7.意味を帯びた数字

 さて・・・と。それじゃチュートリアルの続きをしようか。


 まずは名前か。



「情報購入。俺の他に転生者、魔王、もしくはそれらに準ずる存在が、ジェネバレル星の過去現在未来のいずれかに存在するか?」


《開示できない情報です。この回答によるコストの消費は発生しません》


「情報購入。そこをなんとか(*´ω`*)」


《開示不能情報への再度の開示要求と判断。開示できない情報です。この回答によるコストの消費は発生しません》


「情報購入。お願い(*´ω`*)」


《開示不能情報への再度の開示要求と判断。開示できない情報です。この回答によるコストの消費は発生しません》


「情報購入。そんなこと言わずに(*´ω`*)」


《開示不能情報への再度の開示要求と判断。開示できない情報です。この回答によるコストの消費は発生しません》



 ん。ペナルティ警告出なかったな。さすがにもうスルーされるか。なら仕方がない。大前提として、俺以外の転生者の存在を踏まえねばならない。


 というわけで、これはもう当然デフォネームはアウト。不要な情報の開示をあえてする理由はない。とくに同郷がいたらヤバい。なんらかの弱点になり得る可能性もあるし、なにより同郷というだけで得にならない関わり方をされても迷惑だ。出身地を悟られない名前にすべきだろう。とは言っても、元の言語を使用しない縛りで愛着のできる名前というのも難しいな。



(・・・数字はどうだろう?)



 数字に自分だけが把握できる語呂を入れる。これなら覚えるのも難しくなく、愛着だって湧く余地がある。


 今更な話だが・・・この場でなんの支障もなく話を進められる時点で、まず間違いなくこの世界には翻訳システムが存在し、それを利用できる権利を俺は有している。現状、それがどの程度のクオリティか、そしてどういった方向性のものかはまだ掴みきれてないが・・・俺が数字を用いたとしても各世界の数字に準ずる文字への変換はなされるはずだ。それこそ「地球以外の世界からの転生者」の存在を考慮しても。なぜなら、文明を持つ過程に置いて、その生物が数字の機能を持った文字を持つ可能性は低くないはずだから。


 そして、数字は文法的な意味を成さず利用法も限定され、親しみの感情も生まれにくい。それをあえて名前に使用する奴がまともではないという価値観は、かなりの範囲の世界で一致するものではないだろうか? 翻って、自分がそうであれば他者にとって避ける対象になれる。つまり、不意に名前を知られたところで、他者からもたらされる安全保障の無い突然のコンタクトに怯えるリスクが減るわけだ。


 ・・・と、これが出身地に関係なく、少しは危機感を持って動く転生者の共通認識のはずだ。


 もし、限られた者だけが閲覧できる、俺「たち」参加者をリストアップした名簿のような機能が存在しても、これなら安心だ。おそらく数字の羅列やエンコードの外れたような文字列の名前が並ぶことになるだろう。その凡百の内の1つに埋もれることで、関心を持たれにくくなること間違いなし。


 たとえ俺のこの予想がハズれ、他がちゃんとした名前で逆に目立ったとしても、前述のように「まともじゃない奴」と認識され、スルーされる境遇に変わりはない。もしコンタクトがあっても、応答しないでも気に掛けられることはないだろう。なにしろ「まともじゃない」のだから。


 それじゃとりあえず、俺の名前から・・・



 小鳥遊国広

  ↓

 ことりあそびくにひろ

  ↓

 くにひろ

  ↓

  9216



 こんな感じだな。ことりあそびの語呂を入れられないのは悔しいが。・・・しかしこれでは桁が短いな。それに、名前の語呂は日本人ならすんなりバレそうな気がする。いっそのこと名前は使わない方がいいか?


 となると・・・生まれ育った土地かな。



 花咲く武蔵の宵に彩湖の月に


 873963404123150272



 「月」の「き」の「七」は、「喜」の俗字で七が3つ合わさった漢字を採用した。無理矢理すぎる気もするが、これが解読を難しくすることを考えるとありっちゃありだな。それにまぁ、数字に変える前の文章を見ても・・・なにとなにとなにを言っているか県内の人間でなければわかるまい。


 あと、単なる語呂合わせであって俳句じゃないからな。字余りの俳句なんて勝手に誤認して季重なりとか言われても困るからな。



(873963404123150272・・・と)



 やはり不思議な感覚だ。これらの考えがメモせずとも、すんなりと脳内で記憶、整理がなされている。脳の処理能力が怖いくらいに向上している。



「873963404123150272」


《・・・あなたの名前は873963404123150272でよろしいですか?》


「ああ、よろしい」



 ・・・ふむ、こんなわけのわからん名前にしてもツッコミがないな。こちらの意図を汲んだか、最初から想定済みなのか。どちらにしてもこの段階では期待を裏切らんでくれるようだ。



《あなたの名前が873963404123150272になりました。条件が満たされました。引き続き、あなたの降り立つ最初の地を選択してください》

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