第44話 セダイへの道中

 

 四十四



「くそっ! く……はぁッ!!!!」


「もっと脇を締めろ! じゃないと殺られるぞ?」


「分かってる! ハアァァっ……てえぇぇいっ!!」


「ギギャギャアァァァ!」



 セダイへと向かって進む事三日目。精霊の森を左に見ながら進んでましたが、ボクらの目の前には大きな山が迫って来ました。この山を三日程掛けて越え、そこから一日進むと、ようやくセダイに到着するみたいです。

 この山の麓から正規の街道は右……東へと逸れてますが、レイド先生が言った通り最短距離を進むとの事で、街道を進まずに旧街道を通って山を越える事になりました。


 その山の麓にて夕暮れとなったので、今日はここで野営となったのですが、その準備をしてる最中、山から一体のゴブリンがボク達の前に姿を現したのです。



「ゴブリンくらい、俺が倒してやるぜ!」


「お! じゃあ俺の剣を貸してやる。やってみろ!」



 レイド先生に任せれば良い物を、クリス君は移動中よほど暇だったのか、率先してゴブリンの前へと踊り出ました。

 そんなクリス君に、レイド先生が自らの剣を渡して戦闘に突入したのですが、今までの魔物との戦闘はホーンラビットばかりだったので、クリス君は苦戦してます。


 現れたゴブリンは、珍しく錆びていないロングソードを持ってます。ゴブリンと言えば、木の棒や棍棒、それに半ば程で折れた錆びた剣を持ってるのが普通ですが、このゴブリンはまだまだ使えるロングソードを両手に持ち、身体にもレザーアーマーを装備してます。どうやら普通のゴブリンでは無く、ゴブリンリーダーみたいですね。今のクリス君には、明らかに手に余る魔物です。

 ですが、レイド先生が近くでしっかりと指示を出してますし、危なくなったら助けると思うので、ボクは暫く様子を見たいと思います。



「だあぁぁぁっ!!」


「ゲギャギャッ!」



 レイド先生のロングソードで何度も斬り掛かるクリス君に対し、ゴブリンリーダーはしっかりと腰を据え、その全てに対処してます。かなり戦闘慣れしたゴブリンリーダーみたいですね。ゴブリンなのに、その雰囲気は歴戦の戦士そのものといった感じです。



「くそ……! ただのゴブリンのくせに、何で俺の攻撃を防げる! おらあぁァっ!!」


「グギャギャギャ……ゲギャアアッ!」



 あ! 中々当たらない攻撃に痺れを切らしたクリス君は、体勢が整っていないまま上段斬りを放ちました。

 対するゴブリンリーダーはクリス君の上段斬りの軌道上にそっと剣を合わせ、その剣撃を受け流してしまったです。

 上段斬りを受け流されてしまったクリス君は勢いそのままに剣を地面へとめり込ませ、しかも体勢まで崩されています。これはヤバいですね、命の危険です……!



「クリス! チッ! 『瞬歩!』」


「ゲヒャヒャヒャ! ギギャアアッ!!」


「うわあぁぁぁあああ!!!?」



 体勢の崩れたクリス君の首筋はゴブリンリーダーの目の前に晒されており、その首筋へと向けて、ゴブリンリーダーは奇声を発しながら剣を振り下ろしました。

 直前に、レイド先生が移動スキルを使用してゴブリンリーダーの剣を防ごうとしてますが、明らかにタイミングが遅過ぎます。このままだと、クリス君の首は身体とサヨナラしてしまうです!


 仕方ないですね。



「目を潰すです! 『ウィンドニードル風の針!』」


「ギッ!? ギャアァァァァッ!」


「何だ!? 何だか知らねぇが危なかったぜ……! ハッ!!!!」



 目には見えない風の針をゴブリンリーダーの両目へと放ち、クリス君の首に剣が到達する前に両目を潰す事に成功しました。ゴブリンの目も人間と同じで神経剥き出しみたいですね。あまりの激痛に剣をあっさりと手放し、のたうち回ってます。

 そのタイミングでゴブリンリーダーとクリス君の間に割り込んだレイド先生は、ゴブリンリーダーが手放した剣を素早く手に持ち、地面をのたうち回るゴブリンリーダーの首をあっさりと両断しました。間に合って良かったですね、レイド先生。



「すまん、クリス。どうやらコイツはゴブリンリーダーだったみたいだ。見てみろ。耳もそうだが、魔石の大きさが明らかにゴブリンよりも大きい」


「ど、道理で俺の攻撃が当たらない訳だ……!」



 腰の後ろにある小さな鞘からナイフを抜き、手際良く魔石をゴブリンリーダーから取り出したレイド先生は、その魔石をクリス君へと見せながら謝罪しました。確かに今回はレイド先生の完全なミスです。自分が悪いと思ったら、生徒にも素直に謝るレイド先生は素敵ですね。

 でも、途中でゴブリンリーダーだと気付かなかったのは先生としては減点です。しっかりして下さいね!

