8.確信をもたらす権利の進呈

「最初の地・・・ね」


《最初の地を10の候補地から選択していただきます。条件が満たされました。「最初の地」候補地を表示します》



 テーブルの上のモニターにリストが表示される。


 右上にある詳細表示ボタンに、これみよがしに膨張と縮小を繰り返す指差しマークが付随する。まぁ、確かに名前だけではわからん。俺にとって第二の人生のスタート地点だ。少しは真面目に吟味してみるとしよう。・・・と、詳細表示を要求したところで気づいたけど、人生のスタート地点はここだよな。まぁ細かいことは良しとして・・・と。



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 ●港湾都市ユヌスグウ近郊の高台


 場所:トヴウ大陸、やや北、東

 国家:トヴジョウ連邦国

 国家構成主種族:人間

 国家勢力:中立 中立~秩序

 局地属性:水=地≧木>風


 大陸東のカルパ内海よりもたらされる低気圧は、少し内陸に入った位置にそびえるデンス山脈より流れる、潤沢な水量の運河を形成した。運河は大陸を分断する形で西に向かいほぼ真っすぐに伸び、その河岸には20を超える港湾都市がある。


 その内の1つ「ユヌスグウ」は、古くからトヴジョウ国のベッドタウンとして発展した。木造5階建ての集合住宅が立ち並ぶ様は壮観だ。しかし地形的に、中心地より北は運河、西は国境、南と東は高台に遮られ、移動に苦慮することから、陸の孤島扱いをされている。


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 ●地下工業都市ヨウシュの下水道路


 場所:ツカナ大陸、中央

 国家:ユーダスリ国

 国家構成主種族:人間

 国家勢力:中立~悪 秩序

 局地属性:毒=地=闇


 国家の資本を一手に担う総合商社「株式会社UDSR」が、40年程前にポニチガアル国より内陸の辺境を買い上げ発展させた国家「ユーダスリ」。周辺国が運用を放棄した土地を買い上げることで拡大していったため、多くの飛び地が存在する珍しい国である。


 工業技術には目を見張るものの、近年、工場を地下に隔離することで隠し通してきた、環境破壊や劣悪な労働環境の問題が発覚。しかし、低所得者や外国人及び他種族労働者との格差を強く押し出すメディア戦略により、一般国民に選民思想を植え付けることで批判を抑え込むことに成功した。


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 ●スカザ火山中腹の洞窟


 場所:サムステラ大陸、南

 国家:ユィバラミマチ国

 国家構成主種族:人間

 国家勢力:中立 中立

 局地属性:火≧氷≧地


 七割をアネクメネが占める北大陸サムステラ、唯一の国家ユィバラミマチ国。元は僅かな石炭と小魚が取れるだけの、年中雪の吹きすさぶ不毛の大地であったが、スカザ火山付近に湧き出る温泉をPRすることで発展した観光立国である。


 エクメネ領域に2つのアイス系ダンジョンが発見されたことで、現在はメインターゲットを冒険者に移行し「ダンジョンの疲れは温泉で癒す」をキャッチフレーズに、更なる発展を遂げている。冒険者を求めて集結した業種は、市場、娯楽、医療、銀行や不動産に至るまで多岐にわたり、国そのものの生活基盤も飛躍的に向上させた。


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 ●廃都市ドグラゴール


 場所:イーラン大陸、北西の孤島

 国家:エイレ神皇国

 国家構成主種族:人間

 国家勢力:善 秩序

 局地属性:死>>>水


 覇権国であるエイレ神皇国を中心とした人間と、悪魔系モンスターやアンデッド(イーランカラミティ)の大規模な戦争状態にあるイーラン大陸。神皇国以外の国々も人間種族の勝利を掲げ参戦するものの、自国の勢力拡大を狙い精力的に暗躍する。


 100年前のドグラゴールは、神皇国首都ダブラスにほど近い孤島の漁村だったが、外部より持ち込まれた疫病が島内全域に蔓延し全滅。疫病も、死骸から発生した有毒な菌も死滅して久しいが、島内に閉じ込められた大量の島民のアンデッドが徘徊する状況から、神皇国により封鎖されている。


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 ●パピナモルフェリラ島


 場所:ツカナ大陸、南、赤道付近

 国家:パピナモルフェリラ首領国

 国家構成主種族:リザードマン

 国家勢力:中立~悪 混沌

 局地属性:水>>闇>>>木


 ツカナ大陸南の霊峰カスミヌスス山のもたらす、四辺が200kmほどの四角型に空いた湖「パピナモルフェリラ」を有するパピナモルフェリラ国。国土は湖内と沿岸周囲の狭い範囲に限られるが、水面に藁を編んだ浮島を作ることで湖内にも生活圏を広げている。少なくとも10本以上の湖底洞窟がツカナ洋に繋がっており、洞窟内は汽水域。マーマンとの交易も行う。


 湖内中央のパピナモルフェリラ島は、建国当初より首領家の居城区域だったものの、クーデター未遂を起こし処刑された時の第二王子の呪いを受け放棄。以降200年以上立ち入りを禁じられたまま、現在は聖域とされている。


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 ●ヴォルヴェッツルン大森林の非管理区域


 場所:ツカナ大陸、やや北、東端

 国家:ヴォルヴェッツルン王国

 国家構成主種族:エルフ

 国家勢力:善~中立 秩序~中立

 局地属性:木>>>>光>水>風


 広大な大森林を有する、エルフの王国ヴォルヴェッツルン。この地特有の巨大種樹「ヴォユング」を中心に主要都市が広がる。ヴォユングは中身をくり抜くことで居住することも可能であり、首都ネヴィッツにある庁舎を兼ねた王宮は全高300メートル、全長1kmに達する。


