第9話 みずべちほー

 バスが道を進む間もエルシアは考え事をしていた。


 しかし本が言っていた『同胞』とはどういう事なのだろうか。俺は本だったのか?いや、さすがにそれはあり得ないか。


 目的地へ向かっていた最中、進行方向に何かが飛び出してきた。それは小型で青色で四肢は付いておらず、頭に耳のような部分と宝石のように光り輝く石が付いていた。何より印象的な箇所は顔の中心の大きな一つ目だろう。


「うわっ!何だあれ!?」

「あれはセルリアンだよ!」


 パーティーの時にかばんちゃんが言ってたやつか!こんな急に現れるものなのか!?


「サーバルちゃん!」

「任せて!」


 バスは停止し、サーバルがセルリアンの前に躍り出た。一つ目の怪物は飛び跳ねながらサーバルに近づいて行った。


 しかしサーバルはそれを避けずに右手の爪で迎え撃った。爪はうなじにあたる位置にある石にめり込み砕いた。すると、セルリアンも石が砕かれると同時にパッカーンと軽快な音を立て、青色の直方体を辺りに飛散させ消滅した。


 セルリアンを倒したサーバルはバスに戻ってきた。



「おお!すごい!!」

「えっへん!あれくらいのサイズならわたしの自慢の爪でやっつけちゃうよ!もしセルリアンを見つけたら教えてね!」

「分かった!」


 それから後はセルリアンの襲撃も無く、一行は目的地であるみずべちほーに到着した。その名に相応しく大きな湖がはっきりと確認出来る。細い一本道を進むと観客席とステージが見えてきた。もしかすると、PPPはここでライブを行っているのだろうか。


 観客席には誰一人居ないかと思われたが、前の席に誰かが座っていた。


「おーい!プリンセスー!」


 サーバルがプリンセスに呼び掛けた。


「あら?かばん達じゃない!!」


 プリンセスは嬉しそうに駆け寄ってきた。


「みんなはどうしたここに居るのかしら?」

「前みたいにパークを一周するんです!それでみずべちほーに来ました!」

「そうなのね!前よりメンバーが増えてもっと賑やかになりそうね!……そうだ!皆を呼んで来るわね!」


 プリンセスはステージに上り、その横のドアを開け中に入っていった。


 ドアから出てきたのはPPPのメンバーだけではなかった。PPPのマネージャーのマーゲイに加え、ライオン、ヘラジカまで出てきた。


「お前は!あの時の強そうなヒトじゃないか!」


 エルシアを視界に認めた途端、ヘラジカは弾丸のごとく一直線に彼の元に走っていった。


「なあ、今度こそ私と勝負しないか!?」

「ええ……別に強くないですし、今怪我すると困るのでまた今度にしませんか?」

「頼む!一回だけでいい!怪我をしない程度に加減する!」

「ヘラジカ~。彼困ってるよ?勝負なんて今やる必要ないでしょ?」


 弾丸の後を追いやってきたライオンがヘラジカを静かに宥めた。


「むう……そうだな。勝負とはお互いの全力を引き出せる状況で行う事に真価が宿る。私が強制するようでは全力など出せないな。仕方ない、勝負はおあずけにしよう。それでいいか?」


 いいも何もこちらは勝負をするとなど一言も言っていないのだがなどと考えながらエルシアは首肯した。怒涛の剣幕で彼を追い詰めたヘラジカはマーゲイに少し離れた場所に連れていかれ、軽く注意されていた。


「ねえ、ジャパリまん持ってない~?」


 危機から解放されほっとしていた所、ゆるっとした声が聞こえた。視線を声の聞こえた方向に移すと、いつの間にかPPPのメンバーの一人のフルルが目の前に立っていた。


「いきなりジャパリまんをねだったら失礼だろ?」

「え~?だってお腹すいたから~。」

「さっき食べてたじゃねぇか!」

「フルルさんらしいですね!」


 気付かぬうちにPPPのメンバー全員が目の前に居た。


「エルシアです!」

「この前聞いたよ~。」

「よろしく。」

「よろしくお願いします!」

「オレ達じゃ空には連れていけないけどよろしくな!」


 あの時の事を覚えてくれていたので彼は内心喜んだ。


「もうすぐライブがあるから練習をやってるんだけど見ていかない?」

「おお!いいですね!」


 アイドルの貴重な練習風景が見れるのか!こういうのは日本ならまずお目にかかれないだろうし見ときたいなー!


「でも僕達はプラチナチケットを持っていませんよ?」

「そうね……ねえマーゲイ、今回は特別にチケット無しで見学出来ないかしら?」


 横を見ると遠くに居たはずのマーゲイが側に居た。フレンズの間では気配を殺す歩術が基本なのだろうか。


「しかしそれでは他のファンの皆さんに怒られるかもしれません。」

「うーーん、それはまずいな……。」

「いい事を思いつきました!」


 マーゲイはパンと手を叩いた。


「今までのライブで行わなかったような新しい試みを取り入れようと思ってたんですよ!これはいい機会ですね!」

「と言いますと?」

「エルシアさんは『ヒーローショー』をご存じですか?」


 ヒーローショーというとアニメや特撮の悪役がステージに乱入してきて、観客や司会進行役の人を人質にして横暴に振る舞っている所にヒーローが颯爽と現れて悪役を成敗するアレだよな?


「はい。知ってますよ?何なら見たこともありますし。」


 何故そんな事を聞くのだろうか。


「おお!知ってるんですね!なら話は早いです!そんなあなたにぜひ仮面フレンズになって欲しいんです!」

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