第34話 エピローグ

「株価はやっぱり下がっちゃうんだね」


 あれから数日後、喫茶店プランタンのカウンターで新聞を広げる私。

 念のため、見てみたけど、やっぱり私の予知は外れない。


「『絶対予言』しといてそれは無いだろう。晴子」


「だって私がしたくてやったわけじゃないんだもん」


「……すまん、失言だった」

 


 東風はるかぜグループの株価は下がっていた。

 東風はるかぜソリューションは、グループ企業の中でも稼ぎ頭らしく、その本社ビルにおける顧客データの入ったサーバルームでの事故、集団ヒステリー事件、次期社長を目されていた副社長の怪死があらぬ憶測を呼び、株価に影響しているんだ、と大牙は言う。



 政さんの言霊により、ビルの呪いは解かれたものの、副社長さんが意識を取り戻すことはなかった。

 人形神ひんながみに願ってしまっていたのだろう、と大牙は言う。

 つまりあの呪いが発動したときには、既に魂は願いの代償として呪いの一部になってしまっていたのだと。

 せめて最後天に返った魂の一つであってほしいなと、副社長さんのために祈る私だった。


 今回私達が関わった迷い神事件は、すべて副社長さんがあの銀髪の陰陽師を雇って、現社長を追い落とすために起こしたこと。だから心から同情なんてできないけど、それはそれ、これはこれ。



 銀髪の陰陽師、安部のその後の行方はわからなかった。

 陰陽師というのは政さんのように正式な陰陽師のネットワークに所属しているのが普通らしいけれど、お金に目がくらんだりで、所属しないで悪さをする者、通称はぐれ陰陽師というのがいるらしい。大牙は、あの銀髪もその一人に違いないという。


 後で貴子さんに教えてもらったところでは、銀髪を主と仰ぐ、あの狐面の式神は、二人とも稲荷神社の神であるウカノミタマ神の眷属にあたる神様なんだって。本当に狐の神様だったとは、私悪口言っちゃったけど私大丈夫かな?

 後で神社にお参りにいっておこうと思う。もう二度と会いませんように。



 陰陽師のネットワークと言えば、なかなか姿を現さなかった課長の吉岡さんは、実は政さんの紹介で別の陰陽師にかくまわれてたみたい。

 銀髪に動きがバレてしまったため、身の危険を感じてたんだって。

 何だか納得。

 結局私は一度も会うことはなかったけれど、高橋さんの上司で、立花さんとも気が合うんだから悪い人のはずはない。

 今回の事件について、最初は会社は隠そうとしたんだけど、隠してバレたときの方が大変になる、っていってなるべく問題にならない形での公開を進めたのは彼だというから、うん、凄い人なんだと思う。



 人形神退治でお役ごめんになったのと、やっぱりサーバルームでの一件があったから行かない方がいいだろうということで、私と大牙はあれから会社には行っていない。


 私は当然、また学校に行く毎日。そして帰りにプランタンに寄る毎日。

 これはいいんだ。わかってたことだから。


 私が不満なのは、高橋さんと立花さん、町田さんと紀藤さんの恋の行方がどうなったかわからないこと。気になって気になってしかたがないから、何かの用事を作って行ってみようかな。また、貴子さんに大人メイクしてもらって。


 恋か……私もしたいな。


 そこまで考えた私はなんとなく、傍らの大牙を見やる。

 今日は私と同じ中学生くらいの外見。


「ねーねー大牙」


「何だよ、晴子」


「のみいこっか?」


「何言ってるんだよ、お前。未成年だろが」


「だってさ大人はモヤモヤしたときにのみにいくんでしょ。私今そんな感じ」


「だーめだ、お前に絶対酒は飲まさん!」


「私はジュースでいいからさー、大牙はマタタビ飲んでいいよ、許可」


「マタタビのまねーよ」


「にゃあにゃあ」


「にゃあにゃあゆーなっていっただろうが!」


 頭を両側から拳でぐりぐりされる。


「痛い痛いよ~大牙~。もー馬鹿になっちゃうよ」


「お前が変なこと言わなきゃしません。それそれそれ」


「馬鹿になったら、責任もってお嫁さんにもらってよね、大牙」


 急にぐりぐりする動きを止めて、ぷいっとそっぽを向いた大牙。

 ここぞとばかり彼をよしよしする私。

 うん、これはこれで第一歩かも。


 目が合った政さんと微笑みあいながら、そう思った私だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黄昏時には一言そえて 英知ケイ @hkey

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