 広い国土と裏腹に人口が少ないとされ、辺境都市から国境にかけて管理の行き届かない地域が多い。過去にユーダスリ国との土地売買交渉が持たれたが、ヴォルヴェッツルンの調査によりUDSRの環境破壊状況が発覚。当然ながら契約締結には至らなかった。


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 ●サンサナール大草原の岩山


 場所:ドヴウ大陸、西南

 国家:なし

 地域構成主種族:亜人系、獣人系、獣系、虫系

 地域勢力:悪~中立 混沌

 局地属性:風>>地


 3か月ほど続く雨季が終わると、忘れられた地サンサナールには長い乾季が訪れる。雨水の作った水場も次の雨季を待たず枯れると、水を求める住人たちの熾烈な生存競争が始まる。また、5年周期で乾季中に襲来する台風はいずれも超大型なうえ、北からの高気圧に進路を阻まれ、1か月ほど勢力を保ったまま居座る。恵みの雨すらも牙を剥く大地は、この地の生態系の頂点にあるオーガたちにとっても大変厳しい環境だ。


 多種にわたるモンスターに出会える草原は、冒険者たちの腕試しの場として認識されている。しかし、ダンジョンと違い広すぎる環境は、四方八方からの襲撃への備えが必須。地の利を持つモンスターたちは、これに対応できない冒険者たちの集まる良い餌場として認識していることだろう。


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 ●ソーマイドルド国辺境サイボックスの丘


 場所:イーラン大陸、中央、東端

 国家:ソーマイドルド国

 国家構成主種族:人間

 国家勢力:中立 中立

 局地属性:聖≧魔=闇>死


 ソーマイドルド国は、組織だった悪魔系とアンデッド系モンスター(イーランカラミティ)に対抗する、イーラン大陸の善勢力同盟国の内の1つ。大陸の危機を世界の危機として喧伝することで、大陸外からの戦力援助を引き出した立役者だが、裏ではモンスターたちの懐柔に自国の生き残りを賭け行動している。


 最近、ネームドヴァンパイアの1人との関係構築に成功し、世界災厄級認定モンスター(カラミティワン)とのコンタクトを試みている。


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 こんなにあるのか。興奮してきたな。 ・・・あれ? 8つしかない?



「8つしかないよ?」


《条件が満たされました。始めの地を、8つの候補から1つを選んでください》


「情報購入。候補は10個だったよな? 8つしかないぞ。あと2つ出してくれ」


《開示できない情報です。この回答によるコストの消費は発生しません》


「情報購入。あとの2つって隠し要素かなんか?」


《開示できない情報です。この回答によるコストの消費は発生しません。条件が満たされました。始めの地を、7つの候補から1つを選んでください》


「は?!」



 どうなってるんだ? ・・・7つしかない。あ、温泉がなくなってるわ。



《条件が満たされました。始めの地を、6つの候補から1つ選んでください》


「にゃにぃ?!!!」



 草原がなくなってる! 温泉はともかく、多種モンスターがいる草原は最有力候補だったのに!! しかし条件が満たされたってなんだ? 何もしてないよな俺・・・あ。



 そうか。そういうことか。



 あまりの急展開に、今の今まで考えてたことをすっかり忘れて狼狽してしまった。なるほどね。早くも俺の予想が形になって表れ始めたか。・・・それじゃ、すぐに選択できればそれが一番の正解だったが・・・こうなると次の正解に近づける必要があるな。



(ここで情報購入は完全に目を付けられるな・・・一芝居打つか)



「・・・うーん、これは迷うな」


《条件が満たされました。始めの地を、5つの候補から1つ選んでください》


《条件が満たされました。始めの地を、4つの候補から1つ選んでください》


「・・・立て続けに来たな」



 大森林と・・・リザードマンの島が消えたか。・・・予想通りであれば、こっから先は少し忍耐勝負になるが・・・



「すまん、途中で悪いが精神的な疲れがもう限界だ。思考に支障をきたしているので少し眠る。起きたら決めるから」


《条件が満たされました。始めの地を、3つの候補から1つ選んでください》


「情報購入。ベッドを出してくれ(アンデッド島が消えたか・・・まぁ順当だな)」


《情報開示。この回答によるコストの消費は発生しません。条件が満たされました。命令を行使する際は「命令行使」とお声掛けの上、任意のご命令を発声してください。ただし、ご命令の内容により、実行にコストが発生する、または実行が不可能な場合もございます。あらかじめご了承ください》


「命令行使。ベッドを出してくれ。もちろん布団枕付きで」


《実行できない命令です。この回答によるコストの消費は発生しません》


「(結局できないんかーい)・・・命令行使。んじゃ、8時間後にアラームで知らせてくれ」


《命令行使確認》


「確認?」


《該当の命令行使コストは10です。コスト10を消費して命令を行使しますか?》


「目覚まし時計にゴブリン10匹分か。ああ、命令を行使する」


《該当命令行使の行使を確認。コストを10消費しました。これより8時間経過後アラームでお知らせします》



 眠れそうだし本当にちょっと寝るとするか。といっても、二人掛けのソファーでは寝ころぶには小さすぎる。テーブルとソファーの隙間に入って・・・うん、狭くておちつく。ほわほわのラグも敷布団っぽくていいな。さっきまで足置いてたところだけども。


 ・・・しかし、この時間稼ぎにイッシーの横槍がないのは意外だった。これも想定内ってことかな?

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