第43話 セダイへと向けて

 

 四十三



「あー、突然だが、王都『セダイ』に行くぞ!」



 ミサトちゃんへのプレゼント作戦が功を奏し、とっっっっても仲良しになってから一ヶ月。季節は夏を迎え、ボクが住んでいるトキオの街も夏真っ盛りの熱気に包まれてます。

 夏本番という事もあって、街ゆく人々の服装も薄着となり、ボクの愛するミサトちゃんも当然の様に薄着です。

 薄着となると、色々と露出が増えるので普通の人なら目のやり場に困りそうですが、猫の獣人であるミサトちゃんは、手足や背中などが体毛に覆われている為にそこまでエッチな感じはしないです。……モフモフ好きにはたまりませんが。モフモフ、好きです♡


 夏の暑さは食にも影響を与えており、南区の飲食店街も夏メニューが売り出されていました。中でも、氷菓子などは飛ぶように売れるそうです。定番ですよね。

 それでも、店主が頑固一徹のお店なのか、中には激辛熱々鍋料理を売りにしてる所もあります。しかし、極一部のお客さんを除き、ほとんどの人が見向きもしません。

 ちなみにですが、極一部にはボクも入ってます。だって、それを出してるお店は『マレさん家』ですからね。通わない訳にはいかないです。癖になる辛さが止められません。


 そんな夏本番を迎えた冒険者学園でのある日、レイド先生からセダイに行くと言われたです



「はい!」


「何だ、ユーリ?」


「暑いのに、セダイに行く理由は何ですかね?」



 ボクは【女神の羽衣】という、一定以下のダメージ無効及び、暑さ寒さを相殺するローブを着ている為に問題ないですが、ミサトちゃんを初め、クリス君にノルド君、それと、相変わらずミサトちゃんにアタックするネコーノ君は、夏の暑さに少しバテ気味です。特に、ミサトちゃんが辛そうです。全身に自前の毛皮を纏ってますからね。

 なので、特に理由も無しにセダイまで行くのは納得出来ないです。



「理由は……学園生徒による交流だ。確かにユーリの言う通りに、夏は暑い。だが、暑さの中でのセダイまでの移動は体力の向上になる。冒険者にとって、体力は生命線にもなるから、それを含めての遠征だ。それと、セダイの生徒とトキオの生徒、二つの学園の生徒の実力向上を兼ねた対抗戦もある。セダイに滞在するのは九月までのおよそ一ヶ月間だが、その間に互いに切磋琢磨し、最終日の対抗戦で締め括るという訳だ。もちろん、対抗戦に選ばれれば成績にも影響するし、もしもトキオ学園が勝てば、生徒全員の卒業後のランクにも影響して来る。という事は、だ。Sクラスは卒業後にCランクは確定してるが、最優秀者はBランクに認定されるかもしれんという事だ。頑張る価値はあるだろ?」


「つまり、合宿みたいなものかニャ?」


「そうだ。ミサトの言う通り、セダイに合宿しに行く訳だ。冒険者として学ぶ事が目的だが、セダイはトキオよりも気温が低い。つまり、避暑も兼ねての合宿という事だな。何にせよ、炊事洗濯戦闘を含め、それらは全て冒険者としての最低限の能力だ。当然、自分達で出来なきゃ話にならん。だから、浮かれるなよ? 夏の合宿から冒険者としての本格的な授業が始まるんだからな!」


「「「「「はいっ!!!」」」」」



 という事で、ボク達は次の日からセダイへ向けて出発する事となりました。

 セダイへの移動は、当然徒歩です。歩きで一週間程の距離ですが、その際の各自の下着や服、それに多少の食料は用意しないとダメです。テントなどは学園で用意してくれるみたいですが。



「――という事で、今夜は早く寝るです!」


「……ペロペロ、しないのか……ニャ?」


「ヌヴァー。それならば、私は離れます」



 今日の授業が終わって孤児院へと帰り、夕食やお風呂などを済ませて、後は寝るだけという段階でのミサトちゃんの言葉。アレから毎日、寝る前は行為に耽っていたので、ミサトちゃんの表情はとても悲しそうです。


 正直に言えば、したいです。この身体になった事でシンボルを失い、それはそれはとても悲しい思いをしたですが、ミサトちゃんのペロペロ天国を経験した事で、その悲しみは喜び……いや、悦びへと変わりました。


 まさか……あれ程とは。


 詳しくは言えないですが、天国がそこにはあったです♡


 ですが! さすがに毎日そんな事にうつつを抜かしていたら、人間ダメになるです!

