第21話

その日の夜、ベッドに寝転がりながら日課のアプリをこなす。

夕食時のテレビの、お天気お姉さんによれば、明日は低気圧が北上し、西高東低の冬型の気圧配置だそうだ。

波も3メートルを超えるそうで、父さんからは休暇を言い渡された。

前の、渚と遊びに行った時の様に臨時ボーナスがある訳では無いので遊びに行く気も起きず、今日は夜更かしをして明日の休日は寝て過ごす算段だ。

拓海からの惚気も適度に返信しつつ、布団の柔らかさと暖かさを満喫する。

この時間が一番幸せかもしれない、そう感じているとあっという間に眠たくなってしまうものだ。

しかしその眠気も、時折来る渚からの連絡により遮られる。

しかし今渚は、風呂に入るとの連絡を最後に、ここ二十分連絡がない。

アプリにも飽き、手持無沙汰になり、布団の上をゴロゴロして眠気をやりくりする。

拓海の惚気にも飽きてきたので、下に飲み物でも取りに行こうと、意を決して布団から脱出する。

階段を降りると、居間から光が漏れているので、まだ父さんも起きている様だ。

ガチャリと扉を開け入ると、少し前に、大々的にCМをしていた洋画をを見て、酒を飲んでいる父さんが目に入った。

最近定額制のネットチャンネルの洋画にはまっているらしく、休日の前夜はソファーに寝転がりながら映画を見る父さんの姿が定番になりつつある。

ちなみに映画に集中しているようでこちらには目もくれず見入っている

時計を見ると時間は十時半で、夜更かしを決めた今日では寝るにはまだ早すぎる。

何をして時間を潰そうか考えながら冷蔵庫を開けると、夕飯の買い出しの時に一緒に買った500mlでペットボトル入りの無糖の紅茶が目に入ったので、それをくすねて二階に戻るとする。

居間を出るとき、取り合えず父さんにおやすみと声を掛けると、返事が返ってきたので、流石に部屋に入って来たことには気付いていたみたいだ。

部屋に着くと、ベッドの上に置いてあったスマフォを確認すると、渚から返信が返ってきていた。

一応拓海からの返信も確認をしたが、既読も付いておらず、粗方彼女と通話でも始めたのだろう。

布団に座り、ちびちびと紅茶を口にしながら渚との会話を進める。

あちらは明日も家の手伝いらしく、休みたいなと嘆いていた。

もしかしたら遊びに誘おうか、などと淡い期待もしていたが、手伝いがあるのなら致し方ない。

残念に思いながら明日は自分は休みなことを返信をし、ペットボトルのキャップを閉め布団に潜り込む。


「ホント明日は何しようかな」


頼みの綱の拓海も、あの浮かれようじゃ相手にしてもらえなさそうだ。

そもそも今が一番熱い時間だろう、野暮な事はしたくはない。


『明日は何する予定なの?』


そのコメントと共に毎度お馴染みの可愛らしい猫のスタンプがにゃーと鳴いている。

しかし改めてこうやってやる事を問われた時、釣りを自分から取り上げると、本当にやる事がないなと悲しくなる。

まあ人並みにゲームなどはしてきたが、最近流行のSNS系の事にはもっぱら疎い。


『なんも考えてねー。昼まで寝る』


『いいなぁ、私もゆっくり寝たいな!』


ゆっくり寝れるのは休日の特権だが、あまり寝すぎると休日を無駄にしてしまった感じも出てしまう。


『けど、寝すぎると勿体ない感じしないか?』


『するする!起きて十一時とかだったりすると一日の半分無駄にしてるわけだもんね』


『そうそう、だから結局俺は早起き派だ』


『私はガッツリ寝る派です。これは戦争だ!』


何でだよと思いつつ、渚らしいその返しに思わず一人で笑みを浮かべる。

何を返信しようか少し考えていると、渚からURLリンク付きのコメントが送られてきた。


『この前ハンバーグ食べに行ったお店あるでしょ?あの横ケーキ屋さんなんだけどロールケーキが有名なんだって』


『ケーキか、最近食べてないな』


男二人所帯ということもあり、甘いものとは縁が遠く、ケーキとなれば猶更だ。

誕生日なんかも最近は焼肉パーティーである。

サイトを覗くと、三種類のロールケーキがあり、プレーン、抹茶、チョコとあるようだ。


『今度さ、これ買いに行こうよ!』


『お、いいね。こういうの男一人だと中々買えないからなぁ』


『あ、けどこのお店ね、甘さ控え目らしいから男性客も結構来るらしいよ?』


『へー、確かに抹茶とか人気ありそう』


『私は断然チョコ派です!』


ニヤリと笑みを浮かべる猫のスタンプと共にロールケーキの派閥宣言を受けたが、貴重な情報だ。

今後渚に何か買ってくるときはチョコであれば間違いなさそうだ。

確かに学校でも、チョコのお菓子を食べているのをよく見かける。


『太るぞ』


『いいんですぅ!家の手伝いでカロリー消費してるから!いいの!』


こういう気安い冗談も、会話の楽しみの一つだなと感じる。

まあ当の本人にそんなこと言ったら、デリカシーが無いと怒られそうだが。

本人でなくてもそうか。


『ロールケーキの話したらおなかすいてきたじゃんか!』


『めっちゃ理不尽な怒り!』


このまま夜更かしをして会話を楽しみたい所ではあったが、あちらは明日は仕事だ。

そのうち時間も時計の針が真上を指す時間になり、おやすみと、互いに打ち合い、今日の会話はお開きになった。

自分は休みなので、もう少しアプリでも弄って寝ようかとも思ったが、一週間ぶりの船だった事もあり存外に疲れが溜まってるようだ。

このまま渚との楽しい会話の余韻に浸りつつ寝ようと思い、部屋の電気を消しスマフォを充電器に挿す。

眠りに誘われる最中、明日もこうやって一日が続けばいいなと、柄にもなく平和を祈り、おやすみと独り言を残し、眠りにつくのだった。

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