第10話 れんしゅう

 仮面フレンズって何だ?ヒーロー物みたいな名前だしやることは同じなのか?


「仮面フレンズに参加いただけるならこのプラチケチケットを皆さん全員にお渡しします!どうです?やってみませんか!?」


 マーゲイはチケットを取り出し、エルシアの顔の前に持ってきた。


「そのプラチケチケットっていうのはどういう事が出来るんですか?」

「よくぞ聞いてくれました!このチケットはですね~、ぐへへ、PPPの皆さんの練習を見学出来るんです!皆の憧れのアイドルの裏の顔を見れるだけでも鼻血ものですよね!!!しかも、それだけじゃありません!!!なんと、握手も出来るんです!!!へへっ、握手!!!握手ですよ!!!ステージの上で歌って踊るッ!!!天使達とッ!!!握手ッ!!!出来るんですッ!!!!ふへへッ!!!これはお得ですよ!!!こんなチャンス滅多にありません!!!さあ、仮面フレンズになってPPPの皆さんと至福の時間を過ごしましょう!!!!!」


 マーゲイは息を荒げながら破竹の勢いで説明した。エルシアの頭には半分程度しか入ってこなかったが、とにかく価値が高い事は理解出来た。


「分かりました。やってみます!」

「ありがとうございますぅ!ライブの日が楽しみです!」


 まだ練習すらしてないのになあ……期待に応えられるよう頑張るか!






 マーゲイに実際に使用する衣装を選んでほしいと言われたので一行は楽屋にやってきた。楽屋の隣の部屋に衣装室が用意されているようで、そこに案内された。


「この中から好きなデザインを一つ選んでください!」


 クローゼットの中には六色のヒーローのスーツがハンガーに掛けられていた。


 白いスーツにはスーツと同じ色の猫型のケモ耳と尻尾が付いている。


 赤いスーツは白と見た目はほとんど同じだが、耳は犬型で、グローブの指の先が鋭くとがっている。


 緑色のスーツは蛇のような尻尾に爬虫類の鱗を模したデザインが全身に彩られている。


 黄色のスーツは頭にイルカが持つような形状のヒレが付いている。


 ピンクのスーツは頭に鳥の羽が付いており、ズボンの代わりにスカートになっている。


 中でも彼の目を引いたのは青いスーツだった。白や赤のようなケモ耳と尻尾は付いていないが、その代わりにヘルメットには二本の角、蛇のような尻尾、そしてコウモリのような形状の翼が一対背中に付いている。仮名をドラゴンの主人公の名前から取った事から伺えるように、ドラゴンを愛してやまない彼の興味を誘うには十分な見た目であった。


「この青いのにします!」

「分かりました!試しに着てみますか?」

「いいんですか!?」


 着てみたいのはやまやまだがこのまま着替える訳にはいかないので、衣装室には彼だけが残った。着替え終わった後に衣装室から先程のスーツを来た彼が現れた。


「どうですか?似合ってます?」

「おお!素晴らしいです!センスがキラリ光ってます!」


 うんうん!そうだよな!ドラゴンだし!なにせ羽も付いてるし!


「悪役の皆さんはこちらを!」


 ヒーローのスーツが入っていた右隣のクローゼットに、黒に染まったとげとげしいデザインの衣装が入っていた。彼はシナリオから察して親玉の衣装は一つしか用意されていないのではと内心思っていたが、クローゼットの中には親玉どころか悪役全員分の衣装が二セット用意されていたので事なきを得た。


 彼が居るにも関わらずそのまま着替えようとしたので、彼は急いで脱出した。それから数分後、見るからに悪巧みをしていそうな集団が楽屋からぞろぞろと出てきた。


 悪役のもいいじゃん!結構かっこいいな!


 その後の練習はまずスーツ無しで行う手筈で進み、ヒーローと悪役達は元の姿に戻った。






 かくして練習を始めようと準備をしていた彼は気づいた。台本は無いのだろうか。さすがに一から物語を作るなんてとてもではないが出来たものではない。


「台本はありますか?」

「はい!あります!」


 マーゲイは奥からヒーローのイラストが表紙を飾る本を持ってきた。彼はそれを受け取り内容を確認した。


 えー、なになに?想定通りのシナリオだな。これならセリフと動き方を覚えればどうにかなりそうだな。……ちょっと待った。ここはきちんと確認しておかないといけないな。


「仮面フレンズは俺がやるとして、悪役は誰がやるんですか?」

「それは問題無いよ~。」

「私達に任せてくれ!」


 ライオンとヘラジカの後ろにぞろぞろとフレンズが集っている。


「私とヘラジカの群れから何人か選んで悪役をやるよ。」


 組員は大丈夫だな。


「悪の親玉は誰がするんですか?」


 シナリオでは悪役の組員は三人、親玉は一人となっている。


「私とヘラジカでやるよ~。」

「シナリオでは悪の親玉は一人なんですよ。」

「それなら私が自分でセリフを考えるよ。」


 なるほどアドリブね……アドリブ!?