 それとクリス君。クリス君も勝てないと思ったら素直に下がる事を覚えるべきです。一人だけで戦ってる訳じゃないし、近くには頼れるレイド先生が居るのだから、レイド先生に助けを求めるべきでした。減点ですね。


 ……などと、ボクが心の中で二人の採点をしている内に、周りではしっかりと野営の準備が整ってました。



「ユーリちゃん!」


「は、はいです!」


「クリスはともかく、ユーリちゃんは明日、一人でテントを張る事になったニャ!」


「はいです……」


「当然ですぞ! クリス殿はゴブリンを相手に僕らを守ってたのに、ユーリ殿は野営の準備をサボってたのだから!」


「ごめんです……」


「ユーリさん。冒険者とは役割分担も大事です。明日は僕も手伝うので、気を落とさずに前向きに捉えましょう」


「分かったです、ノルド君!」



 ボク達がテントを張る場所に戻って来たら、口々に言われました。ボクの密かな活躍でクリス君が助かったけど、やはり周りからはサボってる様にしか見えないですよね。悪いのはボクなので、素直に受け入れるです。

 ですが、こんな事も学園生活の醍醐味の一つ。挫けずに頑張るですよ! ……泣きそうだったのは秘密です。



「ノルド! あたしが言おうとした事を先に言うニャ! それにネコーノ! ユーリちゃんを泣かせたお前は一晩中テントの外ニャ!」


「何ですと!? お、おかしいですぞ! 僕はミサト殿の話に乗っかっただけですぞ!?」


「あたしが続きを言う前に、ネコーノが話を被せて来たニャ! あの後、今回は許すけど、次はしっぺの刑だニャって言おうとしてたニャ! 明らかにネコーノが悪いニャ!」


「な、何というとばっちり……! だけど、そんなミサト殿もたまらないですぞ……♡」


「寄るニャッ!!!!」


「グハァッ! で・す・ぞ……♡」



 泣いてた事、ミサトちゃんにはバレてました。

 だけど、その後のミサトちゃんとネコーノ君のいつものやり取りを見てたら、落ち込んだのが馬鹿らしくなったです。何事もポジティブシンキング、ですね!


 そうこうしている内に、他の学園生達もテントを張り、焚き火での調理及び夕食を終えた段階で、レイド先生から話がありました。



「夕暮れ時の事だが、ゴブリンリーダーが一体見付かった。勇気ある生徒が立ち向かい何とか討伐出来たが、まだ山に入る前にも拘わらずにゴブリンリーダーが現れた事に危険を感じた。講師である俺たち『静かなる賢狼』での協議の結果、山を直進する者と、山を迂回する者とに分ける案が出た。自分達のパーティの実力に自信のある奴は山を越えろ。自信が無い奴は迂回を選べ。これは成績には影響せんから、パーティ毎に良く相談の上決めろ。ちなみに俺から言える事は、冒険者は危機回避能力に優れる、という事だが、実力を付けるには強敵との戦いも必要という事だ。明日の朝に結論を聞くから、しっかりと答えを出す様に!」


『『『『『はいっ!』』』』』



 つまり、レイド先生が言いたい事は、自分の力に適した選択をしろって事ですね。これは冒険者にとって、とても重要な決断力を試されるものです。

 つまり、自分の力ではこれ以上進むと死ぬ可能性がある場面に出会でくわした時、そのまま進んで死を選ぶか、それとも引き返して生を得るかという事です。

 本来であれば、セダイへの合宿でその様な事は学ばないと思うですが、今回はイレギュラーな事態が発生している為、急遽それを学ばせる事にしたと思うです。

 それを思えば、レイド先生達は、さすがは講師だと言えますね。冒険者は命を掛けて結果を出すものですが、引き際を見極める判断力が無いと、幾ら宝を手に入れたり指定された魔物を討伐出来たりしても意味が無いです。臆病者こそが英雄足り得る。つまりは、そういう事をレイド先生達は言ってるのだとボクは感じました。



