敵位


「アレク! 早く!」

「待つんだ、何をそんなに」


 新入生代表アレクは仲間たちに手をひかれ、慌ただしくロビーに到着した。多くの生徒たちが集まっていた。


「何の騒ぎだい?」


「ベストランカーが発表されてる!」

「ああ。先輩方のランキングだね。そんなに慌てなくてもいいじゃないか」


 ベストランカー発表は恒例のことだ。アレクは大騒ぎしている面々に微笑んだ。


「違うんだ」

「ちょっとお前らそこどけ!」


 アレクに忠誠を誓った数人が、他の野次馬を掻き分けアレクの道を作った。


 アレクの目にもそれは飛び込んできた。


 ご丁寧に学年別に色分けされていたので、ただ一人異色を放っていた。どうしても最初にそこに目がいく。それは知っている名前だった。


「ミロード……ミロード君って僕らのクラスのあのミロード君かい?」

「あのミロード以外ミロードはいない!」

「騎士名は学長が一人一人に付けるから同じ名前の奴はいない」


 在籍中の生徒の騎士名は決して被らない。そんなことはアレクも知ってはいる。しかし理解が追いつかない。ベストランカーは上位三十人だけが名を連ねるものだ。昨日今日入学したばかりの新入生の名がそこにあるはずはない。あるはずないものが、しかし事実としてここにある。


「ミロード君……」


「だからアイツ、アレクに忠誠を誓わなかったんだ」

「何かズルをしたんじゃ」

「一緒にいるセレストも怪しい」


「待つんだ君たち。そんな頭ごなしに責め立てるのは良くない。セレスト君だって悪い人には見えなかった」


 動揺は隠せないが、アレクは皆を一旦落ち着かせようと笑顔を見せる。


「アレク。ベストランカーだぞ! ズル以外にどんな理由があるって言うんだ」

「それは──」


 まともに考えて答えが出るはずはない。


「ありえないことだと思うけれど……」


 アレクはもう一度ベストランカーのリストにあるミロードの名前を見た。


「ここに名をあげた誰の功績を、僕たちがいちいち勘繰る必要はないよ。間違ってベストランカーに入ることはない。ここに名を刻んだという事実は変わらない」

「納得いくかよ!」


 ポイントが100だとか、自分の方が10多いだとか。そんなことで大騒ぎしていた昨日の自分たちの横で、ミロードがどんな手を使ってポイントを荒稼ぎしていたのか。


「納得はしていない。僕だって意味がわからない。でもだからといって難癖をつけていい理由にはならない」


 アレクはゆっくり視線を落として目を閉じた。


「だが君たちの憤りもわかる。僕が代表してミロード君に直接聞いてみるよ」


「アレク」

「僕は君たちの忠誠を踏みにじったりはしない」

「アレク」


「──行こう、僕の騎士たち」


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