第25話 ダンジョン飯が美味いなんて、ボクの幻想でした!

 

 二十五



『2』と描かれた扉へと入る前に、拠点としている分岐の間にて腹拵はらごしらえをする事にしました。ゴブリンとの戦闘後に吐いてから何も口にしてないので、さすがに空腹の限界です。



「オークのお肉を黒神から出したのは良いものの、塊肉だから捌かないとですね……」



 取り出したオークのお肉の重さは、およそ20kg程。そのまま焼いても良いですが、塊のままだと食べにくいです。と、言う事で小分けにしたいけど、その為にわざわざブラフマーで切り分けるのもどうかと思うです。むしろ、切り分けるのに刃渡り1mのブラフマーだと細かい切り分けがめんどくさいです。



「だったら! 創っちゃえば良いですね♪ シヴァちゃんがブラフマー等の装備を創れたんだから、ボクにだって創れるはずです!」



 となると、イメージとしてはやっぱり包丁ですかね?

 だけど、料理人じゃあるまいし、冒険者が魔物から素材を剥ぎ取ったり、あるいはお肉を捌いたりするのに包丁を使うのは何だかカッコ悪いです。



「やっぱり、サバイバルナイフですかね? でも、それだと芸が無い気がするです」



 サバイバルナイフだとありきたり過ぎて、何だか嫌です。

 ……だったら、やっぱり包丁ですかね?

 あっ! それならば、サバイバルナイフと包丁の間を取って、小刀にすれば良いですね♪

 小刀ならば、この世界で使ってる人も少ないと思いますし、元々日本人なので馴染み深いです。


 そうと決まれば……!



「さっそく、創ってみるです! えっとぉ……道具の創造方法は…………なるほど、分かったです」



 小刀の創造を決めましたが、その時点では創り方が分からなかったです。ですが、物を創るという認識をした事で、頭の中にその事に関するシヴァちゃんの知識が浮かんで来ました。



「それでは……! 『我が神威と創造神の名を持って創造す。我が知識を元に形を成せ……! 【武器創造クリエイト・アームズ】』」



 意識を集中し、シヴァちゃんの知識を元に小刀を創造しようとしたら、口から勝手に呪文が唱えられてました。

 以前、スラさんを生み出した魔法の時も勝手に呪文を唱えてましたが、あの時とは違って一人きりだった為か、呪文の内容をしっかりと意識する事が出来たです。

 と言うか、シヴァちゃんって創造神だったんですか!?

 ボクを、ボクと融合するという形で助けてくれたから、自称神様という事にも納得してたですが、まさかまさかの創造神様だったとは……! 驚きですね!


 ……まぁ、創造神様と驚いてみた所で、物を作る程度の神様なのでたかが知れてるとは思いますが。



「シヴァちゃんは創造神様だったんですか! ……まぁそれはともかく、どうやら無事に小刀が創造出来たです!」



 シヴァちゃんについて考えていたボクの身体からは白銀のマナ……たぶんそれが神威と呼ばれる神様だけが持つ神力だと思うですが、その神威が溢れ出し、気付けば、ボクの手の中に一つの形を成していました。イメージ通りの、刃渡り20cm程の小刀です。どうやら銘もあるみたいですね。……頭に浮かんだ銘は、小刀【無銘】となってますが。


 小刀の銘はともかく、これでオークのお肉を切り分けて小分けにする事が出来ますね!



「おお! すんごく良く切れるです! さすが、ボクですね! 良い仕事をするです♪」



 小刀【無銘】の切れ味にご機嫌になりながらオークのお肉を切り分け、一食分(およそ300g)を残して後は黒神へと収納します。一食をこのくらいの量にすれば、だいたい三週間は飢える事なく食べられるはずです。……毎食一種類のお肉を食べ続けるのは辛いですが。

 と言うか、三週間も経つ前にダンジョンから脱出したいです!



「そろそろ焼けたですかね?」



 床の上にお肉を置き、右手の掌から噴き出るフレイムの魔法で焼き続ける事およそ5分。お肉からは脂の焼けるジュウジュウという音と、その脂が焼ける美味しそうな匂いがしてます。

 床に直置きは少し抵抗があったですが、この際仕方ないです。こんな時の為に鍋や串、それに器なども、その内用意しないとダメですね。


 それよりも、もはや空腹の限界です。さっきからよだれが止まらないです。

 小刀【無銘】……もう無銘だけで良いですね。無銘で焼けたお肉を一口サイズに切り分け、フーフーと軽く冷ましながら口の中へ。



「いただきます! パクッ! もぐもぐもぐ。……ゴクンッ! こ、これは! 噛めば噛む程に肉汁が溢れ出し、しかもしつこくなくて、あっさりとしていて……! 美味しいぃぃぃですぅぅぅぅっ!!! …………と言うとでも思ったか、です!」



 確かに、焼いたお肉としては極上だとは思うです。ですが、やはり塩気が欲しいです!

