第34話 頭数を増やせばいいってものじゃない

「落下するぞ!」


最初に着水したのは銀色の人魚マーメイドの太田。次は松下を担いだジェニーと俺。最後にドアガンドランカーと化したブロケードがしぶきを上げて海に落ちる。

高所からの落下で衝撃が足の裏から全身を貫き、大量に海に叩き込まれた空気が視界を塞ぐ泡となる。ついでに付けていたヘッドセットが落ちる。

当然、待っているのはゴマモンガラの群れ。それも地形による弱体化のない最強の状態のゴマモンガラが大量に。

一匹のゴマモンガラが着水を見抜いたいたかのように俺たちの足元から昇ってくる。

まずい。担いだ松下と着水の勢いを制御できずに迫ってくるゴマモンガラに対処できない。

防御力の高い松下はこれ以上の戦闘続行は難しく、ジェニーも俺同様に着水時の衝撃で対処が遅れる。

クソッタレが、格闘ゲームやアクションゲームじゃねえんだから『起き攻め』とか『着地攻め』なんてやってんじゃねえよこの鬼畜魚野郎。それにゲームと現実の違いはリセットボタンの有無ではなくダウンした際の無敵時間の有無だ。

要するに一度やられたらやられっぱなしのお肉になり果てるということ————!!


「ゼッイヤァ!!」


これまたどこぞの格闘ゲームのような気勢の声が水中に響き、ゴマモンガラの胴体が貫かれる。

魚体から伸びるは巨大な鋼の針。エストックと呼ばれる刺突に特化した細身の剣。それを持っているのは太田。

チェーンソーを使っていた俺が言えたセリフではないがあまりにも時代錯誤な武器。しかしそれは鋼色の人魚には弾丸に対する弾頭のようにその場にあることが自然のような一体感があった。

太田は縦横無尽に泳ぎまわり、俺たちの周りのゴマモンガラを刺殺していく。6匹ほど倒しただろうか。

海中は赤く染まり、濁っていく。色が濁っているのはマシンガンで落とされたゴマモンガラによる影響がほとんどだが。


「すげェ!!」

「Wow, is he "SAMURAI"?」

「多分ノーだ。侍は日本刀を使う」


となりの外人少女もそうだが俺も何を言っているんだ。一旦松下をジェニーに任せて水上に浮かぶ。新島との距離はそう遠くない。だがもう一人の姿が確認できない。


「ブロケード! ブロケードはいるか!?」


力の限り仲間の名を呼ぶが返答なない。もしやゴマモンガラに食われたか?

疑念を解消するために再び顔を水中につけて水面で戦場を俯瞰する。気絶している松下とAPS水中銃で対応しているジェニー。それとゴマモンガラとブルーインパルスみたいな格闘戦ドッグファイトを繰り広げている太田。そして正体不明のゴマモンガラが集まっている玉。何故かそこにいるゴマモンガラは色がおかしい気がする。


「太田ぁ! あのゴマモンガラの群生地に突入できるか!?」

「何をするつもりだ?」

「ブロケードの姿が見えない! アイツの無事を確認したい!」


正直言ってこの状況はジリ貧だ。弾も刃も無限ではない。いつまで俺たちがゴマモンガラの襲撃を躱し続けられるかはわからないんだ。


「彼がいるって証拠は?」

「そんなんねえよ! でも銃だと誤射る可能性がある! だからお前に行ってほしい!」


根拠のない可能性とブロケードが生きているかもしれないという希望的観測に基づいて今いる仲間を危険にさらす隊長としては最低の選択。いや、別に隊長に任命された訳ではないが。書類上は太田が隊長だったはずだし。

しかし、太田はしばしの間戦いながら逡巡しながらも俺の無茶な頼みを聞き入れてくれた。


「了解した。側面は任せる」


水中でも輝く鋼のような魚体が1本の刃となって水底へと落ちていく。俺は覆射体制を維持したままそれに追従し、彼に近づこうとするゴマモンガラをセミオート射撃で撃ち殺す。

水中だと命中能力が上がるのか、弾丸はゴマモンガラの身体を貫き、大穴をあける。

一撃で殺し切れない個体もいるが俺の目的は殺すことでなくあくまで足止め。貫かれて体勢を崩させた後は別の目標を狙って撃つを繰り返す。

目標が近づくとその異様さに目を奪われる。趣味がいいとは言えないが白黒黄色のカラーバリエーションだけは無駄に豊富なゴマモンガラだが玉を形成している奴は茶色い個体が多い。それに面背にの少ない背中部分に二本の白い線。

またぞろほかの生物の特徴でも取り入れたのか? まるでGOMA団子だな。


「ゼッイヤアアアア!」


数秒ののちに太田がゴマモンガラの集合する玉に突っ込んでいき、細身の剣を突き込んでいく。

一度の刺突で2匹仕留めた太田は突入の勢いを逸らしてすれ違うようにゴマモンガラの玉、通称GOMA団子(今命名した)の側を通り過ぎる。


「ここにブロケードはいない! 撃てぇ!!」


近接戦を行った結果かそこにブロケードがいないと判断した太田が叫ぶ。俺はフルオートに変えてマガジンの弾丸20数発をGOMA団子に叩き込む。フルオートの連射にGOMA団子はなすすべもなく散りじりななる。

中にいたのは頭部にハンマーのような角みたいなものがつき、その先端に気持ちの悪い眼球を付けた不思議なゴマモンガラ。


「まさかこいつら・・・・・・」


見覚えのある特徴的な頭部に俺はあるサメを想像した。

シュモクザメ。その特徴的な頭部から英名をHammerheadハンマーヘッド sharkシャークというメジロザメ目のシュモクザメ科に属するサメの総称だ。

特徴的な頭部をしているが、それはサメの優れた探知能力の根幹をなすロレンチーニ器官を発達させた結果だ。

ロレンチーニ器官とは微弱な電流を感知する電気受容感覚で、100万分の1ボルトという極小の電位差を感知できる性能を誇る。

シュモクザメのその個性的すぎる頭はそれの性能に極限まで特化したからにほかならない。

そしてそれを利用すれば


「お前が、元凶かああああああああ!」


マガジンを変えてリロード。GOMA団子がまたできる前に何としても殺す。

コイツさえ殺せれば正確な位置の特定ができず、ヘリの襲撃は難しくなる。救助部隊すら殺しかねないコイツだけは今ここで殺しておかなければならない————!!


しかし意識が前のめりになりすぎた俺は背後の影に気付けなかった。


「後ろだ鮫島!後ろにが居るぞ!」


太田の絶叫が水中にこだまする。顔だけで振り向くと俺の背後には頭だけ二つになったゴマモンガラがもはや回避不能な距離まで迫っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

GOMAMONGARA 留確惨 @morinphen55

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