20話 運動会後半戦 後編

さて。これが僕が出る最後の種目。あ…持久そ…。


紅白対抗リレー。一年生、二年生、三年生の全クラスから足が速い奴が抜擢され出る種目。僕は補欠で入っていた。だけど、急に本番で走る奴が仮病で救護室まで運ばれていき、僕が走ることになった。


絶対に、僕の学級対抗リレーの時の速さを見たからだと思う。


「はぁ…」


溜息を吐いて幸せを逃す。キャッチする余裕すらない。わかるでしょ?(泣)


騎馬戦。結果は白組の勝ちだった。あの後三年生が負けてしまったために赤組は騎馬戦に勝てなかった。悔しいーと思う気持ちはあるけど負けてしまったものは仕方ないと割り切って既にリレーモードに入っていた。


だけど…


「仮病は…セコイでしょ」


自分は本来休みが出た時や、体調不良で…………そもそも仮病ってなんなんだろう…。

あ、因みに何故に仮病か知ってるかというと実際に「仮病で休むから俺の代わりに出てくれ」と直接言われたから。


でないんだったら、最初から立候補しなきゃいいのに…と愚痴ってやりたい気分ですけど現在本人は救護室。今から救護室はいけない。


そう!所謂。詰み、というやつだった。


「これから、プログラム上最終種目、紅白選抜対抗リレーを行います。出場者は入場門に集合してください」


「ほら、行けよ。1組の選抜さんよ」


戸谷塚とやづかに背中を押されて催促される。


「分かってるって、はぁ、最下位取るからね?」


そしたら1組男子全員から


「「「は?」」」


あ、これは最下位取ったら死ぬやつだ。


でも、仕方ないよね。だって、僕は補欠だし?うん。本来走る人より、遅いから仕方ないよね。学級対抗で独走したからってねぇ…。期待が重すぎる…ウッ。


「「「いいから早く行け、しっしっ」」」


で、挙げ句の果てには追い出された。僕に拒否権はないらしい。


「あ、は〜い」


追い出される形として、僕は入場門まで向かった。



♦︎紅白選抜対抗リレー



入場門についた矢先、一斉にジロッと視線を貰った。え?なんですか?そんな中僕の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「よぉ柚和ゆわ!」


え?と思って振り向いたら騎馬戦で僕が倒した赤城あかぎだった。


「もしかして赤城あかぎ?」


「もしかしてだな…俺も走るし、後お前さんとこの八雲やぐももいるしな」


八雲やぐもも?」


「ほら、あそこ」


でかい巨躯という程でもないけど体つきがはっきりと分かる男がいる。一目で僕はあ、八雲やぐも君ですね〜と思った。


「ホントにいたよ…」


「それはそうと柚和ゆわは選抜で?」


「残念ながら補欠です。本来走るばずだった鹿野かのがね…まぁ」


「あぁ、仮病使ったんだろ?」


やっぱわかるよね。


「あ、そろそろ入場するぞ。柚和ゆわ、俺とは走らないけど多分、いやこれは直接本人から言われたほうがいいな。がんばろうぜ!」


そう言って赤城あかぎは自分の組みの方に戻った。


「選手、入場!」


朝礼台に立つ3年生ぽい女の子がマイクでそう言った。


走者達は入場門から出て真っ直ぐに走っていって本部テントがある真ん前いく。

本部テントは指示を出す先生がいるところ。走るレーンの真ん前まで行きそこまで行った1年生の赤組、白組で最初に走る人達が並ぶ。


さて、ここで少しこのリレーについて補足が入る。


「今年は3年生が3組までしかないので例年とは違ったルールなので説明します」


「1年1組 赤 2年1組 赤 3年1組 17番以下白。

1年2組 白 2年2組 白 3年2組 16番以下白

1年3組 赤 2年3組 赤 3年3組 17番以下白

1年4組 白 2年4組 白 3年4組 16番以下白


一走者 1年生 1組 男子 2組 男子 3組 男子 4組 男子

二走者 1組 女子 2組 女子 3組 女子 4組 女子

三走者 1組 男子 2組 男子 3組 男子 4組 男子

四走者 1組 女子 2組 女子 3組 女子 4組 女子

五走者 2年生 1組 男子 2組 男子 3組 男子 4組 男子

六走者 1組 女子 2組 女子 3組 女子 4組 女子


…聞くのだるくなってきた。


要約するとこうだった。12走者まで走って各クラスの男女二人の選手が順番ずつ走って3年生はランダムで好きな人をぶち込んでいいらしい。だから誰が走るか誰も知らないらしい。