 厳密に言えば、獣人と神の端くれなので人間では無いですが。

 ともあれ! ここは心を鬼にしても大人しく寝る事を優先させていただくです!



「ミサトちゃん……! ボク達は冒険者にひゃあん♡」



 無駄な抵抗でした。あの快感に抗う事はボクには出来なかったです……!



「ハァ、ハァ……♡ 今度はユーリちゃんの番だニャ♡」


「はうぅぅ……♡」



 詳しくは……言えないです。




 ☆☆☆




 夏本番の朝とは言え、やはり早朝に吹く風は爽やかであり、心地好くボク達五人の頬を優しく撫ぜてくれます。現在の時刻は午前五時過ぎ。昼間は茹だるような暑さですが、早朝の爽やかな風のお陰で汗をかく事も無く、ボク達は冒険者学園へと大きな荷物を背中に背負って向かってます。【黒神】がある為、ボクは手ぶらですけど。

 あ、夏にもなると小鳥の囀りよりも、やはりセミの鳴き声の方が目立ちますね。ジージー、ミンミン、シャーシャーと、早朝から元気に鳴いているです。



「眠い……ですぞ……ミサト殿。……僕と一緒に……寝て欲しいですぞーっ!」


「ネコーノ、寝言は寝て言えニャ!」


「ダルい。眠い。暑い……」


「クリス、暑いのは夏だからですし、眠いのは合宿に興奮し過ぎて寝不足だからです。ダルいのはいつもの事でしょう?」


「はふぅぅぅ……♡」



 戯言を宣うネコーノ君と、鋭いツッコミを入れるミサトちゃん。半分寝てるクリス君と、それを諭すノルド君。いつものメンバーのいつもと変わらぬ光景。セダイへの合宿という事に変な気負いもなく、全員がとてもリラックス出来ているので、冒険者としての気構えと言うか、そういうメリハリの利いた生活習慣が身に付いて来たと実感出来ます。ボクだけは火照った身体の余韻に浸ってますが、ツッコミは無しでお願いしたいです。



「セダイへ向けて、出発!!」



 学園の庭へと集まり、冒険者ギルドのギルドマスター兼冒険者学園園長を務めるクラウスさんの長話を聞いた所で、ようやく出発となりました。

 なお、今回……と言うか、毎年夏に行われるセダイでの合宿は一年生だけが参加らしく、トキオに残る二年生は研修として実際に依頼を受けて、その依頼が失敗か成功のどちらでもレポートにまとめて提出するみたいです。社会科見学みたいですね。

 来年のボク達もレポートを書かなきゃいけないと思うと、今から憂鬱な気分になってくるです。勉強、嫌いです。



「街道を歩いてるせいか、ほとんど変わり映えしない景色だな」


「クリス……良く見て下さい? トキオから続いていた田園風景が終わって、精霊の森が見えて来てますよ? 些細な変化も見逃さない様にしないと、冒険者として活動を始めた時にあっさりと死にますよ。気を付けて下さいね?」


「た、確かに……! だけど、俺はそう簡単に死なねえ! 俺が冒険者を目指してるのも、手っ取り早く経験を積み、そんで『聖騎士』のジョブに就いて……南ローラシア大陸の大国、『アーク神国』の軍部の最高峰【ミカエル】の名を継ぐという夢の為だ!」


「大きな夢を抱くのは良いと思いますよ? だけど、足元をおろそかにしてると、志半ばで潰えるかもしれません。僕はそんな事になって欲しくないから言ってるんです」


「……分かってるよ」



 トキオ北門からセダイへと向けて、街道を北上して二時間が経過した頃、クリス君とノルド君でその様な事を言い合ってました。

 クリス君の自己紹介の時の夢を聞いていなかったので、聖騎士になるやらアーク神国やらの話は初耳です。有名なんですかね、その国?

 しかもミカエルを継ぐとか何とか。ちょっと何を言ってるのか分からないです。



「……暑いニャ。夏よ……終われニャ!」


「そんな時はこのネコーノにお任せですぞ! 『アイスキャット!』」



 こっちはこっちで、いつもの光景が繰り広げられているです。懲りないですね、ネコーノ君も。いつものパターンだと、大概この後殴られて終わるです。アホ、ですよね。



「ヒンヤリして気持ち良いニャ〜♡」


「フハハハハハハ! これは脈アリですぞ! いつでもこのネコーノを頼って欲しいですぞー!」



 何ですと!?


