島太郎の頭には、なぜか髪の毛が一本も生えていません。

 産毛すらなく、ちょうどカミソリで剃ったような スキンヘッド状態。


 天気のいい日には お日さまの光で照り返り、まぶしいほど。



 島太郎の不自由とは、このこと……でもありません。

 

 島太郎は 髪の毛のことなど、全く気にしていませんでした。

 それは、大好きな 大好きなお母さんが、いつも島太郎に こう言っていたからです。


「人にはそれぞれ個性があるの。あなたはあなた。気にする事は ないのよ。それがあなたの個性だから」

 


 まだ 小さかった島太郎ですが、この言葉は 心に染みていくのでした。

 

 では、島太郎が感じる不自由さとは何なのでしょうか。



 それは人を信じることができないこと ── つまり、人間不信なのでした。



 島太郎の周りにいる、家政婦さんや、じいやさん、運転手さんたちはいつも島太郎のことを

「お坊ちゃま、お坊ちゃま」

 と気づかってくれています。



 しかし、島太郎は知っていました。彼ら 彼女らが、島太郎の姿が見えない所で


「つるつる頭のつるっぱげ。あれじゃあ、島太郎でなくて つる太郎だ」

 と、バカにしていることを。

 



 そして、島太郎の父親。やたらと世間体を気にする父親は島太郎が外出するときに、カツラを着用する事を命じます。

「世間様に、そんなみっともない頭を晒すな」

というわけです。



 けれども、島太郎はカツラが大嫌い。頭が蒸れて、かゆくなるからです。



 父親と外出するときは仕方なくカツラを着けますが、母親と二人での外出にはカツラを外します。


 それは母親が

「島太郎、あなたはあなたなのよ。あなたが好きなように生きなさい。カツラも嫌なら脱げばいいの。無理に着けることはないのよ。だけど お父さんはあんな人。お父さんと一緒のときは、お父さんのために着けてあげてね」

 と、自分の前ではカツラをはずしてもいいわよ。と言っていたからです。




 島太郎のことだけでなく、父親のことも思いやる優しい母親。いつしか島太郎の理想の女性は 母親のような人になっていました。

 


 

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