第3話 一年坊バッテリー
…「この状況で俺の捕手を買って出るとは、お前も向こう見ずだな !! 」
球雄が言うと、
「お前じゃない!住谷金二郎だ!…それに向こう見ずって訳でもない!球雄君と一緒にここで先輩らの打線を抑えてみせたら、俺も試合で使ってもらえるかも知れないからな!」
175センチ、76キロの住谷はちょっと笑みを浮かべて言った。
「ヘッ!…そういうあざとい奴、俺は好きだぜ」
球雄もそう言って返すと、住谷はレガースを着けマスクをかぶり、マウンド上で二人簡単な打ち合わせをこそこそっとした後、ポジションについた。
内外野にはベストメンバー以外の部員らが守備につき、崇橋監督が球審を務めて、事実上球雄の入部テストとなる2イニング勝負の開始だ。
「ウォーミングアップは5球で良いか?」
監督が球雄にそう言うと、
「OK!」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて球雄は応え、セットポジションから投球モーションに入った。
全部員が注目する球雄のウォーミングアップの一投目はど真ん中へのストレート。球速は120キロ。投球フォームは右投げスリークォーターである。
「…何だぁ?大口たたいて実際そんなもんかよ…」
主力メンバーの中からはそんな呟きが漏れた。
2球目は内角高め、3球目は内角低め、4球目は外角高め、全てストレートを球雄は投げ込んで行く。
しかし捕手の住谷は球雄の非凡さに気付いていた。
(…こいつは得体の知れない奴だぜ!ストライクゾーンのコーナーいっぱいに正確に、しかも一球ごとに少しずつ速度を上げてきてる!)
…実際のところ、球雄はネクストバッターサークルで素振りをしている一番打者を見て、ストライクゾーンを見極めた上で投げ込んでいたのだ。
さらに一投ごとに3キロづつ球速をアップさせていた。
ラスト5球目は外角低め、132キロの直球が住谷のミットにバシッと決まった。…住谷は2塁にスパッとボールを投げ、後はサード、ショート、セカンド、ファーストへとボールを転送する、いわゆる「球回し」がされてファーストからボールが球雄に戻って来た。
一番打者、三年生の根張大志(ねばりたいし - 175センチ74キロ)が球雄を睨みながらゆっくりと右打席に入る。…いよいよプレイボールだ。
「行くぜ金ちゃん!」
球雄が叫ぶ。
「カモン球雄!」
住谷が応える。
「ハハッ !! …球雄と金ちゃんって、タマキンコンビじゃねえか !? 」
打席で根張がそう言って、部員たちがドッと受けて笑った。
「プレイッ !! 」
しかし球審が右手を上げると、みんなは黙って球雄に視線を集中させた。
球雄がセットポジションに入る。
「よし、来いっ!」
根張が低く構えてゆらゆらとグリップを回すように揺らして待つ。独特のタイミングの取り方だ。
球雄の一球目はしかしフワリと緩いカーブが外角低めに曲がり落ちて行った。…予想外の球種に打者は見逃したが、
「ストライ~ク!」
球審が右手を上げてコール。
「へっ、小癪なまねしやがって…!」
根張が思わず呟く。
「ナイスボール !! 」
住谷が声を上げて投手に返球する。
球雄の二球目は一転してインコースに速球が来た。
「外角の次はインコースってか ! 」
根張が鋭くコンパクトにバットを出して打ちに行く。しかしボールは手元でほんの少し内側に軌道が変わり、打球は三塁の左をライナーで切れて行った。
「ツーシームか !? …」
根張が少し驚いた顔を見せた。
「よっしゃ、追い込んだぜ!」
住谷がわざと大きな声で叫ぶ。
(チッ ! 内外角に球を散らして俺を抑えようってか !? 甘くみるなよ、タマキンコンビめ!)
根張が胸中で叫んでさらに闘志を燃やす。2ストライク後、低めの変化球をカットするのは根張の得意技だ。簡単に打ち取られぬ自信がある。少し甘いところへ来たらヒットゾーンへ打ち返してピッチャーを一気に追い込んでやる!…根張はかえって気力を充実させていた。
球雄はゆっくりとモーションに入って足を上げ、ステップして腕をしならせて三球目を投げた。
球はど真ん中高め132キロのストレート。根張は「あっ !? 」と言って見逃した。
「ストライ~ク、バッターアウッ !! 」
球審がコールして、球雄がニヤリと笑った。
「オッケー!ワンナ~ウト!」
住谷が守備陣に声をかけてボールを球雄に返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます