第22話

 いつも通りの店の手伝い、その最中でもポケットの中のスマフォをついついと触ってしまう。


「浮かれてるのかも」


言葉にすると、どこか納得する。

今週の皆で、また四人で遊びに行く話は無くなってしまったが、これからまだ一緒に授業をするのだ。

機会はまた来るだろう。

お店も忙しいのは大体昼前か夕方だ。

お父さんはお得先への配達があるので、大体は一日出たっきりになる。

必然とお母さんと私が店番になるのだ。

魚の需要は主に配達なので、店に置く漁は少量だからなのか日用雑貨も置いているの。

店番ではお母さんが魚担当で、雑貨類は主に自分だ。

雑貨類の業務と言っても品出しや、発注ぐらいの話なのだが。

時間は昼前、ぽつぽつとお客さんが来る程度だ。

一応やることは無いかと店内をぐるっと回り在庫などを確認するが、それ程減っているものもなく、あっという間に手持無沙汰になる。

昨晩、航が寝た後に送ったメッセージに未だ返事はない。

あちらはバイトがあると言っていたので、起きるのは相当早いはずだ。

メッセージの横に、読んだことを知らせる既読の文字が少し寂しかった。

きっと起きるのが早いので、気を使って送ってこなかったのかもしれない。

何事も前向きに考えたほうが楽しい。

そうやって今の自分の心を誤魔化すことにした。


「お昼ご飯作ってきて頂戴な」


「はーい、冷蔵庫何あるの?」


「確かうどんがあるはず!野菜もあるから、焼うどんにしましょ?」


「分かったー」


そう答えながら店を出て隣の家に向かう。

またエプロンのポケットからスマフォを取り出すと端末の上部のLEDが青く点滅しているのが見えた。


『取り合えず帰ってきた』


相変わらず飾り気のない返信だが、彼の少しいつも気難しそうにしている顔が浮かび微笑ましい。

玄関を開けながら、返信を打つ。

こうやって頻繁に会話するようになったのつい先日の事がだが、今まで知らなかった彼の日常の一端を知ることが出来、ここ一週間は心が充実しているのを感じる。

店番をしているお母さんと交代で休憩に入らないと行けないので、急ぎ目でご飯を作りスマフォでニュースをチェックしながら昼食を取る。

相変わらず物騒な事件が多いなと思いながら、画面をスライドさせてこの地域の天気予報を見る。

どうやらこれから明日にかけて、天候は悪化するらしい。

航はバイト休みになるのかな、なんて考えつつ取り合えず食べ終わった食器を片付けることにする。

台所の窓から隣の家に植えられている枇杷の木が北風に煽られてるのが見える。

空のどんよりとした灰色も相まって、これから先の雲行きの悪さを感じさせる。

こういう天気の時は理由もなく暗い気持ちになるものだ。


「航は帰ってきてるみたいだし、大丈夫か!」


最近は彼の事ばかり考えている気もするが、別にやましい訳でも無いし。

誰に責められた訳でも無いが、照れ隠しに心の中で呟いた。


 午後からの業務は、夕方がバタバタした程度で、いつも通りの休日の店の手伝いをこなした。

夕方がバタバタすると言っても、その前にお父さんも配達から帰っていたので、あまり自分の出番も無かった。

両親も土日は早めに店を閉め、家族でご飯を食べるのが習慣だ。

と言っても十九時を回ってからの話ではあるが。

店の片付けの最中に、航から返信があり、そうやら晩御飯を買いに行っている様だ。

彼の所はお父さんと二人暮らしなので、ご飯は当番で作っているみたいだ。

自分はあまり料理が好きではないので、同年代の男子が料理が出来るという事実だけで、何だかライバル視してしまう。

風呂上がりの髪を乾かしながら、何となく明日の仕事が憂鬱になる。

やはり年頃ではあるので、オシャレなお店に行ってSNSに写真をアップしたり。

そういったことに興味がない訳でも無いが、一番仲のいい京子は部活で忙しかったりもし、中々予定が合わない。

悲しいことに、あまり学校でも親しい友人は居ないし、そういう人たちと遊びに行っても気疲れしてしまうのが本音ではある。

結局時間があっても遊びに行かなさそうな自分に、少しガッカリしながら乾かし終わった髪を揺らしながら自分の部屋に向かう。

充電してあったスマフォを覗くと、京子から連絡であった。


「わあ、美味しそう!」


京子の母が、隣街で噂になっているロールケーキ屋に行って買って来たらしく、今晩食べているときの写真が送られてきていた。


『いいなあ、私にも頂戴よ!』


返信を送ると直ぐに端末が震える。

今どきの女子には珍しい、筆不精な京子が直ぐに返信を送ってきた事に驚いた。


『すごい美味しいよ!今度行こうよ!』


『行こう行こう!』


京子から店の情報を聞いていると、端末の画面の上部に航からの連絡を知らせる通知が届く。

どうやら、明日は休みらしく手持無沙汰になってしまったようだ。

しかし、こうやって夜に彼と連絡を取ることが当たり前になってきた。

いつも気難しそうな顔によらず、筆まめなのだが、そのおかげで連絡が続いている。

前と違って、暗い気持ちで彼の事を思い出すことは無くなった。

あの時、彼が受け止めてくれなかったらどうなっていたんだろうか。

そもそも話ができないまま、卒業してそのまま疎遠に、何てこともあっただろう。

終わった事とは言え、夜は少し考え事をしてしまう。

彼と会話をしながら、少しブルーな気持ちになる。

しかし、自分からのちょっとしたボケにすぐにツッコミの返事をくれる彼を見ると、そういった気持ちも幾分か和らいだ。

いつの間に京子からの返信も無くなり、航との会話に熱中していると時計の針は頂上に差し掛かっていた。

航に本当に感謝しているんだ。

彼に言っても、当たり前のことだ何て、言われてしまうかもしれないが。

部屋の電気を消し、彼にお休みと送る。

スマフォが震えたがメッセージは見ず、そのまま握ったまま目を閉じた。

やっとまたつながったこの関係を途切れさせないように、固く握った手とは裏腹に。

心地よさそうな笑みを浮かべ、眠りにつくのであった。

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便りは潮騒の響きにのせて 飛鳥文化 @asuka0807

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