音声記録5-8:『ほぉーら、なっ! 言った……』

 ほぉーら、なっ! 言ったとおりだろ、誰も最後まで聞いてやしねえ!

 おれ様の時間と才能と真心を無駄遣いさせやがって。誰だよ、ジジイの怪談話聞きたいなんてつまらんこと言い出したやつは!


『あんたの話が長すぎるんでしょ、DWディーウィー。爺さんの幽霊なんか最後にちょろっと出てきただけじゃないよ、最初のダラダラした前振り何よ?』


 そうだ、お前だ! お前がドヤドヤ言い出したりするから――


『いや、うちは面白かったっすけどね、先輩。そんでメットが巣穴ピットに帰ってきた事情はわかったっすけど、ティモー君は売らなかったんすね、爺さんのメット』


 おう、そうよ。ていうかティモーは巣穴ピットに戻るやいなや、ブースターかして逃げ去ったって話でな……。借金をどうしたもんかは知らないから、ま、今頃どこかの極寒惑星でで強制労働させられてるか、実験施設で培養液になっちゃったかもしれないなあ……。


『んじゃパーティー開かなかったんすか? 爺さんに誓った葬式祭り』


 葬式祭りて……。いやそいつはな、ティモーがビビりあがってミイラメットをここに置いてっちゃったから、とりあえず皆でお祭り騒ぎはやったらしいぞ。

 言うて年中らんちき騒ぎのバーだからね、厳かに祈りを捧げたなんてのはなかっただろうけど。


『でも、そういういきさつがあったからあのメット、今は大事に船渠ドック出入り口に奉られてンのよねぇ』


『そして皆が船に乗り込むたびに、頭を撫でられていく、と……』


『頭を撫でろってのも言われたの? そのティモー君はさ、爺さんに?』


 さあなあ、そりゃあさすがにないんじゃないかい? ジジイは無駄にプライド高そうだったし。腹立つだろ、子供みたいな扱いされたら。


『じゃ、なんでみんな撫でてくようになったのよ。しかも航宙安全祈願なんでしょ、墜落したパイロットに向かってさ』


 知らねえよお、なんかきだろ? あるだろ、そういう――いつのまにかそうなったってやつが。


『死んでミイラになっても巣穴ピットに帰投できた、っていう感じなんすかね。爺さんの執念にあやかって、死んでも帰ってこれますように、みたいな』


 そうそ、そんな気分だろうよ。ありがたいことに爺さんが化けて出て文句言ったって話も聞かねえから、おれらの扱いに満足してくれてるんだろ――って、おいおいおいおい! お前、そのボロ通信機!


『へ?』


 送信ランプ、いてるじゃねえか! まさか今までの話、ぜんぶ送信しちゃったんじゃなかろうなあ!


『あー。あれぇ、マジっすかあ?』


『青くなることないでしょうよ、面白かったわよ、話。さすがDWよ。ねーえちょっと、DWにバグラム頼むわ、キモい虫たっぷりで!』


 お前ら、それではぐらかされると思うなよな! 絶対に送信するなって最初におれ言いましたよねえ! どうすんのよ、おれが爺さんの話を銀河中にばらまいたっちゅうて呪われたら。泣くぞ!


『あんた……、わりと気にするじゃない。お願い泣かないで、鬱陶しい』


『ミイラメットの前で泣いたらいいんじゃないすか、許しを請いながら』


 こ、この、お前らときたら、水槽タンク生まれはこれだから――


『わーかったわよ、ごめんってば! かわいい冗談でしょお、爺さんの偉業を銀河中に語り尽くしてくれたあんたが呪われるわけないじゃないのよ。よしよし』


『意外とガラスの心臓っすね、先輩。あっ、今爺さんのミイラがこっち向いた』


 やめろっ! くそお、酒が足りねえ!

 いいかげんに送信終われよな、ほら新人っ、切れ切れ! ブチン!

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航宙士夜話Ⅱ 鷹羽 玖洋 @gunblue

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