「大丈夫でしょうか?」

「大丈夫!私達ならやれる!」


 ヘラジカには謎の自信があるようだ。


「ライオンさんならきっと大丈夫です!早速練習に取り掛かりましょう!」


 エルシアは不安を胸に抱いたまま演技に取り掛かった。






 悪役を担当するのはライオン側からライオン、オーロックス、アラビアオリックス。ヘラジカ側からヘラジカとパンサーカメレオンに決まった。


 ヒーローショーと言えば観客との掛け合いが重要だが、今ここに観客など居るはずも無い。そこで、PPPに休憩がてら掛け合いに協力してもらい、掛け合いがあるシーンから先に練習する事にした。


 お願いヒーロー!/


 「もっと声を出しましょう!せーの!」


 お願いヒーロー!!/


 「もう一回!もーっと大きな声で!せーの!」


 お願いヒーロー!!!/


「そこまでだ!破滅ライヘラ.net!」

「一体何者なんだお前は!」


 ここでスッとヒーローが現れるのだがどうにも味気ないのでセリフを考えておいた。


「全てを優しく包み込む厳かな海の規律を乱す者達よ!浮世に波打つ悪のさざなみは、大海の覇者たるこの俺が許さない!仮面フレンズ……仮面フレンズ……えーっと……。」


 そういや名前決めてなかったな……。仮面フレンズドラゴン……はどうも締りが悪い。青いし竜だしセイリュウか……?でも竜と龍は別物だしなぁ。ドラゴン……ドラゴン……ドラゴ…… 仮面フレンズドラゴ……よし!これにしよう!


「仮面フレンズドラゴ、参上ォ!……すいません、もう一回いいですか?」

「分かりました!」


 「もう一回!もーっと大きな声で!せーの!」


 お願いヒーロー!!!/


「そこまでだ!破滅ライヘラ.net!」

「一体何者なんだお前は!」

「全てを優しく包み込む厳かな海の規律を乱す者達よ!浮世に波打つ悪のさざなみは、大海の覇者たるこの俺が許さない!仮面フレンズドラゴ、参上ォ!」


 ここで右手を大きく掲げてフィニッシュだ!


「おお!いいですよ!それじゃあ、次は負けそうになるシーンをお願いします!」


 あれだな。ヒーローが負けそうな時に声援を受けて立ち上がるシーン。今度はセリフを覚えているからバッチリだ。


「はっはっはっ!どうした?そんなものか仮面フレンズ!」

「その程度の実力で我らに勝てると思ったら大間違いだ。」

「くっ……!このままでは負けてしまう!」


 ここで俺が片膝を付いて息を切らす。


「仮面フレンズが負けそうです!皆で応援しましょう!」


 負けるなヒーロー!/


「もっと声を出して応援しましょう!せーの!」


 負けるなヒーロー!!/


「まだまだ!声を出して!せーの!」


 負けるなヒーロー!!!/


「うおぉぉぉぉ!俺は負けん!」


 声援を受けて再び立ち上がる。よし、しっかりやれてるな。


「いいですいいです!見てるこっちまでアツくなってきます!」


 その後も失敗を繰り返しながら演技は続き、そうこうする内にやがて日が暮れたので練習はお開きになった。






 練習を始めて二日が経過した頃には全員がそれぞれのセリフと動き方を完全に理解していた。そこで、実際に衣装を着て通して演技を行う事にした。


「パークの平和は俺が守る!」


 このセリフの後に役者が全員ステージに戻ってくる。


「ありがとうございました!」


 お決まりの仲良く揃っての礼も欠かさない。


「……いい!実にいい!皆さんを選んで正解でした!これなら絶対に盛り上がりますよ!」


 最初は不安しか無かったけどこれなら間違いなくいける!本番が待ち遠しいなぁ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る