 あっ! よく見ると、ネコーノ君の放った猫型魔法は氷で出来ているみたいで、それをミサトちゃんが抱いて、しかもペロペロしてるです……!

 あの舌はボクだけの物なのに、氷如きに負けるとは何たる屈辱!


 ……目に物見せてくれるです!



「ミサトちゃん! ネコーノ君の魔法よりも、このボクを頼るです! 『スノウワールド雪の世界!』」



 ミサトちゃんの為にボクが放った魔法は『フリージングワールド氷の世界』という、辺り一面を氷で閉ざしてしまう天候を操る究極魔法の廉価版の物です。それでも、魔法ランクは超級魔法に分類される程のマナを必要とするので、決してネコーノ君には使えない魔法ですね。

 魔法を放った直後、辺りの気温は一桁まで下がり、程なくして上空からは白い雪の華がヒラヒラ、チラチラと舞い始めました。



「さ、寒いニャ……! こんなの要らないニャ!」


「真夏に雪とは……天変地異の前触れですぞー!」


「何で突然雪が……!?」


「クリス、そんな事よりも防寒着などは持ってないんですか?」



 気温が下がった事で、ミサトちゃんに氷の猫を捨てさせる事は出来たですが、やり過ぎました。ミサトちゃんを初め、ボク以外の四人ともに寒さで震え始めたです。



「でも、ここから先は暑いニャ!」


「やはり天変地異の前触れですぞ!」


「俺、着る物これしか持ってねぇから助かったぜ!」


「クリス……。聖騎士を目指してると言うのに、君という人は……」



 ボクが指定した範囲は半径500m四方なので、そこから出てしまうか一時間程過ぎれば効果は無くなります。

 なので、セダイへと向かって歩いていればあっという間に範囲外となり、元の暑さに戻ります。

 だけど、暑さでダラけた身体もこれでリフレッシュされたと思うので、セダイを目指してキビキビ進んで欲しいですね!



「なんで雪!?」

「さ、寒い……」

「この世の終わりだぁーっ!」

「冒険者になるのやめようかな……」



 後ろから何やら聞こえて来ますが、気にしたら負けです。自然は不思議でいっぱいなのですよ……!



「よーしっ! 今日はこの辺で野営にするぞ! 各クラスで決められた班ごとに分かれ、それぞれ準備を始めろ!」


『『『『『はいっ!!』』』』』



 真夏の日中に一部だけ雪が降るという珍現象を乗り越え、旅人や商人、それに冒険者などの為に街道脇に整地された広場で今夜は夜営となりました。俗に言う、キャンプ場という物ですね。

 レイド先生に聞いた話によると、このキャンプ場はハポネ王国が公営事業として開拓したらしく、広場の中央には井戸が掘られており、その井戸の近くにトイレまでもが設置されてました。やはり、手動式の水洗です。

 あ、トイレで流した排泄物は丸太をくり抜いて造られたパイプを通り、少し離れた場所にある肥溜めへと送られる仕組みになってるみたいです。そこに溜まった排泄物はと言うと、一定の期間毎にそれ専門の依頼を受けた冒険者が訪れ、そして別の容れ物に移し替えて回収するのだとか。犬並みの嗅覚のボクとしては受けたくない依頼ですね。

 ですが、農家の人達にとっては大切な肥料です。利用出来る物は何でも利用する。エコにもなりますよね。


 肥料はともかく、木陰などで気軽に用を足せる男性とは違い、トイレがあるというのは女性にとっては凄くありがたいです。もっと街道沿いにトイレを設置しても良いなと感じました。……どこでもトイレのスラさんが付いてるボクには関係無いですが。

 ちなみに、スラさんはスラさん改へと進化した事で二つに分裂する事が出来る様になり、一体はミサトちゃんの股間に張り付いてます。さしずめ、スラさん二号と言う所でしょうかね。

 その代わり、分裂すると戦闘能力も半分になるらしく、強敵を相手する時は合体するそうです。

 どちらにせよ、強敵との戦闘時は股間から離れてしまうので、催した時は要注意ですね。……ボク、やらかしてますし。



「ユーリちゃん……一人でブツブツ言ってニャいで、テントを張るのを手伝うニャ!」


「い、今やろうとしてたです!」



 考え事をすると周りが見えなくなるという欠点に加え、どうやらボクは独り言までしてるみたいです。このままだと、いつもボーっとして独り言を言う危ない娘のイメージが付いてしまうです。要注意ですね……!



