第5話

「そう。でもこれから少しずつメンバーを増やすんだ。待ってろよ、そのうち何十人かに膨れ上がるから……」

「ほんとに?」

「ああ、ほんとだ。オレは嘘つかない」

 言ったものの、まったく根拠はなかった。ただ冒険小説や探偵小説のイメージからそうなりたいという願望が先走る金太。

「金ちゃん、なんかすごいね。ぼくも段々その気になってきたよ」

「だったらここに記名しなさい」

 金太はすでにリーダーになった気でいるのか、命令口調になって言った。

「記名ってなに?」ネズミが真剣な顔で聞く。

「名前を書くことだよ」

「そうか。で、どこに書けばいいの?」

「ここ」

 金太はすでに自分の名前の書いてある場所のすぐ横を指差した。

「わかった」

 ネズミは、バランスのわるい字で「はかまだ孝弘」とひらがな混じりで書いた。

「苗字、ひらがななんだ」

「違う。本当は漢字なんだけど、むつかしいからまだ書けない」

「だったらしかたないな」

 金太が宣誓書をもとの菓子箱に戻すと、右のポケットに手を突っ込み、白い紙に包んだものをなにやらつかみ出した。そしてネズミの前で広げて見せる。掌には白い色のかわり玉がふたつ載っていた。

「ひとつやるから、食べていいよ」

「なに? これ」

「かわり玉っていって、なめてると次から次に色が変わるんだ」

「あ、だからかわり玉って言うんだね」

「そう。これは我が秘密結社の入団の儀式である、エヘン」

 金太はテレビドラマで観たのを思い出して、咳払いをひとつした。

「……」

「それからもうひとつ、団員になったあかしに、こいつをネズミにやるよ」

 金太はもう一度菓子箱を開けると、今度はキーホルダーをつまみ出した。キーホルダーにはアルファベットの「R」がぶら下がり、リングには小さな鍵がひとつだけついている。

「キーホルダー?」

「ああ、ここにぶら下がってる『R』の字は、リオン秘密結社の頭文字で、この小屋にはメンバーが自由に出入りできる鍵がついている。だからいつでもここを使っていい。ただし、結社を退団するときには、すぐに返却しなければいけない。返却するということは、もう2度とこの小屋に入ることができないということだ」

 金太は口ではそう言ったものの、正直なところまだあまり先のことまで考えてはいない。

「うん、わかった」

 ネズミはわかっているのかいないのか、嬉しそうに何度もキーホルダーを指先でつまんでブランコみたいにゆらゆらと揺らせた。

 プゥーッ。

「あれ? 金ちゃんオナラした?」

「聞こえた?」

「聞こえ――うっ、くっさー」

 ネズミは慌てて左手で鼻をつまみ、急いで右手で扇いだ。

「気にしない、気にしない」

「これも結社の儀式のひとつ?」

 ネズミは恐るおそる鼻から手を離して訊く。

「ま、そういうことにしとこうか」

 金太は照れることもなく平然として言った。


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