第26話 子供

「あいちゃん、来てくれてありがとうね」

アムールトラは会釈を返す。

「まーちゃん、良くないんですか」

「そうね」

まーちゃんの母親は、まーちゃんの額の汗を拭う。

「まだ大丈夫だけど、遠からず無菌室に入るかも」

この病気は衰弱し、免疫力を失っていく。そうなれば、空気中のありふれた雑菌も命取りになる。

「なんとかならないんですか」

「サンドスター治療ができれば、進行を遅らせることができるんだけど。医療メーカーが破綻しちゃったし、セルリアンを呼ぶからサンドスターの使用が無期限停止中。再開を祈るしかないわ」

「すみません」

アムールトラは俯いたまま拳を握る。

「なんであなたが謝るの?」

「私たちが、セルリアンを止められなかったから…メーカーの暗部を暴いてしまったから…」

「違う!」

急な大声に、アムールトラはびくっと身を縮めた。

「あなたは悪くないよ、あいちゃん。あなたはまーちゃんを命がけで守ってくれた。あなたは何も悪くないからね!」

「でも」

「でもじゃない!あいちゃん、あなたは立派よ!私たちにできないことをやってくれてる。本当に感謝してるのよ。でもね、あなたはまだ10歳。私からしたら、まだまだ子供なの。いくらフレンズの成長が早いといってもね」

アムールトラは、ふわりと抱きしめられた。

「だから、ここからは私たち大人の仕事。大丈夫、きっとなんとかなる。ううん、なんとかしてみせる。巻上さんも協力してくれてる。きっと大丈夫だからね」

結局その日は、まーちゃんは目を覚まさなかった。けれど翌日には目を覚まして、お腹が空いたとモリモリ食べてくれたのよ、とメッセージが入っていた。電話もくれたようだが、ちょうど訓練の時間だった。

「次の休み、アムールトラはどうすんだ?」

サイドワインダーがニヤニヤと笑いながら尋ねる。

「デートか?」

「ええと…はい」

ヘビクイワシが口笛を吹く。

狭いこの部隊で、秘密にしておくのは不可能だ。事情はとっくに知られているだろう。

「ま、楽しんでこい」

ジャガーはあくびをしながら新聞に視線を落とす。

医療メーカーが摘発されてから、セルリアンの発生の報告はない。

「こうも平和だと、あくびが出るね」

サイドワインダーにもあくびが移ったようだ。

「このまま何事も」

そこまで言いかけたところで、アラームが鳴った。

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