 滋味溢れる味と言えば聞こえは良いですが、やはり調味料を使わなければそこまで美味しいものでは無いです。この様な状況の時に贅沢かもしれないですが。

 しかし、かつて読んだラノベではさも美味しそうにダンジョンでとれた食材でご飯を食べてましたが、あれは調味料など全てが揃った上でのものだったんですね。ダンジョンで食べるご飯は美味しいという幻想を抱いていたボクが馬鹿でした。


 ともあれ、味はともかくお腹は膨れたので、『2』の扉の攻略を開始です!




 ☆☆☆




 攻略開始と意気込んで開けた『2』と描かれた扉の奥は、いわゆる『モンスター部屋』と呼ばれるものでした。



「いくら弱いゴブリンとは言え、こんなに沢山出てくるのはルール違反ですぅ〜っっ!!!」



『2』の扉を開け、その後の通路を進むと……やはり『1』の扉の通路と同じ様に、立派な扉がありました。やはり同じ様にその扉を開けて中に入ると、案の定扉は閉じ、何をやっても開かなくなったです。あ、広間の広さも『1』と同じ程ですね。


『1』と同じとなれば当然、扉を開ける為の鍵となる魔物の討伐となるのでしょうが、その鍵となる魔物の特定が中々出来なかったです。……あまりにも大量のゴブリンが部屋の奥、陽炎の様な空間の揺らめきから現れ続けるので。


 最終的には一万体は出て来たですかね? 結局、扉を開ける鍵となる魔物は、一番最後に出て来た『ゴブリンロード』という魔物でした。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 魔物名:ゴブリンロード

 種族名:小鬼族

 ランク:SSランク

 特徴:ゴブリンを統べる、ゴブリンにとっての絶対的な王。体長は2m程。

 ゴブリンが長い年月を生き、魔力を蓄え、いくつもの進化の果てに辿り着く存在。

 長い年月を生きた為に知能は高く、たどたどしいが人語も操る。下級だが、八属性魔法を操り、回復魔法さえも使える。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 クイーン・ブリオンの時の様に魔法で一網打尽にしたい所でしたが、一度に出現するゴブリンの数は多くても20体。その都度魔法を唱えていたんじゃ、いくら無限の魔力を持っていようと疲れるです。精神的に。

 かと言って、ブラフマーで一体一体倒すのも骨が折れるです。

 ですが、一度に出現する数は20体なので、一対多の近接戦闘の訓練には最適です。ゴブリンならば弱いので。それに、途中で体力が尽きたとしても回復魔法で回復出来るので、問題ない筈です……!



「君たちには悪いですが、訓練……開始です! はあぁぁぁぁっっ!!!」



 黒神からブラフマーを取り出し、双剣で構えを取りながら20体のゴブリン達の中心へと飛び込みます。それと同時に、両腕で自らの身体を抱く様に力を溜め、更に身体を回転させながら両手の剣を横薙ぎにしました。これだけでゴブリン四体を仕留めたです。首を切断したのが二体に腰から上下に両断したのが二体。それを見た他のゴブリン達は、怒りの奇声を発しながら一斉に襲い掛かって来ました。



『『『ギギャギャギャーーッ!!!』』』



 この時はまだ、この広間がモンスター部屋だとは気付かなかった為に怖気付かずに襲い掛かって来るゴブリン達を不思議に思いました。……が、それよりも、その場で剣を振るうだけで次々とゴブリンを倒せる事がこの時は楽しかったですね。その場から動かないだけに体力的にも楽でしたし。


 そうしてゴブリン達を袈裟斬り、逆袈裟斬り、横薙ぎ、唐竹割り等々、剣舞を舞う様に次々と倒していきました。



「ふぅ……! G虫達よりは楽ですね。これで扉も開いて……ないです!?」



 20体のゴブリン達を倒し終え、扉が開いてるだろうと振り返れば、扉はまだ閉まったままでした。

 そうです。この時はこれだけで扉が開くと気楽に思ってました。ですが、それはやはり甘い考えだと、この後ボクは深く理解したです。



「えっ!? また20体現れたです!?」



 20体1セットで、次から次へとゴブリン達が出現し始めたのです。

 それでも、まだ最初の方は良かったです。普通の弱いゴブリン達だったので。ですが、途中からゴブリンメイジやゴブリンリーダーが混じり始め、遂にはゴブリンジェネラルやゴブリンキング等の上位種も大量に出現し始めました。


 ちなみに、ゴブリン達の死体が百体程になると、スラさんが「ヌヴァー!」と言いながら自主的にボクの股間から離れ、そして吸収してくれました。じゃないと、戦闘の邪魔になりますからね。


 ……ゴブリン達の死体云々はともかく、ゴブリンジェネラルやゴブリンキングが大量に現れ始めた時点で叫んだのが「ルール違反ですぅ〜っっ!!!」という言葉でした。ちなみにこの時点でのゴブリン達の討伐数は、およそ三千体程。体力を回復する魔法『キュア』も、既に十回は使ってます。