「俺たちはどうする?」



 レイド先生の話を聞き、就寝前の見張りを決める時にクリス君がそう切り出して来ました。ボクは山を越えるルートでも問題ないですが、みんなの意見に従いたいと思うです。仲違いでパーティが解散するなんて事も良く聞く話ですからね。みんなの意見は大事な事なのです。



「あたしは真っ直ぐ山を越えたいニャ。山は好きだニャ。獣人としての本能からか、すっごくワクワクするニャ!」


「僕はミサト殿が一緒ならどっちでも構わないですぞ。僕が颯爽と山を越える勇姿を見てもらい、ミサト殿を惚れさせるのですぞ!」


「僕も山越えに賛成です。山はドワーフにとっては聖地の様な物です。謹んで越えたいですね」



 今の所、賛成が三票ですね。多数決ならばこれで決まりですが、危険がある可能性を考えると一人でも反対すれば迂回を選んだ方が良いです。ちなみに、ミサトちゃんがネコーノ君に惚れる事は無いと思うです。



「ボクはどっちでも良いですよ? クリス君に任せるです!」



 という訳で、結論はクリス君次第となりました。

 まぁ山を越えるにしろ迂回するにしろ、ボクが居るのでみんなに危険は無い筈です。何があっても助けますし、例え怪我をしてもたちどころに回復してあげるです。伊達に神様をやってる訳では無いですよ?



「……分かった。正直に言うと、俺は迂回した方が良いと思う。だけど、レイド先生達が居る時に危険な事を経験しておいた方が良いと思うんだ。だから俺たちは山越えを選ぼう! そして、冒険者としてのレベルを一つ上げるんだ!」


「「「「了解!!」」」」



 クリス君の決断で、ボク達は山を越える事になりました。

 ふと思ったですが、何だかクリス君がリーダーの様に感じます。素質があるんですかね?

 今までクリス君の事はあまり気にしてなかったんですが、リーダーとしての素質を考えると注目していた方が良いかもしれませんね。いずれ名だたる人物へと成長するかもしれませんし。


 ともあれ、山越えを決めたボク達は順番に見張りを受け持ち、朝になるのを待つのでした。




 ☆☆☆




「……山越えはSクラスだけか。分かった、Sクラスには俺が付いて行こう。合流は三日後の山の向こう側の麓だ。それでは、出発!」


『『『『『はいっ!!!!!!』』』』』



 明朝、空が白み始める頃、レイド先生の号令で出発となりました。先生の言葉でも分かる通り、山越えはどうやらボク達Sクラスだけの様です。先生達が居るのに、みんな臆病ですね。臆病者こそが英雄足り得ると言った手前、ボクにそれを言う資格は無いですが。


 とまぁ、それはさておき。


 ボク達が越えようとしている山の名前は『ブダイ山』と言って、ハポネ王国一高い山だとか。と言っても、標高は1000m程しか無く、自然のままに生い茂る樹木がとても美しい山です。自然を満喫するには良い山ですね。

 そんな美しい山でも、いざ山越えとなると険しい道程を想像しますが、未だに旧街道が通っているらしく、手入れしてない為に所々朽ちているそうですが、歩くのには支障は無いのだとか。山をぐるりと回る様に頂上付近まで行けば眼下にセダイを見渡せるそうで、その為、旅人には密かに人気があるそうです。とは言っても、魔物や山賊が出没する危険があるので、護衛を雇って通行するみたいです。観光にも護衛とか……美しい世界ですが、それを考えると恐ろしい世界でもありますね。

 ちなみに迂回路は、ブダイ山を東側から通るルートで、山と山の合間を開拓して造った街道みたいです。そちらは山を登らなくても良いのですが、グネグネと曲がりくねっており、歩く距離は相当なのだそうです。

 どちらを通っても山の向こう側に辿り着くのはほとんど同じになるそうですが、魔物や山賊が出没するかもしれない危険な山道を進むよりは、歩く距離は長くても安全な迂回路を選ぶ人が多く、その為に山越えルートは廃れたとの事でした。

 あ、情報源はレイド先生です。最近まで眠っていたボクに、そんな知識がある訳ないですよね。え? 知ってるって?


