第37話 位相変換
見下ろした街は、車で溢れていた。まだできてそう経っていないこの街に、こんなにも人がいたのかと、アムールトラは妙な感慨にふける。
「つまりだ、サンドスターは減少したり、奪われたわけじゃなかったんだ」
巻上がヘリの騒音に負けないように、大声で叫んでいる。実際にはインカムがあるから、そこまで大声を出す必要ないのだが、聞いていなかったので訊き返す。
「サンドスターが減ってないって、どういうことです?」
「ああもう!さっき言っただろう!アムールトラ、お前のサンドスターは、実際には減っていたわけでも、まーちゃんに吸い取られたわけでもないってことだよ。サンドスターは減っていない。ただ、アンチ・セルリウムに置き換わったんだ」
「置き換わるって」
「なんでそんなことに気付かなかったのか、自分の間抜けさに腹が立つ。サンドスターとアンチ・セルリウムは元々同じ物質で、位相が変わっただけだと、以前説明したのは覚えているか」
アムールトラは、その説明を聞いたことを思い出した。
「つまり、セルリアンや例の病気は、サンドスターをアンチ・セルリウムに位相変換する事象なんだ」
街の住人が今、脱出を図ろうとしているのは、政府による避難勧告があったからだ。そしてその原因は、視線のずっと先で土煙を上げている。
「セルリアンの大規模な発生も、ですか」
「ああ。以前、医療メーカーでも小型セルリアンが大量発生したよな。あれの規模をずっと大きくしたものが、今起こりつつあるわけさ」
「でも、アンチ・セルリウム噴火とかは、最近ないですよね」
「いや、あっただろ。最近、キョウシュウエリアで」
「最近って、あれはもう半年も前で」
「す 落下したアンチ・セルリウムはすぐにセルリアンの発生を呼んだ」
「ええ、皆の活躍でみんな倒して」
「だけどな、火山噴火の影響は、そんな局地的なものじゃない。噴煙は成層圏に達し、地球全体に対流する。やがて落下したサンドスターが、位相変換すれば」
「セルリアンの発生に?でも、位相変換ってそんなに簡単に起こるものですか」
「いや、医療メーカーで再現実験もしたが、再現性はなかった」
「じゃあ」
「何か。何かきっかけがあるはずなんだ。きっと何かが触媒のような作用を」
巻上の言葉は、途中からボソボソとした独り言になった。思考の海に沈んだ巻上は放っておいて、今は現実の危機に対応しなければならない。
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