一期一振 －ドワーフ褐色ロリ巨乳幼女が征く、首刎ねプレイ日誌－

第26話 果たし合いですよ。本気のチャンバラは楽しい。

　――　Fight!　――

「ヲヲヲヲヲオオオオオオオオオオオオオオオオオ！！！」

　喉から血を吐き出さんばかりの咆吼を上げて威嚇する。

　殺し合いとは如何に気迫で相手をびびらせるか。

　少なくとも私はそう学んだ。

　実践で。何度も殺されて。

　だから一切躊躇しない！

「死ねぇぇい！！」

　得物である西洋刀をおじさまの顔目掛けてブン投げた。

「なっ！？」

　流石に初手から武器の放棄は脳裏になかった御様子。

　虚を突かれたおじさまは、それでも飛来する刃物をとっさに長大剣で叩き落とせるのだからスペックが高い。

「セイッ」

　おじさまが得物を叩き落とす一間隔の時間で、私は一足跳びして肉薄。そして相手の首にむかって鞘を強打。

「ぬおっ」

　鞘は只のオブジェクトでダメージ判定なんてないけれど、“殴られたという認識”は与えることができる。

　ゲーム的には無意味なんだけどＶＲは脳を騙すシステムだから、「殴られた」と脳が認識すればゲームアバターにも影響は出るのだ！

「もう一発！」

　おじさまがたたらを踏んでいる間に、私はコマのようにぐるりと回って首の反対側に鞘による殴打を試みたのだけれど。

「二発も喰らうか！！」

　おじさまの復帰の方が早かった。

　身を仰け反って躱され、大上段から長大剣が振り下ろされる。

　鈍い衝突音。そして爆発音。

　長大剣に叩かれた地面が破裂した。

　間一髪のところで後退できたのだけど、地面が破裂した衝撃をもろに喰らってしまい私は空高く打ち上げられてしまった。

「このまま死ね」

　空中で動きようがない私へ追撃の刺突が容赦なく繰り出され。

　私は鞘の側面で切っ先を捕らえ、刺突をガードした。

　その衝撃で私の体は吹っ飛んだ。

「まだまだぁ！！」

　地面に打ち付けられ勢いのままにゴロゴロ転がって間合いを広げ、ぴょいっと立ち上がる。

　相手を確認すれば体勢を整えていた。

　追撃ではないあたり流石だった。

　騎士の本懐は守護。

　フラウゼンおじさまはそれがよくわかっている御様子。

「お次はこれです！」

　騎士相手に気を熟すのを待ってはいけない。

　私の知見である。

　踏み込み、おじさまの懐向けて果敢に跳び込む。

　おじさまは私を斬り棄てんと長剣を振り下ろす仕草を見せた。

「かかった！」

　懐に入る一歩手前で制止した私は鞘を右手で握り、峰に左手を当て、おじさまの手首に思い切りぶつけた。

「んっ！」

　大抵のヒトならこれで武器を手放してしまうのだけど、おじさまはどうにか耐えたらしい。

　これはちょっとまずい。

　膠着してしまった。

　おじさまは私をそのまま押し潰して体勢を崩そうと圧をかけ続け、私はそれに耐えるという構図。

　どうしようかと、思案する。

　受け流すか、跳ね返すか。

　残念ながらこのアバターだと跳ね返すだけの膂力がない。

　かといって受け流すにしてもおじさまの技量だと流した途端横薙ぎされて私の胴が泣き別れになる気がする。

「停滞はあまりよろしくない」

　ぼそりとおじさまが呟いた。

　同意見である。

　ググググッと圧が増した。

　耐えきれずザリッと右足が下がる。

　そこで思い出した。

　ここの地面は只の土塊。

　閃く。

　峰に当てていた左手の力を弱め、おじさまの腕を左に受け流す。

　それと同時に地面を掘るようにつま先を打ち付け、土塊を相手の顔面目掛けて蹴り上げた。

「ぬっ」

　おじさまは瞬時に飛び退いた。

　ゲームだと土塊の目つぶしなど効果がないのだけど、おじさまはきっと条件反射で下がってしまったのだろう。