 そんな事を考えながら山道を進んでますが、さっそく山の洗礼が出迎えてくれた様です。



「ゴブリンが五体か。丁度良い、お前ら一人ずつ一体を討伐してみろ! クリスはゴブリンリーダーを昨日倒してるから余裕だとは思うが、他の奴に手は出すなよ?」



 レイド先生からの指示でも分かる通り、ゴブリンが現れました。リーダーでは無く、普通のゴブリンですね。恐らく、ゴブリンの集落から偵察にでも出て来たのでしょう。


 さて、殺りますか!



「分散はボクに任せて欲しいです! 『ウィンドボム!』」


「良くやった、ユーリ! 俺は左の奴を相手にするから、右の奴はノルド、右奥はミサト、左奥はネコーノで、今の魔法で吹っ飛んだ奴をユーリに任せる!」


「「「「了解!!」」」」



 やはりクリス君はリーダーの素質がありますね。五体で固まって移動していたゴブリンを、ボクが風爆弾の魔法で分散させると同時に状況を見極め、すぐさまみんなに指示を出しました。もしもこのメンバーでパーティを組む事があるならば、リーダーはクリス君に任せるとするです。


 それでは、ボクも割り当てられたゴブリンを倒すとしますかね。

 と言っても、ボクは出来るだけゆっくりとゴブリンへと近付きます。じゃないと、ボクの身体能力がみんなにバレてしまうです。だけど、明らかに歩いてる風に見られるのも拙いです。全力で走ってる様に見せかけて、全力でゆっくり移動する。中々に難しいものですね……!



「ぬえぇぇぇい!」


「グギャアァァァ!!」



 吹き飛んだゴブリンへと向かう途中右を見ると、ノルド君が鉄製のグレートハンマーでゴブリンを頭から叩き潰していました。見るからに痛そうですが、ノルド君はあのハンマーをいつの間に手に入れたんですかね? それはともかく、一体目のゴブリンはあっさりと討伐されました。



「くそ……! 一番はノルドに取られたか! だが俺だって!! だありゃあぁぁぁ!!!!」


「ギギギャガガガガァ……ァ……ァ…………」



 クリス君もノルド君に負けじと、ゴブリンを袈裟斬りにしていますね。クリス君の剣は……あ、レイド先生の剣を借りてます。だからですね、切れ味が鋭いのは。でも、見事な太刀筋でした。学園で学んだ事がしっかりと活かされてます。



「【魔法士】ジョブの僕に接近戦は無理ですぞ! ならば……! 『ソイルキャット土の猫!』」


 ――ニャオーーン!


「ゲギャ!? ギャヒィィ……グゲェェェ」



 ネコーノ君の魔法は、相変わらず不思議な魔法ですね。何故に猫の声が聞こえるのか? その謎を解き明かす事が出来れば、この世界の謎も解けるかもしれませんね……!


 …………。


 ……嘘です。


 ネコーノ君が放った土の猫は二体です。一体はゴブリンの体に纒わり付くと同時に土へと戻って束縛し、二体目は束縛したゴブリンの口や鼻を塞ぎ、そのままゴブリンの体内へと侵入する事で窒息死させました。

 中々に考えられた戦闘に、ネコーノ君を少し見直したです。いつもは空回りばかりですが、もしかしたらその空回りも演じているのかもしれません。能ある鷹は爪を隠すと言いますし、ネコーノ君も伊達にSクラスではないという事ですね。



「うーー、ニャーーッ!」


「ギャッ……グバババババッ!!」



 ミサトちゃんは、言うまでもないですね。右腕を凶悪な人虎ワータイガーへと変化させ、その指先より伸びた鋭い五本の爪にてゴブリンのお腹を貫きました。心做しか爪先が光ってる気がしますが、恐らくスキルでも使ったのでしょう。ミサトちゃんだってSクラスの一員だし、ボクが知らない間に何かしらのスキルを覚えていても不思議では無いです。



「あたしの爪が光ってるニャー!?」


 ……!?


 ……きっと、今スキルに目覚めたんですね!


