訳もなく

 水がながれている、太陽が川の底まで照らした。きらきらした水面、ちょろちょろ、涼しい音。


「ねぇ、足だけ浸かっていかない?」


 カッターシャツ。ふたつほど空いたボタン、胸元をぱたぱたと、気分程度の風を送っていく。


「濡れちゃうよ?」


「分かって言ったのよ」


 きちんとしたコンクリート造りではないけれど、整えられた岩を慣れた足取りで駆けていった。

 ローファーを脱ぎ、ハイソックスを脱ぎ──え? スカートまで手がかかってるんだけど!?


「ウエスト部分を上げるだけよ? 下は体操着だし、問題ないわ」


 ちゃぷ──…どんどん進んでいき、足首まで浸かった。


颯真ふうまもやってみたら? 気持ちいいわよ」


 ジリジリ。容赦のない日射し。水の音。負けだ……


「冷たっ! 気持ちいいな」


 おもむろに両手を浸けて、すくいあげる。何かが目の前まできて、目を閉じた。


「ふふっ、やってみたかったの」


 こめかみから流れた滴は、たった今かけられたもの。


「やったなー」


「ちょっと! 加減しなさいよ」


 水がまばらに飛ぶことはなく、かたまりで制服に染み込んだ。うっすらとピンクの線が。




 陽が、山に隠れはじめる。


「あー楽しかった!」


「めっちゃ濡れた。でも楽しかった」


 ハイソックスは持ったまま、裸足でローファーを履く。


「ねぇ、颯真」


「なに?」


 カップルだから──…お互いに、やってみたいことをやろうって。友達の延長、そういう関係で心地いい。


「なんでもない」


 思っていることが分かったのか、ふっと笑って前を見た。

 いざそうなると、照れくさい。だから、


美咲みさき、スカート捲れてる」


 一瞬、焦って押さえた。


「あ、ズボン履いてたんだった。普通に呼びなさいよ」


 サイテーのひとことに、ゴメンを返す。意識せずに呼べたらなー。そのうち、愛想つかされそうだ。


「わっ、びっくりした」


「いいだろ、手繋いだって」


 変なの、に対して、ほっとけと返した。同じタイミングで、笑い合う。この瞬間が好きだ。




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