬ程泣く自信があるです。むしろ、死ねます。涙を流し過ぎた事によって体中の水分を失う事で。……まぁそうなる前に完全回復しますけど。


 ともあれ、まだ山を登り始めたばかりのこんな所でいつまでも足を止めてる訳にもいかないです。こんなペースじゃ山を越えるのに三日掛かる所が、四日、または五日も掛かってしまうです。さっさと進むです!



「またか!? これで何度目だ! ブダイ山にこれ程ゴブリンが居るなんて聞いてねぇぞ!!」


「どうするんすか、レイド先生!?」



 ……進めませんでした。


 どういう訳か、最初のゴブリン五体との戦闘の後、少し進んではゴブリン五体が現れ、ボク達がそれを倒して進むと、またゴブリン五体が現れました。ブダイ山を登り始めてから、まだ二時間しか経ってないと言うのに、既に20体目のゴブリンがボク達の前に現れました。レイド先生の言葉でも分かる通り、これは明らかに異常事態です。



「お前らは慣れないゴブリンとの戦闘で体力が辛い筈だ。ここは俺に任せろ! 『五月雨斬り!』」


「ッ!? これがBランクの力か!!」



 苛立つレイド先生はボク達に休んでろと言った後、スキルを使って一瞬でゴブリン五体を屠りました。そのスキルは正に五月雨。梅雨時に延々と降り続く雨の様な斬撃がゴブリンへと降り注いでいました。あっという間にゴブリンは細切れの状態です。目の前でその実力を見せつけられたクリス君は、レイド先生の卓越した力に驚いてますね。


 しかし、中々やりますねレイド先生も。ボクも一瞬で倒す事は可能ですが、力を隠してるのにそれは出来ないです。

 万が一、レイド先生が何かで動けなくなる様な事態になった場合、その時はボクも力を出し惜しみしませんが、出来る事なら隠したままでいたいです。バレたら面倒なので。



「次にゴブリンが出没したらまた俺が殺るが、その次はまたお前らで対処しろ! ただ、あまりにもゴブリンが出没し過ぎる様なら、山を降りて迂回路を進むぞ!」


「「「「「はい!!!!」」」」」



 ゴブリン五体をあっさりと屠った後、レイド先生はそう指示しました。先生である以上生徒の命を優先するのは当然です。ボク達はしっかりと返事しました。


 その後、ボクがゴブリンの死体を焼いて処理してから出発し、少しした頃にミサトちゃんがボクに話し掛けて来ました。



「ねぇ、ユーリちゃん」


「何です? ミサトちゃん。おトイレです?」


「ち、違うニャ! スラさんを借りてるからおトイレは大丈夫ニャ! ……そうじゃニャくて、ゴブリンがたくさん出るって変だと思わないかニャ? まるで、古の魔王が現れた時みたいニャ」


「古の魔王……」


「そうニャ。すっごく昔ニャんだけど、ハポネ王国を『ベリアル』って魔王が襲ったらしいニャ。その当時はトキオが王都だったみたいニャけど、ベリアルのせいで壊滅的被害を受けて、それでセダイへと王都を移したらしいニャ。でも、ベリアルはトキオを壊滅させた後、忽然と姿を消したらしいニャ。不思議だニャ……。まぁ、それは置いといて――」


「置いとくのかーーい! ……つ、続きをどうぞです……」



 思わずミサトちゃんにツッコミを入れてしまったですが、獲物を狙う肉食獣の様な目でジロって睨まれたです。……ちょっぴり出ました。スラさん、いつもありがとです!



「――それでベリアルが消えた後、その恐ろしい魔力のせいニャのかは分からニャいけど、ハポネ王国中に魔物が大量発生したらしいニャ。その時もゴブリンの大量発生から始まって、次第に強力な魔物までもが次々に現れたっていう話ニャ。まさか、魔王ベリアルがまた現れるとは思わニャいけど、ニャんだか嫌な予感がするニャ……!」



 なるほど。この国の昔に、そんな事があったんですか。

 しかし、トキオが壊滅なんて信じられないです。当時の事なんて当然ボクには分からないですが、今の栄えたトキオを見るに、かなり話を盛ってる様な気がするです。話は盛った方が面白いですからね。


 でも、ベリアル……ですか。


 どこかで聞いた事ある様な、無い様な? まぁ、忘れてるって事はどうでも良いって事ですね!

