10 翼をください

 翼をください


「巴ちゃん。あなたの翼を私にください」

 電車の中で夢は言った。


 泣きながら、巴の目の前でそう言った。


 ……翼。

 私の背中にある、白い翼。


「いいよ。夢。私の翼をあなたにあげる」にっこりと笑って、泣きながら、巴は言った。


「……ありがとう」巴の目の前で、本当に嬉しそうな顔をして、夢は言った。


 すると、次の瞬間、不思議なことが起こった。


 鷹羽巴の背中に、白い二枚の大きくて美しい鳥のような羽根が、突然、(本当に突然)出現したのだった。


 あ、羽根がある。巴は思った。


 ……綺麗。これが私の白い羽根なんだ。


 自分の背中から突然生えた二枚の白い羽根を見て、そんなことを巴は思った。


 でも、その白い二枚の羽根はすぐに巴の背中から、(ゆっくりと、透明になるようにして)消えてしまった。


 そしてその代わりに、巴の目の前にいる白鳥夢の背中に、白い二枚の羽根が生えた。


 それはさっき、巴の背中に生えていた白い二枚の羽根と同じ羽根のように思えた。


「……本当に、私の羽根が夢の背中に生えているの?」巴は言った。

「そうだよ。巴ちゃん。これはあなたの白い羽根。あなたが私にくれた、『私がこれから、生きていくために必要な羽根』」


 ……生きていくために、必要な羽根?


 巴は思う。


 それって、どういうことだろう?


「ありがとう。本当にありがとう。巴ちゃん」

 巴がそんなことを疑問に思っていると、そう言った夢の体が、不思議な光に包まれ始めた。

「……夢。あなた、全身が光っている」

 そんな巴の言葉に、夢は泣きながら、にっこりと笑って、巴を見た。

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