第19話 サンドスター

「まーちゃん!」

母親らしき人が、抱き合う二人に駆け寄る。

「お母様でいらっしゃいますか」

「はい…はい…あいちゃん、あなたなのね」

「ママさん!」

「これは、どういう…」

「わかりませんが…野性解放の反動か、幼児退行しているようですな。申し遅れました、ヘビクイワシと申します。我々の存在は、どうかご内密に」

「はい、私も職員ですから。ここにいる親たちもそうです」

見れば、パーク職員の制服を着た者も多い。患者は全員子供のようだ。

「この子たちは」

「はい、例の病気です」

「ああ、やはり」

例の病気。子供ばかりがかかり、衰弱していく。

「お子さんも、ですか」

「はい。もうじき動かすこともできなくなるでしょう」

まーちゃんの母親は、気丈に振る舞う。

「でも、この病気で死ぬことはないと」

「この病気、では。でも、衰弱が進めばどんな病気でも致命的になります。健康な人ならなんてこともない風邪でも、ちょっとしたカビでも、命取りなんです」

まーちゃんより重症者もいるだろう。患者を動かせないとは、こういうことか。

「でも、希望はあるんです」

白衣の男性が口を開く。

「ここはこの病気専門の治療研究センターになっているんです」

医師のようだ。彼は散らばったカルテを拾いながら説明する。

「治療にはサンドスターを使います」

「だからこの島でしか治療も研究もできないのか」

「ええ。既に治験も始まっています。ただ、副作用が強くて、それを克服しなければ実用化は望めない。まだ時間はかかりそうです」

「サンドスターか」

動物たちを、ヘビクイワシのようなフレンズに変えるだけでなく、いろいろな効果があることが、少しずつわかってきていた。そして、それがセルリアンを引き寄せることも。

「サンドスターがセルリアンを引き寄せる危険をご存知か」

「…はい」

「今回の大型セルリアンは、真っ直ぐここを目指していた。きっとまた来るぞ」

「わかっています。いま、メーカーにお願いして、完全密閉容器を開発してもらっています。それができれば安全性も、治療効果も格段に高まるはずなんです」

サンドスターは物質でありながら、物質とは呼べない側面もある。単に空気密閉しただけでは効果を遮断できない。

「…メーカー?メーカーもこの島に?」

「ええ、もちろん。サンドスターの密閉ですから、当然サンドスターを使って検査を…」

「行くぞ、アムールトラ!いつまで惚けてるんだっ」

アムールトラの脳天に、かかと落としを一発。

「…?あれ?ヘビクイワシ?」

「いいから来い!」

ヘビクイワシは首根っこを掴むと、飛び立った。

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