第36話 病院

外来が再開したようで、早朝から、病院はかなり混んでいた。

病院は相変わらず迷路のようだが、身体が道を覚えている。無菌室までの廊下は、忙しそうに歩き回る看護師や医師たちの波が切れない。

大きなエアロックのドアの前に立つが、ここから先は看護師の同伴が必要だ。例の“宇宙服”を着用しなければならない。エアロックの近くには看護師はいなかったので、アムールトラは、ナースステーションにいつもの看護師を探しに行くことにした。


ナースステーションは、まるで戦場のような喧騒に包まれていた。電話がひっきりなしに鳴り、看護師たちの表情は険しい。

「あの」

アムールトラは迫力に押され、声をかけるタイミングを掴めない。

「あのぅ…」

「ちょっとそこどいて!」

見ると、ストレッチャーが何台も並んでいる。

「これは…」

只事ではない。何かが起きている。アムールトラは電話をかけようとして、電源を切っていたことに気づいた。

「アムールトラ!」

エレベーターホールの角から叫んできたのは、ヘビクイワシだった。

「どうしてここに」

「歩きながら話すぞ、来い」

ヘビクイワシがアムールトラの腕を掴む。

「いや、お見舞いが」

「見舞いは禁止だ」

「禁止ってどういうことだよ!」

腕を振りほどいて、アムールトラは歯を剝きだす。

「まずは出動だ。セルリアンの大規模な発生で、街はパニックになってる。ここに運び込まれてるのも、逃げて怪我したり、例の病気を発症した人たちだ」

「例の病気だと?」

「ああ。例の病気とセルリアンには、やはり関係があるんだ。お前のお見舞い禁止も、それに関係がある。その辺は、行く途中で巻上先生が説明してくれる」

「…わかった」

エレベーターの下ボタンを押そうとすると、ヘビクイワシがそれを止める。振り返ると轟音が防音ガラスを突き抜け、窓の外に大型ヘリコプターが接近していた。

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