「各班、テントは張れたな? それじゃ、それぞれ火を熾して焚き火が出来たら、各自用意して来た食材を調理しろ。今日は初日だから事細かく指示を出すが、明日からは自分達で判断して行動しろよ? それと、身体を拭く順番は各班で決めろ。男だけの班、または女だけの班なら問題無くテントの中で拭けるだろうが、男女混合の班は大問題だからな。全てが終わったら、見張りの順番を決めて就寝だ。分かったな!」


『『『『『はいっ!!!』』』』』



 全員がテントを張り終えた所で、レイド先生からその様な指示が出されました。と言うか、今朝から指示を出してるのは全てレイド先生ですが、レイド先生は学年主任的な役割りなんですかね?

 他にもマイア=ミスト先生やジール=マリス先生、それにガイア=マッシュ先生も引率として付いて来てるのに、話すのはレイド=クルーゼ先生だけです。もしかしたら、『静かなる賢狼』のリーダーだからってのも関係してるのかもしれませんね。フルネームで言ったのは忘れてない事の確認です。……忘れてないですよ?


 ともあれ、ボク達五人もレイド先生の指示に従い、調理をする為に焚き火を熾して囲みました。

 あ、ボク達Sクラスは全員合わせても五人しか居ないので、今朝からクラスで一班として行動してました。他のクラスは一クラスにつき四班から五班に分かれてるので、班分けする時はきっと一悶着があった筈です。青春の一幕ですね。



「所で……誰か食材なんて持ってるか?」



 焚き火を囲んだ所で、クリス君がボク達四人に向けてその様な事を訊いて来たです。



「……持ってないニャ」


「僕も持ってないですぞ……」


「僕も当然持っていません。そういうクリスは持ってるのですか?」


「……持ってねぇ」



 ……何故に、みんなは食材を持って来なかったんですかね。


 確かレイドさんは、セダイに向かう間の食料は自分で用意しろって言ってた筈です。今日のお昼は、マレさんが孤児院でお弁当を用意してくれたのでそれを食べたですが、今夜からどうするつもりだったのか。謎です。



「……仕方ないので、ボクが提供するです。しかし、何故に食材を持って来てないです?」


「孤児院でお世話になってる俺らに、そんな物を用意する資金がどこにある? だいたい、ユーリが提供するって、どこに持ってるんだよ!?」


「確かに持ってる様には見えないですぞ」


「ユーリさん、まさか干し肉一枚という事ですか? いえ、提供してくれるのだから文句はありません。ありませんが……ねぇ?」



 食材を用意出来なかったのはそういう事でしたか……!


 迂闊に訊いたボクがアホでした。当然ですよね、孤児なんですから。

 一応、ダストさんから毎月お小遣いを少しだけ貰ってますが、それを使って食材を買ったとしても、それこそ干し肉三枚程度が限度です。何か仕事をして稼いでる訳でもないですし、これは断固として抗議する案件ですね。



「クリス達は知らニャいけど、ユーリちゃんはアイテムボックスを持ってるニャ! だからユーリちゃんは手ぶらなんだニャ。しかもその中には魔石がたくさん入ってたニャ。その魔石をギルドに売ってお金を手に入れたから、ユーリちゃんはしっかりと用意して来たんだニャ! だから、何も用意してニャいあたし達がユーリちゃんに文句を言えた義理じゃ無いニャ!」


「ま、マジかよ!?」


「くっ!? ぼ、僕だってアイテムボックスの一つや二つくらい持ってますぞ……!」


「なるほど。それならば食材提供も出来ますね。しかし、その様な物をどこで手に入れたのですか?」



 ボクが食材なんて持ってないだろうというクリス君達の疑問は、ミサトちゃんがボクの代わりに答えてくれたです。

 ミサトちゃんが何故に【黒神】の事を知ってるかと言えば、当然ボクが教えたです。とっても仲良くなったので、ボクが持つローブの【女神の羽衣】や【双刃剣ブラフマー】、それにマナを込めて身体強化出来る白い革靴の【白神】の事も話しました。愛する二人に秘密なんて物は無いのです!