「最初に走る一走者の選手はレーンに並んでください」


「ねぇねぇあのマイク持ってる人だれ?」


僕の隣にいるうちのクラスのもう一人の選手、山瀬やませに聞いた


「あー。胡桃くるみ先輩だよ。有名だぞ?」


「へー」


そうこうしてる内に四人の走者がレーンに並んだ。


「では!位置についてよーいドン!」


パンっ!と発砲音がしてピストル撃ったんだとすぐに理解した。


走っている1年生はまぁ普通に速くて拮抗した走りを見せていた。


そのまま一周して、1年生の女子にバトンが回った。先頭は現在白の2組で2位も白だった。

でも、ホントに拮抗していて2位と3位なんか真横で走ってるようなものだった。


そこから、1年男子、女子とバトンが渡って2年にバトンが渡る頃には僕のクラスは最下位だった。嫌な予感がしつつも山瀬やませを応援する。


「ふぁいと〜。負けたら僕と同じで山瀬やませも死ぬからね〜」


「え?マジで?んじゃ頑張らないと」


山瀬やませにバトンが渡り、すぐに前を走っている走者を追いかけにいく。最下位だから後ろ気にしなくていいしね。


ふと、肩に手を置かれて、え?と横を向いたら八雲やぐもがいた。


「え?なに?どうしたの?」


柚和ゆわ。七走者同士で走ることが決まった。白の2組、4組もOKだしてくれたから柚和ゆわ、この4人で怒られてもいいから同時に走るぞ!理由は、面白そうじゃん?」


「あー。うん。わかった。先行かないでね」


山瀬やませが、1組の女子にバトンを渡して退場していく。僕ら七走者はレーンの上に立ち僕達はそれぞれ顔を見合わせ笑った。


正直言って、楽しい。こうやって自分だけじゃなく周りと馬鹿やって面白いことをするのは大好きだ。八雲がにへらっと笑って僕は親指を立ててやった。こういうのなんていうんだろうか…。あ、赤城あかぎ山瀬やませもなんか異変に気付いたぽい。


「白組の選手がバトンを渡した、けどあれ?走らない?どうしたんでしょうか…」


バトンが渡った4組の野中和也のなかかずやが走らないから4組の方からブーイングが起こる。


その後、2組の杉田絃輝すぎたげんきに渡ったけど2組の絃輝げんきも走らないからかブーイングよりも困惑の方が大きくなった。


「なんで走らないの!?走りなさい!」


「先生が命令してきてるぜ。ま、もうそろそろ走るけどな。ほら、柚和ゆわ。お前掛け声だせ。締まらないから、デカイ声で頼むぞー」


八雲やぐもにバトンを渡した人は疲れ切った顔で退場していった。


「おし!和也かずや絃輝げんき八雲やぐも誰が一番取るかだ。それが勝負だOK?」


それから僕にバトンが渡るまで待って、それから同じクラスの女子が笑ってバトンを渡してきて「1位取ってよ」と言ってきたから「ほーい♪」と返事をしといた。



「「「「おし!じゃ勝負だ!」」」」



同時に走りだして、内側レーンを走っている和也はドンドン離していくが僕はギアを少しずつ上げていき、八雲やぐもに並んだ。


「へ、やっぱ柚和ゆわすげぇな」


八雲やぐもにそう言われたので


「どうも」


と返して抜かしていった。


絃輝げんき和也かずやを抜かして1位になり、一番左側のレーンに入った。ようやく、半周して

八雲やぐも、僕、和也かずや絃輝げんきとなっていて僕はまた少しギアを上げた。


(もっと、もっと飛ばせる)


そのまま左側ラインを走っていた和也に「じゃあね」とだけ言って抜かした。

絃輝げんきが一瞬チラッと後ろを見て微かに笑った気がしたけどすぐに前を向いて速度を上げていった。


(少しだけ、外すか…。流石に負けるのは気にくわない)


直後僕は、一気に走る速度を上げた。絃輝げんきの隣に並んで、そのまま横を向かず抜き去っていく。八雲やぐもが飛ばしてきてるのを横目で確認しつつ最後のカーブを曲がる。

そのまま、内側レーンに入り込み1組の次の走者に渡して僕の1位で終わった。


そのまま、トラックから出て八雲やぐも達を待つ。


「ふぅ、疲れた〜。いや、でも最高だったな。柚和ゆわお前速すぎ」


「驚いたよ。流石に速すぎじゃないか?」


「それには、俺も同感。短距離には自信があるんだけどな…お前ヤバイ」


八雲 やぐも和也かずや絃輝げんきと僕を褒める?言葉を送ってきたから苦笑してしまった。


「ありがとさん。それとお疲れ。すごい楽しかったよ、怒られるけどな」


「ま、楽しけりゃいいんだよ。これも青春だ。絃輝 げんきなんかモテてっからこうやって馬鹿やることで女子が離れていくって喜んでるんだぜ?いいよなぁ」


「取り敢えず、柚和ゆわ


「「「速すぎ」」」


3人同時にまたそんな事を言われ僕はなんとも表現し難い表情になった。



これで2年の運動会は終わり。うちの学校は閉会式をやらないから結果だけ発表して解散だ。リレーは1組が2位で終わった。


当然、持久走やりました!なんか、ほかの種目でもやる奴が増えていたらしく僕達もリレーで止まった事を怒られるかと思いきや外周100周で許してもらえることになった。結果死んだが。



今年の夏は、色んな意味で熱かった。でも、偶には悪くないかと来年はもっと馬鹿な事をしたいと思えるような運動会だった。








































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