第20話 研究区画

ジャパリパークには観光用として大型の空港と港がある。余剰能力を活用するという名目で経済特区が整備されていたが、もともとそれが主目的であり、対外的にジャパリパークの平和利用をアピールするために観光用としているのは明白だった。ここには工場はないが、多数の研究設備があり、中には大型の3Dプリンターを複数備えるものもある。サンドスターを扱う製品も、少数生産ならばここで行えた。

「ジャガーたちも、車で向かっているとのことです」

風切り音に負けないように、アムールトラは大声で報告する。

ヘビクイワシは、アムールトラをぶら下げたまま、周囲を警戒。

「大型セルリアンは見えないな」

「ええ。ねえヘビクイワシ。なんでセルリアンが増えてるんですかね」

この島では、火山も安定しており、セルリウムの濃度上昇も特に見られない。

「キョウシュウエリアのセルリウムがこっちまで飛んできてるんでしょうかね」

「どうかな。ただ、セルリアンがサンドスターに引き寄せられるなら、この研究区画に現れるかも、と思ったんだが。考えすぎだったかな」

その時、アムールトラの鼻先が、僅かに動いた。

「ヘビクイワシ、降ろしてください」

地面に足を着けると、アムールトラはぐるりと回る。ほんの微かな異臭の方向を見つけると、消えそうな臭いを辿りながら、ゆっくりと歩きだした。


正門の守衛はどうやら不在のようだ。詰め所のモニターは目まぐるしく切り替わり、赤色灯が回転している。なにか異変があったことは間違いない。

プザーは切ってある。警備会社への通報も切れているのだろう。

「周りに知られたくないのか」

内部で何が起きているのか。

「行ってみればわかる、ですね」

「ああ」

通用口の鍵を破壊して、内部に侵入する。照明は落ち、赤色灯の光だけが辺りを照らしている。内部に入ると、異臭は一気に強まった。

「こっちです」

「もう私にもわかるよ」

エレベーターは動いていた。タッチパネルの表示は地上3階まで。

「でも、臭いは」

「ああ、下からだ」

権限があれば、地下への表示がされるのだろう。だが今はそういうわけにはいかない。天井の点検口をこじ開け、エレベーターシャフトに出る。予想通り、シャフトは地下に続いていた。アムールトラを抱えたヘビクイワシは、シャフトを地下深くへと降りていく。

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