「ひぃぃぃぃ〜〜っ!! いったい、いつまで出てくるですか!? うわっ、危なっ!!?」



 20体1セットで出てくるゴブリンも、やがてはその全てがゴブリンキングとなり、正に地獄の、連戦に次ぐ連戦でした。



「はひぃ〜っ、はひぃ〜っ……! 『キュア!』」



 何体のゴブリンキングを倒したのか。討伐数は定かではなかったですが、感覚では最初のゴブリンからゴブリンキングまで、一万体近くは倒してるはずです。キュアを唱えた事で体力は回復したですが、精神的な疲れは相当溜まってました。


 ……と、その時でした。


 今まで20体1セットで出現していたゴブリン達が姿を見せず、代わりに体長2m程の、肌の色が暗緑色では無く赤暗色のゴブリンキング(?)が一体だけ出現しました。但し、それまでに出現していたゴブリンキングとは違い、身体には歴戦の戦士の様な鎧を纏い、右手には身の丈程もある大剣を持っていたです。



「オマエガ……ソウナノカ? ココニ居ルトイウ事ハ、キットソウナノダロウ……。オレガ『アノ方』ヨリ頼マレタ使命ヲ今コソ果タス時。イザ、参ル……!!」



 そのゴブリンキングはそう述べると、右手に持った大剣を両手に構えてボクへと攻撃を仕掛けて来ました。拙いとは言え人語を操るだけに、今までのゴブリンキングとは違うです。



「――っ!! は、速いです!」



 その速度はやはり、今までのゴブリンキングとは明らかに違いました。いや、次元が違うと言った方が良いですね。何せ、あれ程の大きさの大剣を持ちながら、一瞬にして間合いを詰めたんですから。



「くぅっ!? きゃあぁぁぁぁっっ!!!」



 咄嗟に取ったブラフマーの十字受けが間に合い初撃は防げたですが、大剣を軽々しく振るうゴブリンキングの膂力は凄まじく、ボクはあっさりと壁まで吹き飛ばされたです。壁に激突した衝撃はかなりの物があったですが、女神の羽衣の防御力のお陰でダメージはありません。



「な、なんて力ですか……!」


「コノ程度デ驚カレテモ困ルゾ? ……『アイスアロー!』」



 ゴブリンキングは両手で構えていた大剣を再び右手に持つと、左手の掌をボクへと向けて魔法を放って来ました。



「ま、魔法まで使えるです!? ――くっ!」



 放たれたアイスアローの本数は僅かに五本。油断せずにゴブリンキングに集中していた為、何とか避ける事には成功しました。

 魔法を使ったゴブリンキングには驚きましたが、やはり魔法は苦手なのか、その速度が遅かったのも幸いでしたね。



「魔法まで使うとは、ゴブリンキングにしてはですね……!」


「オレヲ『ゴブリンキング』ダト思ウノハ間違イダ。オレハ、ゴブリンヲ統ベル存在……『ゴブリンロード』ダカラナ!!」



 その名前を聞いた瞬間、ゴブリンロードに関する知識を得ました。どおりで、ゴブリンキングよりも遥かに強いはずです。

 普通のゴブリンキングは、ランクで言えばAランク相当です。しかしゴブリンロードのランクはSSランク。実力で言えば、キングとロードの差は、正に歴戦の勇士と駆け出し冒険者程の差があるです。

 ですが、ボクも負ける訳にはいかないです。こんな所で死んだのでは、大事なボクの家族……美代達を探す事も出来なくなってしまうです。

 それに……一万体近くのゴブリン達を倒し続けたお陰か、今まで違和感を感じていた身体がすごく馴染んできたです。身体の底から力が湧き出る様に。

 マナにしてもそうです。今なら、それこそ息をするようにあらゆる魔法を使いこなせそうです。威力の調整も、規模も。



「なるほど。ゴブリンロードでしたか! ゴブリンキングとは違うと言うのは分かったです。ですが、ここからはボクも本気を出すです。馴染んできたこの身体での、ボクの本気を!!

魔法剣ソード!』」



 反撃の狼煙として選んだのはソードの魔法。出現させたソードの数は十本。馴染んだ身体の慣らしとしては、これくらいが丁度良いです。



「……行くですっ!!」


「流石ハ『アノ方』ノ後継者。……イヤ、元ニ戻ッタ、ガ正解カ。コレデ、オレノ全テヲ託セル。…………来イッ!!」



 宙を自在に舞う十本の剣達と、その剣達の動きに合わせる様にゴブリンロードとの間合いを詰めるボク。

 対するゴブリンロードは小声で何かを言っていたですが、ニヤリとした笑みを浮かべて、大剣を再び両手に持ち正面で構えました。


 こうして、ボクとゴブリンロードとの激しい戦闘が開始されたのでした。

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