第6話 2
金太は「自由ヶ丘中学校」に今年入学したばかりのホヤホヤの1年生。
自由ヶ丘中学校は、都心から少しはずれた、まだ田園風景が残るのどかな場所に位置している。
正門に向かって左手にコンクリート3階建ての校舎があり、右手には平屋の職員室と、渡り廊下を挟んで同じく3階建ての校舎が並んでいる。すべてが清楚を想わせる白の色に統一されていた。
総生徒数は450人余で、複数の学区から生徒が集まって来ている。金太のクラスは2学区の混成となった。
早く中学生になりたいと常々思っていた金太だったが、いざ入学してみると、クラス30人のうち見たことのない生徒が半分以上いた。
あまりにも思い描いたものとの落差にいささか尻込みをする。だが、多少の不安を抱えつつも、持ち前の人なつこさから、みんなと仲よくなるのにそれほど時間はかからなかった。
だが、それはある日突然のように金太に対して頭をもたげはじめた。
新学期がはじまって1ヶ月もしない頃だった――。
イジメは当然のように、まず違う区域の生徒を餌食にする。それもたいしたことのない理由ばかりが多い。金太の場合は、ただ少し背が低くて体形が小太りだったのと、名前がダサいという理由がきっかけでそれははじまった。
イジメとも呼べないくらいの些細ないびりは、小学校のときから風習のようにしてあることはあった。いく度も嫌な目をし、その度に自分を強くして乗り越えて来た。ところが、中学ともなるとどこで入れ知恵をされるのか、これまでとは比べものにならないくらい陰湿な形に変貌し、牙を剥いて標的をじわじわと攻め立てるのだ。
金太のいる1年D組のイジメのリーダーは
金太に対してのイジメは『無視』からはじまった。おそらく大基たちにそそのかされたのだろう、クラスのほとんどが与した。
耳の奥に時々囁きのように聞こえる「無視しようぜ」と言う言葉は、家に帰ってからも躰の内側から涌き出してくるほどしつこくて嫌な言葉だった。
無視とはべつに、消しゴムをぶつけられたり、さっきまであったペンケースが、授業がはじまる前に突然なくなっていたりすることはいつものことで、あるときは、黒板に赤と白のチョークで、「
そんなのはまだやさしいほうだ。大事にしていたノートが真ふたつに裂かれていたこともあった。
まだある――昼休みが終わって教室に戻り、理科の教科書を机から出そうとしたときのことだった。金太はそれを見て愕然とした。表紙がマジックで真っ黒に塗り潰されていたのだ。悔しくて泪が出そうになった。
やがて理科の授業がはじまったが、まともに先生の顔が見られなかった。自分が被害者であるはずなのに、心の片隅に説明のできない後ろめたさが顔を覗かせた。結局午後からの授業はまったく集中することができなかった。それ以来理科の教科書にはカバーをかけてある。
次の日から登下校の景色が目に入らなくなってしまった。いつも歌を歌いながらや覚えたばかりの口笛を吹きながら楽しそうに通学路を歩いていたのに、それがまるで嘘のように、ずっと地面を見ながらしょんぼりと歩くようになってしまった。
これまでされたことのひとつひとつを挙げていたらきりがない。
イジメの中で金太がいちばん嫌だったのは、「キンタマ、キンタマ、チンポの下でぶーらぶら」と囃し立てられることだった。特に周りに女子がいるときなどは、恥ずかしくて逃げ出したくなった。
イジメについては、なにも金太のD組だけの話ではない。形は違えどもあちこちの教室で行われている。
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