ウルトラマンのスペシウム光線は本当に地球を救うのか

「最後はウルトラマンの必殺技、スペシウム光線について考察していきます。おそらく今回は専門的な話になると思いますので、どうかご容赦ください」


 専門的ねぇ。相当難しいのか。


「まずWikipediaによる説明ですが、『右腕にマイナス、左腕にプラスのエネルギー(磁場)が蓄えられ、それをスパークさせて発射する』と記載されています。これだけでは情報が少なすぎますので結論は出せません」


 だろうな。よほど頭が良ければ別かもしれんが。


「次にピクシブ百科事典を確認したところ、『原理としては荷電粒子砲に近く、レーザー(電磁波)の類ではない』とありました。とりあえず、スペシウム光線の原理が荷電粒子砲と同じとして話を進めていきます」


 うーん。早くも頭が痛くなってきた。一応理系を自負しているが、荷電粒子砲は初めて聞いた。

 強がっても仕方ないので、俺はバーグさんに説明を求める。


「荷電粒子砲は荷電粒子……ええと、要は電子や陽子といった電荷を帯びた粒子を、粒子加速器という装置で発射させる兵器です」

「それって実際に可能なのか?」


 俺の問いにバーグさんは首を傾げて小さく唸った。


「理論上は可能です。ただ、大きなエネルギーを出力しようとすると、その分、加速器も大型化する必要があります。荷電粒子砲を兵器として実用するには加速器の小型化が求められますが、現時点では困難です」


 なるほど。なんとなく分かった気がする。


「話を戻しますと、荷電粒子砲は磁場の影響を受けやすく、軽い粒子では簡単に曲がってしまいます。スペシウム光線に含まれる『スペシウム』は原子番号が133(Wikipedia参照)。言い換えれば陽子の数が133個あります。現在確認されている最大の原子はオガネソンで陽子の数は118個。なので、磁場の影響はあまりないと思われます」


 そういや、原子って番号が大きいほど重いんだっけ。……ん? 磁場?


「作者様、どうされました?」

「いや、最初にあったWikipediaの説明に『右腕にマイナス、左腕にプラスのエネルギー(磁場)が蓄えられ、それをスパークさせて発射する』ってあっただろ? プラスのエネルギーが磁場なら、いくら粒子が重くても相当な影響受けるんじゃないか?」


 俺の言葉にバーグさんは「そうですね」と言って頷く。


「それなら、別々の粒子を発射の直前に混ぜて中性にすればいいのです。中性は電荷を帯びていない状態ですから磁場の影響を受けません」


 ということは、スペシウム光線は右腕と左腕で異なる粒子が発射されてるってことか? そういうことだよな。多分。

 そんなことを考えていると、バーグさんは「次に」と言って人差し指をピンと立てた。


「スペシウム光線を浴びた怪獣は大半が爆発しています。どのような原理で爆発しているかは不明ですが、それ以前に、数万トンもある怪獣が爆発したら爆音や爆風で周囲に被害が及ぶのは必至です」


 言われてみれば確かに。周りに住宅密集してたら大惨事になりそう。

 

「爆発物が爆発したときに被害が及ぶ範囲を保安距離と言います。保安距離の式はK=R/W^(1/3)。Kは保安距離、Rは爆発物から対象の地点までの距離、Wは質量です。質量は本来、TNT換算した爆薬量の値を代入するのですが、爆発のエネルギーが分かりませんので、今回は怪獣の質量で計算してみます。ちなみに、保安距離は数値が小さいほど大きな被害をもたらします」


 また知らない言葉が出てきたよ。保安距離か。


「初代ウルトラマンに登場した怪獣を一通り見ますと、ほとんどが1万トンを超えています。ここはキリよく1万トンにしましょう。その場合、距離が500mで2.32と出ました。3で強固な建造物が損壊するレベルなので、2.32は倒壊とはいかなくても、それに近い状態になるかと……」


 だったら木造は余裕でぶっ壊れるな。


「ほかの値で計算してみますと、8km離れていても建造物の窓ガラスが割れるみたいです」 

「8kmも離れてるのに!?」

「はい。ですがこれは怪獣の質量で計算しているので鵜呑みにしないでください。先程も言いましたように、保安距離は本来TNT換算した爆薬の質量を代入して計算します」


 あくまでも目安として見ろってことか。しかしまあ、なんというか……さすが必殺技なだけある。……もしかして、ウルトラマンが最初からスペシウム光線を出さないのはそれだけ危険な技だからか? 結局最後はスペシウム光線で倒してるけど……なんにしても、倒すのは怪獣だけにしてくれよ。

 

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空想科学小説読本 ~本家にはかなわないけど、とりあえずやってみました~ 田中勇道 @yudoutanaka

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