第38話 ホットスポット

「まるで、波だな」

ジャガーがボソッと呟く。街は、その波に呑まれようとしていた。街の端は既に波濤の下だ。

「あれが全部セルリアンかよ…」

地面はほとんど見えない。フレンズ部隊が乗るヘリコプターの影が、小さくセルリアンの波に落ちている。

「嫌だぜ、あんなところに飛び込むのは」

ここでいくら精強であっても、フレンズ部隊を投入するのは焼け石に水どころではない、ただの自殺だ。

「これじゃあ、時間稼ぎすら無理だろ」

「避難誘導は?」

「それは警察と自衛隊がやってる。私たちは、あっちだ」

ジャガーはセルリアンの波の、ずっと先を指差した。

「セルリアン発生源の確認、できるならこれ以上の発生を止める」

「できるの?そんなこと」

「巻上先生がおっしゃるには」

「発生源には、きっと位相変換の触媒があるに違いないわ!それを見つけたら、物理学の大発見になる!」

巻上が身を乗り出す。

「なんで乗ってるんですか。危険なんですよ!」

「こんなおもしろ…こんな発見を目の前にして、躊躇う学者なんかいないわ!」

「今、面白いって言ったよな」

「言った、間違いなく」

隊員があきれ返るのにも気づかず、巻上は息巻く。

「いざ行かん、セルリアンの大地へ!」


「ここらへんがホットスポットかな」

ここまで来ると、セルリアンもまばらになっている。発生したセルリアンが、山や渓谷、森、そして街のような障害物にぶつかって進行速度を落とす。すると後から来たセルリアンに追いつかれ、呑み込まれ、波になるのだろう。

「ほら、あれ」

目のいいヘビクイワシが指差し、巻上が双眼鏡で確認する。アムールトラの視力は巻上とさして変わらないから、双眼鏡を使う。

「溝…亀裂?」

「地理学者を連れてくれば良かったな。深さはどれくらいだろう」

巻上は興味深々な様子だ。

溝の幅はせいぜい2m。人間でも飛び越せそうだ。だが長さはどれくらいだろうか。少なくとも、地平線までは続いているように見えた。セルリアンが染み出すように湧いてくるから、深さはわからない。

「とはいえ、あれを潜らないと、触媒?とかいうやつにはお目にかかれないな」

「うへえ」

サイドワインダーが心底嫌そうな顔をする。

「あれなら」

「ん?あれ?」

「前に医療メーカーでやったやつです。野性解放を、コントロールすれば。活性化したサンドスターが、触れるセルリアンを全て消滅させるんです」

「なにそれすごい」

「ダメだ!あれ以来、一度もできてないだろう!自我を失って、今度こそ戻って来れなくなるぞ!」

ヘビクイワシが物凄い形相で叫ぶ。アムールトラに野性解放はさせない。そこにはそんな決意が込められていた。

「なあ」

ジャガーが頭に手をやる。

「わからんが、アムールトラにできて、私たちにはできないものなのか、それ?単純な野性解放なら、部隊のほとんどはできるぞ」

「こっちはベテランなんだぜ。やり方を教えろ」

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