次から次へと共される料理は、魚料理ばかり。しかし、どれもが今まで食べた料理より はるかに美味しいものばかりです。


 ついつい箸が進みます。



 美味しい料理に 酒が進み、さらに料理に箸が進む。



 飲むほどに酔い、酔うほどに飲む、それを料理がさらに手伝ってくれます。



 いつしか島太郎は、ほろ酔い状態をはるかにこえた、へべれけ状態です。



 すると、不思議な感覚が島太郎を襲います。


 今は母親の唯一の形見の腕時計。

 その腕時計を、なぜか無性に、乙 姫子にプレゼントしたくなったのです。



 それは 不思議な不思議な感覚でした。


 大切な大切な 形見の品。

 母親から、将来 島太郎が結婚する相手に渡すために譲り受けた その腕時計を、なぜか姫子に譲りたくなってしまったのでした。



「姫子ちゃん、この腕時計はね、俺の母さんの形見の品なんだ。そして 大切な意味を持つ時計だよ。

 俺、なぜか この時計を君にあげたくなった。

 さあ、受け取ってくれ」


 島太郎は 時計に込められた意味もつげず、姫子に渡そうとしました。



「そんな大切なものを、私に?」


 姫子は戸惑いの表情を浮かべます。



「じゃあ こうしよう。この時計は、君に預ける。次に会うときまで 君が預かっていてくれ。それでいいだろう」


 と無理やり姫子の手に渡したのでした。



 なぜそんな気持ちになったのか、どうして そんな事をしたのか、しかし不思議にそんな気持ちになってしまった島太郎でした。



「さあ、飲み直しだ。愉快、愉快!」


 二人のうたげは なおも続きます。



 

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