第25話 もう一手御所望します。うっかりはもういたしません。


「コルディナ、やりすぎなどではない」


「なっ!?」


 お嬢さん絶句しちゃったけど、正しいのはおじさまの方。

 立場を考えるならおじさまと同じ言動ができてしかるべきじゃないのかなぁ?


 まぁ、コルディナお嬢さんが実はまだ成人してないとか、実は騎士じゃないとか、そいういうんならまだしも、ね。


「フラウゼン様、もう一手、お願いできないでしょうか?」


「な!? 何を言っているのだ!! 君は先程心臓を砕かれたばかりなのだぞ!?」


 怒鳴ってるところ悪いけれども、これは貴女のための一戦なのですよ。

 それがわかるまであと何手合わせる羽目になるだろうか。

 でもフラウゼン氏の願いを受けてしまったのだから最後までやるのが義というものでしょう。


「コルディナ嬢、でよろしかったですか?」


 まぁ、でも、なんの説明もなしというのは些か前時代すぎるのでヒントだけでも。


「うん? うん、そうだが。なにか?」


 あんなに怒鳴っていたのに気が削がれた途端素直になったねぇ。そういうの、だめだよ?

 感情のコントロールはとても大事なんだから。


「貴女も軍人? もしくはそれに準ずる立場の人かしらん?」


「来年、軍へ入る予定になっている」


 あぁ、そうなのね。じゃぁ、予定通りの戦闘をしないとかな。


「回答、ありがとうございます。では、しかと見学して軍人とは何かを考えるとよろしいかと」


「君はっ!! 何を考えているんだ!? 叔父上も!!」


 一言ヒントは与えたし、もう無視でよかろ。

 この手のと喋るのは労力がいるのだ。

 そんなことのために使うぐらいならおじさまと手合わせした方が断然有意義。


「おじさま? よろしい?」


「レディに最大級の感謝を」


「謹んでお受け致しますわ」


 ノリノリにカーテシーしてみせちゃう。


 ・・・・・・さって、手合わせだ。

 さっきみたいな“うっかり”はもうしないゾ。


 ―― フラウゼンが決闘を申し込みました ――


 よし。やるか。


 ―― エコが決闘を受け入れました ――


 1残しじゃなくて全損にしよう。見せるべきは殺し合いであって、立ち会いじゃない。

 それと10本先取にしておこうかな。いちいち仕切り直すの面倒だしね。


 ・・・・・・できれば色々買い足して準備したかったけど、その時間はないし、しかたない。


「レディ・エコ。全力で頼みます」


「もちろんですわ。死力を尽くして、必ずや殺してあげましょう」


 満面の笑みで告げた。

 これぐらいの宣戦布告をしないと、ね。


 フラウゼン氏も笑みを浮かべて頷いてくれた。


「必ずや粉砕し、護りきってみせましょう」


 獰猛な笑みだこと。

 でも、たぶん、私も似たような表情してるんだろうな。ちょっとわくわくしてきた。


 ―― 方式が選択されました。 10th Dead or Alive ――


 青いドームが形成され、戦場が制定された。


 もはや、会話はいらない。

 無言でお互い、構えた。


 おじさまは先程と同じく下段の構え。

 対する私は、構えぬ構えを取った。


 両足を立ち幅に広げ、両手をぶらりと垂らす。右手に得物。


 その構えを取った私を見たフラウゼンおじさまの眉がぴくりと動いたのだけれど、嫌な思い出でもあったのかしら?


 呼吸を整える。

 心拍数を制御する。

 五感の感度を上げる。

 脳を騙して意識を最高潮に引き上げる。


 ・・・・・・さぁ、殺し合いましょう。西洋の騎士様。

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