 今はそれよりも、このブダイ山を越える事に集中するです。ボク、越えるつもりですよ? このブダイ山を。

 せっかく、ボク達Sクラスの実力を他の生徒に示す事が出来ると言うのに、引き返したんじゃ情けないですし、恥ずかしいです。それに、ゴブリン如きが何だって言うんです? ボクが軽くぶつかっただけで死んでしまう様な弱い魔物を避けて通るなんて、破壊神としてのボクの沽券に関わる事態です。


 あれ……? 今、ボクは何て言ったです?


 まぁ、それはいいです。とにかく、ゴブリンがたくさん出没したら戻ると言うなら、ボク達の前に現れる前に倒せば良いだけの話です。簡単な話ですね!

 幸いな事に、ボクの魔力探知はブダイ山を丸々カバーする程広大です。さっきまでは半径100m程に抑えてましたが、こうなったら全開にするです。蜘蛛の子一匹も逃さないですよ? ……G虫は見逃しますけど。


 という訳で、魔力探知を広げた結果……ブダイ山にはかなりの魔物が居る事が分かりました。小さな魔力はゴブリンなのですが、そのゴブリンの数はおよそ1000体程。それと、小さい事は小さいですが、ゴブリンよりは大きい魔力が200体程。あ、ゴブリンよりも大きい魔力はオークですね。

 その二種類の魔物以外は居ない様ですが、数が数だけに、恐らく集落を築いてるのかもしれないです。となると、それぞれキングクラスの魔物も居る筈ですね。恐らくですが、それぞれの魔力の集まりの中に、一際大きな魔力があるのはたぶんそのキングクラスだと思うです。正真正銘のゴブリンキングやオークキングでは無いと思いますが、集落を率いているのがその二体だと少し厄介です。統率力が半端ないですからね。

 まぁ、ボクが居る以上問題ないですが、キングクラスはレイド先生でも倒せるかは分からない程の強敵です。ボクが居て良かったですね、レイド先生!



「さて。どの様にしますかね? 広範囲殲滅魔法が手っ取り早いですが、みんなにボクの力がバレちゃうです。となると、やっぱり結界ですかね? 一定の距離で結界を張れば、ボク達の目の前には現れなくなるです。でも後々の事を考えると、ゴブリン達を間引いておいた方が良い気がするですね。……じゃあ、あの結界魔法にしますか!」



 ボクが使おうとしてる結界魔法は、試練のダンジョン『5』の扉の先に広がってたマグマダンジョンにて使った魔法です。

 あのダンジョンのボスは『フレアジャイアント』と言って、全身がマグマで構成された恐ろしい炎の巨人でした。あ、四大精霊の一人、炎の精霊サラマンダーの『マンダ』と契約したのもあのダンジョンです。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 魔物名:フレアジャイアント

 種族:古代巨人種

 ランク:SSランク

 特徴:全身がマグマで構成された、体長20mを超える炎を司る巨人。火山の奥深くに棲むとされ、人の目で確認されたのは数回程。一説によると、【タイタン】という巨大な神を構成する一部とも伝えられている。弱点は水や氷属性だが、生半可な威力では火に油を注ぐ様なもの。一層フレアジャイアントを構成するマグマを活性化させるだろう。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 ホント、暑くて……熱くて大変でした。『5』の試練は。主に汗臭くなったからですが。


 ともあれ、そのマグマダンジョンで使った結界魔法、それは――



 ☆☆☆




『4』の扉の試練で【神龍】を吸収した所で現れた出口となる扉を抜け、ボク達は拠点としている『分岐の間』へと戻って来ました。

 いやぁ〜、とんでもなく巨大な神龍が突っ込んで来た時は、ボクも死んだと思いましたね。まぁ、神龍が光の粒子の大瀑布になったから無事でしたが。ですが、思わず全部出し切りましたよ! スラさん、大活躍!!



「ユーリ様。次はどうなされるので? 続けて次の試練に挑むのか、はたまた、一旦休みなさるのか。拙者は勢いがある内に進むが良いと判断致しまする」


『ワタシはどっちでもいいよー? あ、でもー、次の試練は『マンダ』が居る筈だからー、早く行った方が良いかもねー?』



 分岐の間で一度ゆっくりしようと思ってたボクに、シュテンと水の精霊ウンディーネの『アクア』がそう言って来ました。と言うか、既に『5』の扉の前でスタンバってます。



「……休んじゃダメですかね? あ、行くです! 行かせてもらうです!!」



 休んで良いかと二人に訊いた所、二人は笑顔のまま無言でボクを見つめて来ました。ニコニコとしてますが目は笑って無く、二人の威圧感はハンパないです。出したばっかりなのに、半分程出ました。ホント、スラさんには助けられてます……!


