第16話 大瀬名攻略法
…「明日、大瀬名は初回からストレートで押して来る!速球で俺たちを圧倒するつもりで来るはずだ!」
昨日の野球部ミーティングは上総望洋高戦対策、すなわち大瀬名攻略のための話に終始した。…球一朗がメンバーらに力説する。
「…何故なら、奴はプロ野球志望だからだ!おそらく明日は大瀬名を見にスカウト連中もスタンドに来てるはず…だから奴は150キロの速球と奪三振ショーをそいつらに見せてアピールしなきゃならないからな!俺たちのチームは普通の県立高校で、特に強力打線という訳でも無いし、奴がアピールするのにちょうど良い相手と思っているだろう…」
「なるほど、ムカつくけどその通りだと思うよ、だけど確かに奴の速球を打つのは難しいぜ!いったいどうするんだ?」
メンバーたちから当然の質問が球一朗に返って来た。
「攻略法はある!…ヘソ打法だ!あの名作、巨人の星の中で星一徹が速球対策のために授けた作戦さ!」
球一朗の話に部員らはしかし戸惑いを見せた。
「何だそりゃ?…漫画の中の話かよ!…もっと具体的な作戦は無いのか?」
「漫画の中の作戦だが理にかなった打法なんだ!いいか?…普通にバットを振り回したんじゃあ奴のストレートに三振の山を築くだけだ。バットを短く持って、グリップは右打者なら右胸の位置に…そこからグリップを身体から離さずヘソの前にスパッと持って来て球を捉える!…これなら腰も開かず大振りにもならない。150キロでも当てられる」
球一朗がそう力説すると、質問が返った。
「話は解ったけど、それだと限られたゾーンの球しか捉えられないぞ!…コーナーに投げられたらどうするんだ?」
しかし球一朗はキッパリと答えた。
「いや、大瀬名は球威をまずアピールしたいはず、初回はコントロールよりも速球をどんどん投げ込んで来る!それでなくてもパワーピッチャーは立ち上がりは球がバラつきやすいんだ。ヘソ打法でバットが届かない球は全て見逃しでいい!どっちにしたって150キロをコーナーに投げられたら俺たちには打てない。奴の立ち上がり、初回に全てを集中してヘソ打法を徹底しよう!自慢の速球を当てられて三振を取れなかったら、奴もひょっとしたらムキになるか、あるいは不安になるか、要するにペースを崩せるかも知れないだろ?…だからもしもバットに上手く当ててヒットになったりしても、シレッとした顔で塁に出るんだ!平然とな。初回に奴のペースを崩して先制点を奪い、リードを守って逃げ切る!…明日の試合に勝つにはそれしか無い!」
「…なるほど」
メンバーらが頷いた。
「奴が投球モーションに入ったらテークバックしてトップの時が1、腕を振って球をリリースする時が2、と数えて1、2の3でヘソ打法だ!ミートの時はゴロを打つくらいのつもりで振る!奴のストレートは伸びて来るからそのくらいでかえって芯に当たる!…かもな」
「かもな、か!…でも何となく打てそうな気がして来たよ」
「何となく打っちゃって勝とうぜ!」
「おうっ !! 」
…という訳で昨日の攻略ミーティングの成果か、今日の試合が始まった一回の裏、とにかく先頭打者が内野安打で出塁という結果になった。
二番打者の咲本勇人は打席でバントの構えは見せない。
大瀬名はセットポジションからまず一塁へ牽制球を投げた。が、さほど素早い投げ方ではなく、ランナーを刺すというよりはバントを含め相手の出方をさぐる牽制球だ。
改めてセットポジションに入って投げた初球はインコース高めのストレート、150キロが浮き上がってボール。
咲本はバントの構えは見せずに見送った。
2球目はアウトコース寄りのストレート、151キロ。咲本はバットを振って一塁右のゴロになったがファウル。
3球目は真ん中高めの150キロ、ボール。
4球目は外寄りの150キロ、バットを振ってライト線へ打球を飛ばしたがどんどん右に切れて行って一塁側スタンドに入るファウル。
しかし5球目の151キロ、アウトコース寄りの球を咲本は打って、大瀬名の足元右を早いゴロが抜けて行った。
センター前に抜けるかと期待したが、セカンドが走りながらバックハンドで捕球し、グラブトスで二塁へ。ベースカバーの遊撃手が受けて重野がホースアウト。一塁への転送は出来なかったが、これで一死一塁に咲本が残る結果となり、三番打者の球一朗が右打席に向かった。
(何としてもこの回に先制点を取る!! )
そしてネクストバッターサークルの崇橋とともに心中でそう言いながら打席に入った。
(ここで必ず大瀬名を打つ!)
…構えに入る球一朗とマウンドの大瀬名の視線がぶつかり、火花を散らした。
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