第18話 再会

「アムールトラ!大丈夫か!」

ヘビクイワシが、アムールトラのそばに着地する。だが、返事はない。

「くっ、またかよっ」

アムールトラの目は金色に爛々と輝き、視点は定まらない。野性解放の反動か、意識を失ったまま攻撃性だけが発動しているのか。

「仕方ねえ」

ヘビクイワシは右脚を高く上げ、袈裟斬りに振り下ろす。弧を描いたつま先が、狙い違わずアムールトラの側頭部に突き刺さる。

「寝てろ」

だが、アムールトラは倒れない。ヘビクイワシの引き足を捕まえると、無造作に振り回す。ヘビクイワシの脚が千切れ、背中を壁に叩きつけられる。

アムールトラは右手に残った足を落とし、ヘビクイワシの方にゆっくりと歩き出した。

「いててて」

ヘビクイワシは背中を押さえながら立ち上がる。千切れたように見えた足も、どうやら靴が脱げただけらしい。

「頑丈だなオイ。俺の蹴りを食らって無傷かよ」

真正面からではアムールトラのパワーに対抗できない。ヒットアンドアウェイといきたいところだが、背後には守るべき人間たちがいる。ヘビクイワシは覚悟を決めた。

「来いオラぁっ」

「あいちゃんっ」

ヘビクイワシの後ろで、小さな声がした。かすれるような、子供の声。

「あいちゃん、だよね」

うううう…アムールトラは唸ったまま、動きを止めた。

「わかる?ぼくだよ、まことだよ」

「まこ…と…」

アムールトラが、繰り返す。無意識状態でありながら、意味のある言葉を発したのは初めてだ。

「うん、まこと。まーちゃんだよ」

「まー…ちゃん…」

アムールトラの瞳から、凶暴な光が消えていくのがわかる。

「まーちゃん!」

アムールトラは子供のように、無邪気な笑顔になった。

「まーちゃん、まーちゃん!」

ヘビクイワシが飛びかかるアムールトラを押さえようとするが、間に合わない。

まこと、と名乗った子供は、アムールトラにのしかかられ、がっしりと抱きすくめられた。

「アムールトラ貴様っ」

「だ、大丈夫、大丈夫です!」

アムールトラの毛束の奥から、子供の、少し苦しそうな声が聞こえる。

「まーちゃん、まーちゃぁん」

アムールトラは、入院服を着た子供に、頬擦りしていた。

「本当に、大丈夫かね」

「はい、だ、大丈夫です」

子供の指が、丸をつくった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る