 そうして抜けた『5』の扉の先にはマグマの海が広がってました。言葉通りのマグマ、つまり溶岩です。扉の周りは不思議な結界に覆われている為に熱さは感じないですが、先ずは熱さ対策をしなければ進む事も出来ないです。



「アクアは問題なく進めるです?」


『当然よ! 無理!!!!』


「ですよねー! ちなみにシュテンは……?」


「ふっふっふ! 良くぞ訊いてくれ申した! このくらいの熱さ、このシュテンめにはぬるま湯に浸かった様にしか感じませぬ!」


「……ちょっとだけ結界から出てみて?」


「容易い御用! ……ッ!? 拙者、急用があるのを思い出したでござる。それでは、これにて御免!!」


「どこに行くです、シュテン? ……素直に無理と言えばいいです」


「面目ござらん……」



 マグマダンジョンは、のっけから躓きました。やはり、熱さ対策をしない事には進む事も出来ません。

 そんな時に閃いたのが『氷冷結界』です。マグマの熱さを完全に遮断する、空気を凍らせる程の冷気で結界を張れば、暑い事は暑いですが、進む分には問題無く進めます。暑いと言っても、数千度のマグマの温度を考えれば、結界内の35度の気温は快適そのものです。一定の暑さ寒さを無効にする【女神の羽衣】を着ているボクは、完全に通常通りになりました。


 という事で……



「『氷冷結界コールドバリア!』さ、進むです!」


「さすがユーリ様! これくらいの暑さならば、拙者にも耐えられまする!」


『うーん……快適〜♪』



 ……快適な環境を整え、マグマダンジョンの攻略を開始しました。一面マグマの海と言ってもしっかりと通路はあり、その通路を通って進みます。どこぞのゲームじゃあるまいし、さすがにマグマの上をダメージ覚悟で歩くなんて事は出来ないですよ?



「『氷の魔法剣アイスソード!』」


『『『ギャワオオオォォォォン!!!!』』』



 マグマダンジョンにもやはり魔物は棲息してるみたいで、通路を進んでいると度々襲って来ます。今、氷の魔法剣で倒した魔物は『ラーヴァウルフ』と言って、マグマの中に巣を作る魔物です。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 魔物名:ラーヴァウルフ

 種族名:魔狼種

 ランク:Bランク

 特徴:マグマに棲息する体長2m程の狼の魔物。マグマの熱さを耐える事の出来る泡状の結界を張っているが、ラーヴァウルフ自体も熱に高い耐性を持つ。弱点は氷属性。

 素材としてはその毛皮が重宝されており、マグマに棲息する事から炎耐性に優れたマントなどに加工されている。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 ラーヴァウルフを倒しながらマグマダンジョンを進み、地下へと進むスロープを降りた所で『マンダ』を見付けました。そこは、冷えた溶岩が固まって出来た溶岩石で出来た広間の様な場所です。



『あー! マンダ、見っけ〜!!』


「ど、どこに居るです!?」


「拙者にも見えぬぞ、アクアよ?」



 マンダを見付けたと言っても、ボクとシュテンの二人はどこに居るかの見当も付かなかったです。だって、黒い冷えた溶岩石がゴロゴロ転がってる様にしか見えないですし。



『オレっちの名を呼ぶ甲高い声は……アクアじゃねえか!』



 転がってる溶岩石の一つが動き出し、犬の唸り声みたいな声を出します。どうやらそれが、アクアの言うマンダみたいですね。



『うん、久しぶり〜! あの方の言ってたユーリ様を連れて来たよ!』


『マジかっ!? 良しっ、さっそく契約すっぞ!!』


「そ、その前に、マンダは本当に炎の精霊ですかね? どちらかと言うと、岩の精霊にしか見えないです」


『何だと!? むぅ? そっか、依代のまま動いてたっけ。ヌリャアアアァァァ!!!! これでオレっちが炎の精霊だって分かっただろ?』


「マグマで出来たワニさんですか――ッ!!!!!!」



 黒い溶岩石から炎が噴き出し、その炎が床でドロドロとしたマグマの様になると一つの姿へと変わりました。その姿は、正にマグマで出来たワニ。体長5mを超える巨大な炎のワニがボクの目の前に出現したです。