 おっと。ゴブリンも残す所はボクが割り当てられた一体だけです。こちらも少しは集中しますかね。



「ゲギャ……ゲヒヒヒヒ! ギャハハハハハ!!」



 ボクの魔法で吹き飛ばされてたゴブリンは、ボクの到着と同時にようやく起き上がり、ボクの姿を確認した途端に笑い出しました。何故にボクを見て笑うのか、不思議でなりません。

 今ここに居るメンバーの中じゃ、間違いなくボクが一番恐ろしい力を持ってると自負してます。そんなボクを見て笑うという事は、やはりゴブリン、とても頭が悪いですね。

 しかし、やらかす訳にはいかないです。どう手加減すればみんなに怪しまれずに倒せますかね?



「素手で殴るのは生理的に嫌ですし、かと言って【双刃剣ブラフマー】で斬るのも切れ味が鋭過ぎるので怪しまれるです。……やはり、魔法……ですかね」


「ギギャ! グギャギャギャアアアア!!!!!!」



 ボクが攻撃手段に悩んでる様子を怯えて何も出来ないと判断したのか、ゴブリンは半ばで折れた錆びた剣を振り上げ攻撃して来ました。当然、型も何もあったものじゃないグルグルと振り回すだけの稚拙な攻撃です。



「当たらなければどうということはない、です!」


「ゲギャ!?」



 ゴブリンの攻撃が当たる瞬間だけ神速で移動し、また元の位置へと戻るボク。攻撃が当たった筈なのに平然としているボクに、ゴブリンは目を白黒させて驚いてます。

 それはともかく、次はボクの番ですね。使う魔法も決めました。



「ボク達と出会った不幸を悔いながらあの世へ行け。【ブラッディボイルド沸騰する血液】!」


「ギ……!? ゲヒュ……ゲブ……ゲベエエェ……ェェ……」


 ――ボゴン! ゴボゴボゴボッ! グツグツグツグツッ!!!!!!


 使った魔法は、神龍の核……ブラッドドラゴンが使っていた血液を操る魔法。神龍の粒子を吸収した事で使える様になった力を、魔法としてゴブリンへと放ちました。

 体中の血液が熱を放ちボコボコと沸騰する苦しみは想像を絶すると思いますが、苦しいと思った時には既に息絶えているので、実際にはそれ程苦しまずに死ねたと思うです。


 ゴブリンは体中から湯気を噴き出し、肉を焼く異臭を上げながら瞬く間に死んでいきました。



「良くやった、お前ら! それぞれの特徴を活かし、上手い事討伐出来たな。……若干一名おかしな魔法を使っていたが、それもまた特徴だろう。という事で、ゴブリンの討伐証明となる右耳と魔石を各自で捌いて回収しろ!」


「「「「「はいっ!!」」」」」



 おかしな魔法を使ったっていうのは、きっとネコーノ君ですね!

 ボクの魔法は、傍から見れば炎系の魔法で焼け死んだ様にしか見えない筈なので、やはりネコーノ君の魔法で間違いないと思うです。鳴き声を上げる魔法なんて、明らかに変ですし。


 ともあれ、【黒神】の中から小刀【無銘】を取り出し、沸騰死したゴブリンからボクは魔石を回収しました。あ、右耳も忘れてませんよ? 堂々と売れてお金になるんですから、しっかりと回収してます。セダイに着いたら、そのお金でミサトちゃんと美味しい物でも食べるとするです♪



「回収出来たな? それじゃ、おかしな魔法を使ってたユーリ! お前がゴブリンを骨まで燃やせ。クリス達は、ユーリが一度で燃やせる様ゴブリンを一箇所に集めるんだ。それが終わり次第出発だ!」


「おかしな魔法はネコーノ君の魔法です!」


「みんなの目は誤魔化せても、俺の目は誤魔化せんぞ? とにかく言われた通りにしろ!」



 何故にボクの魔法がおかしな魔法なのか。どう見ても焼け死んだ様にしか見えなかった筈なのに。……不思議です。



「集めたぞ、ユーリ。何でお前が燃やすのかは分かんねぇけど、レイド先生の指示だからな」


「ユーリちゃんは魔法が得意なんだニャ! あたしはユーリちゃんがミーナを撃退するのに魔法を使ってるのをいつも見てるニャ。レイド先生はしっかり見てるニャ!」


「くっ!? 魔法なら僕だって負けないですぞ! だけど先生の指示じゃ仕方無し。今回は譲るですぞ……!」


「ユーリさん、早く燃やして下さい。先を急ぎましょう」


「……『フレイム!』」



 何だか納得出来ないですが、とにかくレイド先生の指示通りにゴブリンの死体を燃やすのでした。

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