やがて小学校に入学した島太郎。


 島太郎が入学したのは母親が理事長を務める、学校法人。小学校から、大学まで自由な校風の学園でした。


 児童や生徒、学生はのびのびと 学園ライフを楽しんでいます。


 そんな学校で、島太郎は人気者。いつも島太郎の周りには、楽しい仲間がいます。


 放課後や学校が休みの日には、たくさんの友達が島太郎の部屋にやってきて、ワイワイガヤガヤ にぎやかです。


 けれども、島太郎はちっとも楽しくありませんでした。


 そう、島太郎は知っていたのです。彼ら 彼女らが、決して島太郎の仲間や友達では ないことを。


 学校では 楽しげに話かけてくる仲間。

 彼ら彼女らは、島太郎が好きで集まっているわけでは ありませんでした。


 島太郎の母親、つまり 学園の理事長に 少しでもよく思われたい、そんな気持ちからでした。


 表だっては島太郎と仲良くしていますが、陰では島太郎を バカにしているのです。大人たちと 同じように

「つるつる頭の つるっぱげ」

 と。



 そう、島太郎は 学園内では 大嫌いなカツラを外しています。


 蒸れるし、かゆくなるし、何より、自分を偽るのが 大嫌い。


 それは 大好きな 大好きなお母さんがいつも 島太郎に言ってくれている

「あなたはあなた、自分の心に正直に生きてね」

とがいう言葉が、心にしみているからです。

 


 学校では カツラを外している島太郎ですが、登校途中の自動車の中では、カツラを着けています。


 運転手さんは 島太郎がずっとカツラを着けていると 思い込んでいます。


 母親と外出するときも、自動車の中ではカツラを被り 母親と二人きりになって初めてカツラを脱ぐのです。


 でも、島太郎が学校や母親と一緒の時は カツラを外していることを、なぜか父親は知っています。


 きっと、学校の友達の誰かや街で島太郎を見かけた大人たちが告げ口をしているのでしょう。



 ※ ※ ※ ※


 放課後や休日に島太郎の部屋にやってくる友達も、島太郎にとっては 友達ではありませんでした。


 彼ら彼女らの目的は島太郎の部屋に遊びにきたときに出される、おいしいお菓子や ケーキ、珍しい果物、休日の昼に振る舞われる 豪華なランチ、そして 帰るときに持たされる おみやげでした。


 また、楽しいゲームや マンガ本も 魅力的でした。


 そして……陰では、やっぱり

「つるつる頭のつるっぱげ」と、島太郎のことを バカにしているのでした。




 島太郎の人間不信は、少しずつ少しずつ強くなっていきました。

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る