『契約の呪文は分かるよな? 呪文を唱えながらお前の血の一滴をオレっちによこせ! それで契約完了だ』


「分かってるです! アクアにしっかりと教えてもらったです! では、さっそく……!」



 ボクは無限収納出来る指輪の【黒神】から小刀【無銘】を取り出し、その切っ先で指に傷を付けて血を一滴垂らしながら呪文を唱えました。



「『古よりの盟約に従い、我……ユーリの名のもとに契約せん。主の名は【ユーリ】、下僕の名は【マンダ】。命を捧げよ――召喚契約サモン・コントラクト!』」



 呪文を唱え終わった瞬間、ボクの指先から垂らした血はユラユラと揺れる炎に変わり、そしてフッと消えました。アクアとの契約の時と同様、ボクの指先の傷は炎が消えると同時に治ってます。精霊との契約は二度目ですが、本当に不思議ですね!



『よっし、契約完了だ! これからよろしくな、ユーリ様!!』


「よろしくです、マンダ!」


『――って、何だと!!!? オレっちの力が吸われるっ!?!?』


「こ、これは……! 拙者の身体に新たな力が!!!!」


『だ、ダメだ……! 一旦精霊界に戻らねぇと! じゃ、ユーリ様! オレっちが必要な時は喚んでくれ! あばよっ!!!!』


『やっぱりマンダもなったのねー。ワタシだけじゃなくて良かった♪』



 マンダの身体は次第に色を無くし、ただの冷えた溶岩石になったです。どうやらマンダは精霊界に戻ると、その身体は溶岩石として残るみたいです。巨大なワニの形なので、オブジェクトには良いかもしれませんね。飾る人が居るかは分からないですが。



「見て下されユーリ様! 拙者の鎧が煌びやかになりましたぞ!!」


「おお! 更にカッコ良くなったですね、シュテン!」



 マンダを見送った後、興奮するシュテンを見ると、確かに鎧が変わっていました。今までは水色を基調とした武者鎧でしたが、そこに赤い色が加わり、より豪奢な雰囲気です。

 義経もかくやと言う程のイケメンがより華やかになるのは誰得か分かりませんが、とにかく、シュテンはアクアに続きマンダの力も得てパワーアップしたという事です。試練のダンジョンの攻略も捗るというものですね!


 そんなマンダとの契約騒ぎの後も『5』の試練の攻略を進めましたが、相変わらずに出て来るラーヴァウルフはパワーアップしたシュテンが片付けてくれたです。

 時おり出て来る『ラーヴァドラゴン』はボクが倒しましたが、概ね攻略は順調でした。……ボスの『フレアジャイアント』が出て来るまでは。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


 魔物名:ラーヴァドラゴン

 種族名:竜種

 ランク:Sランク

 特徴:体長10m前後の溶岩竜。形状は普通のドラゴンと変わらないが、全身にボコボコと燃え滾る溶岩を纏っており、近付くだけでも必死となる。熱対策を施して近付いても、『ラーヴァブレス溶岩吐息』や『灼熱岩弾』などを連発する為に非常に危険である。討伐するにはAランク以上のメンバーで構成された10人以上のパーティか、一国の軍隊での討伐が望ましい。それでも多大な犠牲は免れないが。


 ♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「『百本の氷の魔法剣ハンドレッドアイスソード!』」


「ギャオオオオオオオオォォォ……ォォ……ォォ…………ン……」



 ボクの放った百本の氷の魔法剣が自在に宙を舞いながら、溶岩で出来たラーヴァドラゴンの身体を斬り付けると、その傷口付近は熱を失いただの黒い溶岩石と化して行きます。一つ一つの傷は身体が大きなラーヴァドラゴンからすれば大したダメージでは無いけれど、それでも弱点の氷属性で付けられた百もの傷ともなれば命を奪う。ラーヴァドラゴンは、断末魔の叫びを上げながら黒い溶岩石の塊と化して死んで行きました。



「ボクにかかれば、ざっとこんなもんです!」


「さすがですな、ユーリ様!」


『オレっちの活躍する場がねぇ……』


『マンダ。ワタシ達は応援団なのよ!』


「扉が出た事ですし、とりあえず休憩です!」



 丁度10体目のラーヴァドラゴンを倒した所で、マグマダンジョンの最深部への扉が出現しました。そのタイミングで休憩したんですが、マンダの落ち込み方がハンパないです。心做しか、身体を構成する炎の色もくすんで見えるです。



「だ、大丈夫です、マンダ! マンダが居るだけで明るくなるです! (主に炎の明るさで、ですが……)」


『そ、そうか……? そうだよな、オレっち……存在する意味あるよな!!』


『だから言ったじゃない、ワタシ達は応援団だって』


「拙者もボス相手では応援団にしかなれぬ。マンダよ、気を落とすでないぞ?」


『オレっちの応援でユーリ様を力付けてやるぜ!!』


「所で、マンダ。ここのボスってどんな奴か分かるです?」



 マンダが立ち直ったのを見計らって、ボクはボスについて何か知ってないかと訊ねました。



『知ってるぜ? ここのボスは『フレアジャイアント』って言って、表面だけに溶岩を纏うラーヴァドラゴンと違って、身体を構成する全てが溶岩で出来てる巨人だ!』


「巨人……ですか!? 巨人は初めて見るので楽しみですぅ♪」


『そんな楽しげな奴なんかじゃねぇぞ? 奴は【タイタン】って神の一部だって話だ。【タイタン】だってあのお方からすれば可愛いもんだが、その力は本物だ。その一部であるフレアジャイアントだって、決して侮って良い相手じゃねぇ事だけは確かだぜ?』


「野球じゃない巨人……楽しみですぅ♪♪」


『聞いてねぇ!?!? ……つうか、野球って何だ?』


『無駄よ、マンダ。ユーリ様は自分の世界に入り込むと、全く周りが見えなくなるし、聞こえなくなるの。諦めて、ワタシ達は応援に集中しましょ?』



 巨人という事でワクワクするボクは休憩の後、真っ先に扉を開けて最深部へと突入しました。

 マグマダンジョンの最深部は巨大なドーム型の空間が広がっていて、広さで言えばドームだけに20個分相当の広さがありました。そのドーム型の空間の真ん中付近には、マグマダンジョンの名に恥じない大きなマグマ溜りがあり、ボスがそこから現れる事を予感させてくれます。炎の巨人……楽しみですね!



「どうやら拙者達は、ここより中へは入れない様ですな。ご武運を、ユーリ様!」


『頑張ってねぇ、ユーリちゃん!』


『オレっちの応援がユーリ様の力に変わる……! フレー! フレー! ユーリ様ーっ!!!!』



 扉を抜けて直ぐの所に、どうやら透明な結界の壁があるらしく、シュテン達はそこからボクに向かって応援してくれました。毎度の事ながら、ボク一人でボスを相手にするとか有り得ないです。ゲームでさえパーティを組んでラスボスに挑むですよ? どこの死にゲーですか、まったく!


 ――と言っても、当然死ぬつもりなんて無いです!



「任せるです!」



 そう一言だけシュテン達に返し、ボクはマグマ溜りに集中しました。



『ウボオオオオオオオ!!!!!!』


 ――ズズズズズウウウーーーーン!!!!!!


 ボクの集中が合図となったのか、大きな雄叫びと共に、ドーム型の空間を揺らす地響きが起こりました。するとマグマ溜りから巨大な火柱が上がり、その火柱が腕の形状となります。

 最初に右腕、次に左腕と続き、頭、胴体、そして足。マグマ溜りは、その全てを炎の巨人へと姿を変えていました。

 その大きさは優に20m。巨大なドーム型の空間とは言え、その天井に頭がぶつかる程の巨人の大きさに、ボクは口をあんぐりと開けて見上げてしまったです。



『ウボアアアアアア!!』


 ――パリィーーーン!!!!


「え!!!? 暑っついですぅぅぅッ!!!!!!」



 あまりの大きさに呆気に取られるボクへと、フレアジャイアントは雄叫びを上げて巨大な拳で殴り掛かって来ました。遠近感が狂ってるのか、ゆったりとした動きに見えましたが、実際はかなりの速度です。動き出したと同時に『氷冷結界』があっさりと砕かれ、ボクは途端に熱気に包まれたです。



「ユーリ様! 結界を張り直し下され!!」


『オレっちなら回復するが、ユーリ様は危ねぇ! 早いとこ対処しろっ!!』


『ワタシじゃなくて良かったぁー!』



 シュテン達が口々に指示を出してくれますが、何故かアクアだけ違う事を言ってる気がするです。


 そんな事を気にしてる場合じゃ無かったです……!