「悪手ですわよ？」

　跳び退くおじさまに鞘を投げて追撃、そして地面に落ちていた得物をひょいっと拾って刺突。

「ごはっ」

　得物の切っ先がおじさまの喉を貫いた。

　――　エコ　win!　――

　システムアナウンスを聞き一息つく。

　とりあえず一勝。

「卑怯な！！」

　場外からお嬢さんのわめき声が聞こえるけど、殺し合いに卑怯もなにもない。

「さ、どんどんやりましょう。気が済むまで。もしくは、なにかをつかむまで」

「実に頼もしい言葉です。よろしくお願いします。レディ」

　フラウゼンおじさまちょっと楽しそう。ノッてきたのかしらね。

　――　Fight!　――

　それから。

　幾度と腕が千切れ飛び、脚が斬り落とされ、胴が別たれ、串刺しになり、首が刎ね跳び、頭を叩き潰され、腹をカッ捌き、顎を削ぐ。

　楽しい遣り取りを繰り返し、武器が壊れないのをいいことに鍔迫り合い、鎬削り、打ち合い、などなどあらゆる手を使って殺し合った。

「まだまだぁ！！」

　もはや何戦目か覚えていないのだけれど、私はだいぶハイになっていた。

　山賊討伐イベントで山籠もりしてひたすら斬り殺しまくった時以来のハイテンションである。

　あの時は本当に酷かった。

　何百という山賊がゲリラアタックしてくるという正気を疑うイベントにソロで参加したせいで気を休めることもできずゲーム内時間で一週間ぶっ続け盗賊討伐に明け暮れた。

　現実時間ではそんなに長くなかったのだけど、体感は一週間だったし、羅刹修羅の境地に至れてしまうかと思った。

「なんのこちらこそ！！」

　フラウゼンおじさまが吼えた。

　だいぶ凶悪な顔になっておられる。

　間違っても連れのお嬢さんに見せていい貌じゃないと思うのだけれど。

「チェェェェエエエエ」

「シァァァァアアアア」

　奇声を上げて得物を振りかぶる。

　もはや術とか技とか策など考えていない。

　本能に従い、こうすれば敵を殺せるという直感の下、体を動かしていた。

　そんなある種極まりだした頃合いだった。

『ゴォォォォォォンゴォォォォォォンゴォォォォォォンゴォォォォォォン』

「えっ？」

「はっ？」

　けたたましい鐘の音が轟き渡り、私達の殺し合いは妨げられてしまった。

　そして、ギャリギャリと歯車が回る轟音が当たりを満たし、汽笛が響く。

「あぁ･･････もうそんな時間」

　北門が閉まる。

　そういえば私は、この情景を見るためにここに来たんだった。

　気がつけば、もう空が赤い。

　いったい何時間戦っていたのやら。

「･･････レディ」

　おじさまの声音は既に平静に戻っていた。

「気が佚してしまいましたね」

　私も修羅の境地を脱してしまっていた。完全に戦う心持ちじゃない。

「まぁ、良い刺激にはなったか」

　おじさまが呟いて視線を流した。

　釣られて視線を向ければ、コルディナ嬢が「なんで･･････どうして･･････」と錯乱している。

「大丈夫です？」

　そう私が問えば。

「現実の方で語り聞かせれば大丈夫かと」

　とおじさまが応えたので。

「そうですか」

　私はとりあえず面倒なことにはならないかなと楽観した。

「決闘、破棄でよろしいですか？」

「えぇ。長々とありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。久々に血の滾る闘いでした。御礼申し上げます」

　一礼して、私は決闘を破棄。

　ついでだからと、尋ねた。

「フレンド登録いかがです？」

「よろしいのですか？」

「もちろん」

「では、お願いします」

　おじさまとのフレ登録をすませた私は深々と頭を下げて暇乞いの言を告げ、ログアウトしたのでした～。