 ですが、ボクの身体能力の事は言ってません。化け物だと嫌われたら嫌ですし……。


 それはともかく、【黒神】については記憶喪失なのでいつから持ってるかは分からないと説明しました。

 ネコーノ君がマジックボックスを幾つも持ってるという話は聞かなかった事にしておくです。



「お前ら、ほら、これ。お前らが孤児院でお世話になってるダストさんからだ。大事に食えよ?」



 食材云々の話をしていたボク達に、レイド先生が肉の塊をマジックバッグから取り出しながらそう言いました。大きな肉の塊なので、30kgは有りそうです。

 これだけあれば、セダイまでの一週間は余裕で足りそうですね。ありがとです、ダストさん!


【黒神】の事、レイド先生に聞かれたですかね?


 聞かれたから何だという話ですが、説明するのが面倒です。クリス君達に説明した事を聞いてれば良いですが……。



「オーク肉だそうだ。早く調理して早く食って、そんでもって見張りの順番決めて早く寝ろ! 明日も一日中移動だからな。それに、今日はトキオから近いし街道を歩いてたから出没しなかったが、明日からは街道を無視して最短距離でセダイに向かう。そうなると魔物の一体や二体は確実に出没する様になる。もしかしたら野盗に襲われるかもしれん。学園生と言っても冒険者の端くれ、しっかりと気を引き締めろ!」


「「「「「はいっ!!」」」」」



 レイド先生は先生らしく説教をし、そのまま先生達のテントへと戻って行ったです。【黒神】の事を訊かれなくてホッとしました。

 でも、確かにレイド先生の言う通りですよね。ボク達は冒険者になる為に学園に通ってるのであって、その学園が授業の一環としてセダイへと合宿に行く道程も当然授業です。明日からは気を引き締めて移動したいと思うです……!



「半生だ……。誰だよ、焼き上がったって言った奴!」


「……誰も言ってませんよ? 勝手に食べ始めたのはクリスでしょうに、文句は言わないで下さい」


「……アホだニャ」


「今度こそ焼けたみたいですぞ!」



 レイド先生が立ち去った後、ボク達は急いでオーク肉を切り分け、一口大の大きさにした物を串へと刺し、塩胡椒で味付けをしてから焚き火で焼き始めました。

 ちなみに、串と塩胡椒を提供したのはボクです。みんなに訊いたら持ってないと返答されたので、【黒神】の中から必要な本数の串と塩胡椒の入った小袋、それと肉を切り分ける為の小刀【無銘】を出しました。

 今回提供しませんでしたが、食材は当然試練のダンジョンで手に入れた物です。ですが、塩以外の調味料はさすがにあそこでは手に入らなかったし、串も適当な木の枝を見付けて使ってたので、試練のダンジョンを出てから用意しました。

 冒険者には野営は付き物ですし、その時の事を考えて、ミサトちゃんにプレゼントした日から毎日コツコツと魔石をギルドへと売り、そうして串と調味料は大量に購入しておきました。

 何事も備えあれば憂いなし。これも一つの危険予知ってやつですね。


 ともあれ、ボク達はダストさん提供のオーク肉の串焼きを食べ終え、寝る前に身体を拭く事にしました。


 ちなみに、ボクとミサトちゃんが先に身体を拭かせてもらったです。レディファーストってやつですね。

 ネコーノ君に覗かれる心配がある為、ボクがテントの入口を見張ってる間にミサトちゃんに拭いてもらい、その後見張りを交代してボクが拭いたです。テントの外にクリス君達が居ると思うと少し恥ずかしかったですが、試練のダンジョンでシュテンに見られてた事を思えばなんて事は無いですね。

 それに、冒険者として活動する様になればこんな事は良くあるシチュエーションなので、早く慣れないとダメですね。



「拭き終わったから、クリス君達も身体を拭いて良いですよ!」


「あたし達は覗かニャいから安心して拭いてくれニャ」


「僕の肉体美を堪能しても良いですぞ?」


「早く拭けニャ!」


「グハァッ! ……ですぞ!」


「……相変わらずだな、ネコーノ」


「懲りないですねぇ、ネコーノ君」



 とまぁ、身体を拭く時に一悶着あったですが、その後は順番に見張りをしながら眠りました。

 ホントに懲りないです、ネコーノ君は。何度返り討ちに遭っても、挫けずに向かって行くその精神に脱帽です。


 ともあれ、こうしてセダイへと向かう一日目は終了したのでした。

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