 先ずは砕かれた結界を張り直さないと、あまりの熱気にボクがへばってしまうです。熱気を遮断する上に、フレアジャイアントの攻撃に耐えられる結界を張らないと!



「くぅぅぅ……っ! 『氷結結界フリーズバリア!』」



 咄嗟に張った結界は、触れた物、あるいは者を即座に凍らせる攻防一体型の結界です。この結界ならばフレアジャイアントの強力な攻撃にも耐えられる筈です!



『ウバアアアアアアア!!!!』


 ――ピシッ!! パキパキパキ……パリィーーーン!!!!!!


「何ですと!!!? 熱ッ!!!!!! きゃあああああああああっ!!」



『氷冷結界』が砕かれた時は、フレアジャイアントが結界だけを狙って攻撃した様でしたが、今回は結界ごとボクへと攻撃して来ました。『氷結結界』でかなりの威力を相殺出来ましたが、それでもボクへと届いた攻撃に、ボクはあえなく吹き飛ばされ、そして壁面へと叩き付けられたです。

【女神の羽衣】のお陰で死ぬ事は無いですが、それでもかなりのダメージがあります。ヒリヒリする事から、どうやらローブに覆われてない顔にも火傷を負った様です。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……『ヒール!』それと……もっと強力かつ頑丈な結界を……!」



 吹き飛ばされた事で、フレアジャイアントとの距離は開きました。いくら巨大なフレアジャイアントとは言え、100mも離れれば直ぐには攻撃出来ないし、熱気も幾分かは和らぎます。この隙に対策を練らねば……!


 触れる物は瞬間冷凍で、触れる者には死を与える。全てが凍り付き、生き物の存在しない死の世界。……それを結界の形として顕在させる!



「これならどうだ! 『我、破壊神の名において死を与えん。触れる物に永久を……触れる者には安らぎを。【死への誘いスノードロップ】』」



 あれ? ボク、呪文を唱えたです? 唱えたつもりは無かったのに。


 呪文を唱えた事を不思議に思いながらも結界は発動し、青みを帯びた淡い結界がボクを中心に、半径10mの範囲で張られました。その表面には氷の結晶を模した様な、花を模した様な不思議な紋様が浮かんでます。自分で張っておきながら、その儚い雰囲気の結界に少し不安になったです。


 ……ですが――ッ!!!!



『ウガアアアアアアア!!!? ボオオオオオオオオ!! グオオオオ……オオォォ……ォォォ……ォォ……ォ…………ン……』


「何と!? 炎の巨人があの青い結界に触れた途端、触れた所から凍って、更に砕けたでござる!!!!」


『オレっち、近付いただけで逝きそうだぜ……!』


『ワタシの美しさも、ユーリちゃんの結界の前では形無しね……』



 ゆらゆらと儚げに揺れる結界に攻撃したフレアジャイアントは、結界に触れた拳から凍り始め、次第に全身へと範囲を広げて行くと最後は砕け散って、辺り一面にダイヤモンドダストを振り撒きました。どれだけの威力ならマグマが瞬時に凍るかは分からないですが、数千度のマグマで身体が構成されたフレアジャイアントが一瞬で儚く散る氷粒子に変わったのには驚いたです。決して人間には使えない魔法ですね……!


 ともあれ、口々に驚くシュテン達を前に、ボクは勝ち名乗りを上げたです。



「フレアジャイアント、討ち取ったどーーー!!!!!!」


「さ、早く次の試練へ行くでござる」


『オレっち、疲れたから戻るぜ? また喚んでくれよな!!』


『じゃあね〜、マンダー!』



 ……寂しくなんてないです……。




 ☆☆☆




 ――という訳で、フレアジャイアントを倒した結界【死への誘いスノードロップ】はさすがに危ないので、今回は『氷結結界』を使うです。

 いくらキングクラスが居たとしても、ゴブリンやオークならばその結界に触れるだけで死ぬ筈です。



「範囲は……ボクを中心に、半径500m程でオッケーですね。それでは! 『氷結結界フリーズバリア!』」



 ボクを中心に結界は張られました。無色透明なので、レイド先生達にもバレない筈です。これで安全にブダイ山を越えられますね。魔物は即死ですから!

 但し、結界に人間が近付いて来たら解除するですよ? 人殺し、したくないですし。なので、結界よりも少しだけ範囲を広げて魔力探知しておくです。これならば結界に人間が近付けば分かります。完璧ですね、さすがボクです!


 ともあれ、ボク達はブダイ山を越える為に歩き続けるのでした。

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