第4話 クリーンナップとの対決

 忌々しげに球雄を見ながら根張がベンチに下がる間に、住谷はまたマウンドに来てバッテリーでごそごそと短い打ち合わせをした。

 二番打者は小栗順(おくりじゅん)178センチ74キロ、三年生だ。

 住谷がポジションに着くと、小栗が左打席に入った。

 球審が右手を上げ、球雄がセットポジションに入る。

 初球は内角高め、胸元への直球133キロ。

「ストライ~ク!」

 球審のコールがあがる。

 小栗は全く表情を出さずに見送った。

 球雄の2球目はまたも内角高めのストレート、だが初球より球1個分高い。

「ボール!」

 球審のコールにまたも無表情の小栗だ。

「球雄!…良いバッターよ!慎重に !! 」

 住谷がそう言って球雄に返球した。

 実際、小栗は巧打者で監督からの信頼も厚い二番バッターだ。バントも上手いし、選球眼も良い。大振りしないから空振りが少なくバットに当てるのが得意な打者だ。

 球雄の3球目はインコース、膝元に速球を投げてきた。小栗はコンパクトにバットのヘッドを走らせる。球は少し内側に変化して、打球は一塁右のファウルグラウンドへ強烈なゴロとなり、コーチスボックスの部員が慌てて避ける当たりだった。

「カットボールか…!」

 小栗は内心ちょっと驚いたが顔には出さない。…これでカウントは1ボール2ストライク。球は全て内角だった。

 小栗は頭の中で次の球を予想する。

(勝負にくるなら内角高めのストレート!もしくは外へ一球外して様子見といったところか…)

 小栗はそう予測して打席で構えに入る。…もし意表をついて外角のストライクゾーンに投げられたら、その時はバットのヘッドを遅れて出してカットすれば良い。相手のストレートは130キロ台、当てることは出来る。

 球雄がセットポジションに入り、足を上げ、ステップして腕をしならせて4球目を投げた。

 外角の遠い球だった。

(ボールだ!)

 小栗がそう判断した時、途中から球は外側からストライクゾーンに曲がって来た。いわゆる「バックドア」と呼ばれる外角から入れてくるスライダーだ。

(しまった !! )

 小栗が最後に慌ててバットを出したが完全にタイミングが外れて空振り三振。

「ストライ~ク、バッターアウッ !! 」

 球審のコールが上がる。

「OK!ツーアウト !! 」

 住谷が球回しのボールを三塁に投げてマウンドに来た。球雄とまた短い打ち合わせをしてポジションに戻る。

「クリーンナップよ!しまっていこ~っ!」

 叫んでから住谷は腰を落とした。


 …三番打者は182センチ80キロの中尾貫行(なかおつらゆき)、三年生だ。

 中尾はバットを上へ掲げてヘッドの先を3秒ほど凝視した後、ゆっくりと右打席に入った。…そしてヘッドの先を球雄に向け、さらにホームベースの角をチョンチョンとつついてから構えに入る。…どうやらこれが中尾のルーティーンらしい。

 球雄の初球は外角のスライダー、中尾はバットを出しかけて止めた。

「ボール!」

 球審がコールした。

 住谷はボールを球雄に返すと、ミットの下で右手の指先をチラチラさせて急に配球リードを始めた。

 サインに頷いて投げた球雄の2球目は外角低めのストレート。…中尾はバットを出しかけてまた途中で止めた。

「ボール、ロー !! 」

 球審がコールする。

 …中尾のバッティングは基本的にセンター返しだ。厳しい球は追い込まれるまでは打たない。少し甘い球が来たら好球必打で初球からでも打ちに行く。センターを中心に右中間、左中間にライナーを飛ばすタイプだ。したがってヒットも長打が多くなる典型的中距離バッターと言って良いだろう。

 …住谷のサインに頷いて投げた球雄の3球目は外角の、縦に曲がるスライダー…これも中尾はバットを途中で止めて見送った。…球審のコールは

「ボール !! 」

 住谷は立ち上がって早いボールを球雄に返した。球雄は大きく肩で息を吐く。

 逆に中尾は勢い込んで構えに入って気持ちを高めていた。

(これでボールスリー…次は必ずストライクを取りにくる。外角は決まらぬ状況だから次はインコース、ストライクが来たら思い切って打つ !! )

「球雄っ!落ち着いて行こう !! 」

 住谷が叫んで腰を降ろした。

 再び肩で大きく息を吐き、球雄はセットポジションに入った。











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