センス・オブ・ワンダー

惨憺たる日曜日の午後

Scene.12

 惨憺たる日曜日の午後


「おい! 聞いてくれ。シャムロックが吹っ飛んだ」

 乱暴に駐車したパトカーから転がるように降りた男が、無線に向かって叫んだ。

 珍しく雪の降らない晴れた日のこと。

 彼の頭上では中央区のファッションの中心街エイプリル・ランとハングマン通りが交差する四つ角の、その一角に聳え立つ巨大ショッピングモール、シャム ロックが久しぶりの青空に向けて黒煙を上げている。爆弾か、ロケット弾か……。しかし、大惨事には変わりない。何があった、とノイズだらけの無線が問い掛けた瞬間、ビルの中から二回目の爆発音が響いた。

 反射的に男が身を屈める。

 ビルの中階から砕けたガラスや瓦礫が路上に降り注ぐ。そして、シャムロックの中からは悲鳴と共に、日曜日の買物客が飛び出した。

「と……。兎に角、早いとこ応援を寄越してくれ! どっかのイカれ野郎がデパートの中で花火してやがる」

「ねェねェ、おにーさん。それ貸して」

「あん?」

 警官が声のする方を見た。

 彼はブルーの目を見開く。彼の視線の先にはショッキングピンクのイングラムを構えた可憐な少女が佇む。マシンガンの銃口を警官の額に突きつけ、にこやかに彼女は微笑んでいた。引き金に指をかける。

 引き攣った笑顔で警官は無線を少女に渡した。

 少女の緋色の瞳が、悲鳴と銃声で揺れるシャムロックを見上げる。

「あー、あー! ……ねェ、お兄さん。ここ押せば向こうに聞こえる?」

「あ、ああ」

 では、気を取り直して。

「ハロー。良く聞けスピーカーの前のポリス共。シャムロックは私の仕事になった。首突っ込んだら吹っ飛ばすかんな」

 そう言い放つと彼女は無線を放り投げた。雪の上に落ちた無線機からは何か声がしていたが、少女は気にする様子もなく、高層ビルのエントランスへと足を進めている。

 コミカルなウサギの顔を模したフードが少女の背中で長い耳が揺れていた。ふてぶてしい後ろ姿を見ながら、バチバチと音を立てる無線機を拾い上げる。そして、今あったことを報告しようとしたその時、彼のこめかみに鮮やかなピンク色の銃口が突き付けられた。

 ゆっくり視線を向けると、先程の狂った白兎が、微笑んでいる。

 再び、引き攣った笑顔の警官は無線機を少女に手渡した。

「ハロー、ポリス共。言い忘れた。こちらマッド・バニー」

 数分後、静かになったショッピングモールでは、軍警による遺体回収作業が行われていた。その様子をあの不運な一台目のパトカーにもたれて眺めながら、ご機嫌な白兎はイチゴ味のジェラートを頬張る。

 数秒後、彼女は頭を抱えながら雪の上をのたうちまわっていた。


 氷の都トロイカ。

 日々、凶悪事件が発生するこの街では、警察組織の処理が常に遅れている。時として被害者は、非合法な始末屋に処理を任せるのだった。

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