第14話 そして最後の夏

 …結局、一年生対先輩チームの練習試合は6対1で先輩チームの勝利に終わった。

 一年生チームの1点は捕手で四番打者を務めた崇橋のタイムリーヒットだった。

 球一朗は5回を投げて2安打無失点だったが、うち1安打はこの崇橋だ。


 …この日の練習後、球一朗は崇橋を呼び止めて話をした。

「…一回裏、無死満塁の場面でマウンドに行ったろう?あの時何を言ってたんだ?」

 先輩からの突然の質問に戸惑いながらも崇橋は顔を上げて答えた。

「…直球もカーブも打たれて澤牟田がビビってたんで、お前、他に持ち球は無いのか?って訊いたらフォークがあるけど制球がまだ自信無いって言うんで、じゃあイチかバチかでそいつを打たせようと言いました…奴は驚いてましたけどね」

「驚いてた…?」

「打たせる球を投げるって考えが無かったみたいで…たぶん今までただ抑える、バットに当てさせないってことだけで来た奴なんですよ」

「…なるほど、それで俺はなんで敬遠されたんだ?」

「うまいことゲッツー取れて一塁が空いたんで、満塁策です。…それと次打者をちょっと刺激して、こっちの配球パターンに乗せようと…それで澤牟田に言って直球をインコースに見せといてカーブを引っ掛けさせるってことで…まぁあそこだけは上手く行きました」

 …崇橋は淡々とそう話し、球一朗は頷きながら質問を返した。

「…ところでお前、フォークボールは捕れるか?」

 崇橋は目をキラリと光らせて、

「大丈夫です!何でも捕りますよ」

 と答えた。


 …それからしばらくして、夏の甲子園大会への県内予選が始まった。

 予選試合の初戦、球一朗とバッテリーを組まされたのは三年生の捕手だったが、捕球やリードに不満を感じていた球一朗は試合途中で相手チームの四番打者にフォークボールを投げた。

 球は打者の手元で落ちてショートバウンドしたが相手を空振りの三振に切って取った。…しかし捕手が球をキャッチ出来ずに後逸して打者振り逃げという結果になり、球一朗はベンチの監督に視線を送った。

 …結果、捕手は崇橋に交代となり、以降は球一朗と崇橋がバッテリーを組むことになった。


 崇橋とのコンビになって自分の持ち球を全て使って投げられるようになった球一朗は、その後順調に県内予選を勝ち進んで行ったが、決勝戦で味方のエラーにより、0対1で惜敗して甲子園出場はまた今年も成らなかった。

 …そして球一朗のチームを決勝戦で完封した相手チーム、上総望洋高校のエースは、同じ二年生の大瀨名太一(おおせなたいち)180センチ77キロであった。

 右の本格派の速球投手で、どんどん投げ込んで来る150キロ近い球に完璧にやられた敗戦という結果だった。


 そしてその後の甲子園大会でも、大瀬名はその速球を武器に勝ち進み、結果ベスト4まで勝ち上がったのである。

「…プロになるにはあの大瀬名より凄い球を投げて、あいつに勝たないと駄目ってことか… !? 」

 …球一朗は大瀬名の投球を見ながらそう呟いていた。


 …だが、翌年春の選抜甲子園出場は球一朗も大瀬名も果たせなかった。

 大瀬名のチーム、上総望洋高校の一部野球部員が飲酒したことが発覚して秋季大会の参加を辞退したのと、球一朗の方は秋季大会の試合中に打者を一塁ゴロに打ち取ってベースカバーに入った際、走者と交錯して転倒。右手首を痛めたのだ。

 結果、代わった投手がその後打たれてチームは負けてしまった。


 そしていよいよ三年生となって最後の夏…。

 甲子園への県内予選が始まると、上総望洋高校の大瀬名は「プロ注目の150キロ右腕」としてもてはやされ、スポーツ紙などで大きく取り上げられる存在になっていた。

「崇橋、俺はプロに行きたいんだ!これからの試合はストレート主体で行く!甲子園に行くのに、必ず大瀬名と当たるだろう ! …奴より速い球を投げて絶対に甲子園に進むぞ!」

 球一朗はすっかり相棒となった崇橋にそう言って、県内予選にのぞんだ。


 プロ入りを目指す高校生にとって、何をアピールすべきか?…答えは簡単、野手ならホームランの数、投手なら球速と奪三振の数だ。

 …球一朗と崇橋のバッテリーは変化球でカウントを稼ぎ、ストレートで三振に取るというパターンで予選を勝ち進んで行った。

 …そしていよいよ準々決勝で、大瀬名太一の上総望洋高校との対戦を迎えたのである。

「今日はストレート全開で飛ばして行くぞ崇橋!…プロのスカウトもおそらくかなり来てるだろうからな!絶対に大瀬名に勝つ !! 」

「そして甲子園、そしてプロに…ですよね!先輩 !! 」

 試合前、この一戦にかけるバッテリーの闘志もMAXに高揚していた。













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