第15話 球一朗対大瀬名 速球勝負

 球一朗と崇橋の高校 (千葉県立東松戸高校) 対上総望洋高校の試合は、ジリジリとグラウンドが焼けつくような日射しの中、千葉市の県立天台球場で行われた。

「プレイボール!」

 球審の右手が上がり、マウンドの球一朗が大きくふりがぶる。…上総望洋高校の先攻でゲームがスタートした。

 迎えた一番打者は仰木親則 (あおぎちかのり) 171センチ68キロ、三年生の左バッターだ。

 オーバーハンドからの初球はインコースのストレート145キロ、見送ってストライク。

「よっしゃ!球はキレてる」

 捕手の崇橋が頷きながら呟いた。

 …2球目もインコース高めのストレート146キロ、打者はスイングしたがバックネットへファウル。…やや振り遅れ気味。

 崇橋のサインに頷いて投げた3球目はインコースから落ちるチェンジアップ、打者はタイミングを外されながらのスイングで三振。

 …続く二番打者は右打席に入った大響啓司 (おおひびきけいじ) 175センチ68キロ、三年生だ。

 崇橋のサインに頷いて投げた初球はアウトコース低めのストレート、143キロ。打者見送ってストライク。

 2球目はインコース胸元のストレート、145キロ。ボール。

 3球目はまたアウトコースのストレート、打者バットを出したがファウル。

 4球目、アウトコースのスライダー。ストライクゾーンから逃げて行く球にバットが回って三振。

 三番打者は右打席に入った二年生の八又徹人 (やまたてつひと)、176センチ72キロ。

 初球はインコース高めのストレート144キロ、ボール。

 2球目はアウトコースのスライダーをファウル。

 3球目、アウトコースのチェンジアップをファウル。

 …そして4球目、インコース高めにストレート、146キロ。打者がスイングしたバットにボールが微擦ったが、そのまま崇橋のミットに収まり、スリーアウト。

 …結局球一朗は1回の表を三者三振に切って取った。

 そして球一朗と崇橋は顔色一つ変えずにスタスタとベンチに引き上げた。


 1回の裏、いよいよマウンドにはプロ注目の三年生、大瀬名太一(おおせなたいち)右投げ181センチ79キロが上がった。

(去年より少し身体がデカくなってるな…!!)

 球一朗と崇橋がベンチ内で囁く。


 東松戸高校の一番打者は左打席に重野武士之助 (しげのぶしのすけ) 171センチ70キロ、チームで一番の俊足の二年生だ。

 …大瀬名が振りかぶって1球目を投げた。

 アウトコース高めの直球、150キロ。…重野は唖然と見送ってストライク。

 見送ってと言うよりは全く手が出なかったという感じだ。

 …マウンドの大瀬名が一瞬不敵に唇をニヤリと上げた。

 しかし続く2球目、インコースの直球151キロに振り遅れ気味ながらも重野はバットに当てて三塁側内野席へのファウルにした。

「おお~っ !! 」

 大瀬名の豪速球をバットに当てただけでスタンドから歓声が上がった。

 大瀬名の3球目、さらに直球を投げ込んで来たが重野は見送って高めにボールの判定。

 4球目、152キロの直球がアウトコースにボール。

 大瀬名の表情にちょっとイラつきの面持ちが浮かんだ。

 5球目、151キロのややインコース寄りの直球。重野はまたバットに当てて三塁側のファウルゾーンに詰まったフライが上がった。

 三塁手と遊撃手が懸命に追い、最後は遊撃手が飛び込んで捕りに行ったが、僅かにグラブが届かずファウル。

「あぁ~っ !! 」

 三塁側スタンドとその下の上総望洋高ベンチからため息が漏れる。

 大瀬名の顔が明らかに不機嫌そうになって来た。

 6球目、インコース高めに152キロ。重野はバットを動かさずにボール。…いわゆる釣り球に反応を見せなかったのでこれで3ボール2ストライクのフルカウントになった。

 そして大瀬名がムキになって投げた7球目のストレート、アウトコース寄り152キロの球を重野が捉えた。

 …が、打球は球威に押されたハーフライナーで大瀬名の左側頭上をフワリと通過、二塁方向へ球を捕りに行った遊撃手の前に落ちると、ボールに変な回転がかかっていたためバウンドがイレギュラー。遊撃手がグラブで捕球できずに倒れ込みながら必死に素手で掴むと体勢を直して一塁へ送球したが、重野の足が勝って間一髪セーフ。内野安打になった。

「お~~っ !! 」

 スタンドから大歓声が湧き起こる。

(よしっ!)

 球一朗と崇橋がベンチ内でほくそ笑んだ。

 昨日、チーム内でみっちりと大瀬名攻略のミーティングをやった結果が出たのだ。…もちろん攻略法を考え、指示を与えたのは球一朗と崇橋のバッテリーだ。

 そして今、右打席には二番打者の咲本勇人(さきもとはやと) 183センチ80キロ、三年生が入り、ネクストバッターボックスには球一朗が向かった。













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る