神様 第二章

 わたしのりよははじまった。

 人類を幸福にするりよだ。

 わたしは人類のために歴史をかいざんしてみた。窮極集合のなかにはしつかいのパターンの宇宙がほうされるがゆゑにとまれかくまれ〈この宇宙〉をきゆうじゆつせんとした。世界から拳銃を消滅させた。銃殺事件はそくめつした。世界から兵器を消滅させた。武力衝突は皆無となった。世界から金銭を消滅させた。経済的格差は雲散霧消しびたせんのためにころすこともころされることもなくなった。世界からびようを消滅させた。永遠の生命とはいかないが宿しゆくおうのうする人間は存在しなくなった。世界から宗教を消滅させた。宗教のによっての人間がころしあうことはなくなった。世界からを消滅させた。人間の根源的なる欲求を満足せしめられない人間はいなくなった。世界から自然災害を消滅させた。宇宙の不条理によってこんぱくそんされるものは存在しなくなった。全世界を資本主義こつにした。幾遍もの危機とたいしたが経済的に発展していった。全世界を共産主義世界にした。資本主義世界における搾取や階級の問題は解決された。また無政府の世界をつくった。人類は原始的世界においてしゆんぷうたいとうと生活することになった。世界統一こつもつくった。全人類はいちれんたくしようの家族となった。

 人類は幸福にならなかった。

 人類の歴史をさくげんからかいざんしてゆくと根源的なるおんみようしようされたかにおもわれたがへんぽんとして逆説的に人類は不幸になっていった。世界から拳銃を消滅させると無防備なるけんれいが原始的きようの犠牲となった。世界から兵器を消滅させると経済格差によってこつたちは分裂された。世界から金銭を消滅させると金銭のかわりに暴力によって格差が誕生した。世界からびようを消滅させると二百年をりようする人生にけんえんしてきようてんするものが発生した。世界から宗教を消滅させると神様も天国も天命もしんぴようできなくなった人間たちはこんぱくるいじやくとなっていった。世界からを消滅させると世界人口が大爆発をおこしてへいせんがあがった。世界から自然災害を消滅させると自然をくびった人間たちは大自然を破壊してゆくこととなった。全世界を資本主義こつにするとれつなる労働によって弱者がじゆうりんされた。全世界を共産主義世界にすると権力がらんして最下層からぼうに猛襲された。また無政府の世界をつくると人類はびようや自然災害やを超克することができなくなった。世界統一こつをつくるとみずからの故郷の自我同一性をきゆうして世界各地において独立戦争が勃発した。

 わたしは百折とうだった。

 素粒子の相補性レベルで〈この宇宙〉をあらゆるパターンで再起動させたが人類はきんぱくしつづけた。世界のさくげんを再構築すれば巨億の人類全員の幸福をうんじようせしめられるという愚考をざんして人類を自然なる道程によって永遠の生命となるように操作する。百三十八億年おうのビッグバンから人類の誕生をけみして現代までの歴史は〈あるがまま〉にした。人類はりゆうじよう虎視の二〇世紀を超克してぐんゆうかつきよの二一世紀をばくしんする。幾度かの武力衝突が勃発しいくばくかは第三第四の世界大戦とも呼称されたが人類のおうさつまでには到達せず二〇五八年にノイマン型コンピューターが技術的特異点にほうちやくした。全知全能のコンピューターをろうだんした人類は世界規模の投票を遂行する。ゴッドライクマシン〈ヤルダバオート〉の能力によって電脳世界を構築し人類を移住させ永遠の生命となるか〈ヤルダバオート〉の権限を一軆の人間型サーバーに転送して神様を誕生させるかだ。神様を誕生させた場合人類は電脳世界に移住せずともあるがままの世界で幸福になるはずだった。いんがわたしの誕生した歴史だ。へんぽんとして電脳世界に人類を移住させることとした。

 人類は進化した。

 百億の全人類の意識は電脳世界にマインドアップローディングされて永遠の生命となった。電脳化された半径四百六十億光年の大宇宙で人類は風紀びんらんしないかぎり全知全能となる。現実の宇宙内に設置されたメインサーバーは宇宙のビッグクランチでせんめつされないように真空空間の相転移で子宇宙へと継承されてゆく。電子情報となった人類は各各の理想とする外貌をアバターとしてひんしつそれぞれの理想とする宇宙を電脳空間内に創造してすみとした。みずからの宇宙で神様となるものもいた。みずからの宇宙で大富豪となるものもいた。みずからの宇宙でげいじゆつ家としてのぼうを実現したものもいた。みずからの仮想脳髄における仮想神経伝達物質を縦横に操作することで窮極の愉楽も窮極の感動も造次てんぱいもなく享受できた。媾合もやくげいじゆつはや必要なくなった。やがて全人類は鬱病になる。永遠に生きることと永遠に死ぬことのしゆんべつができなくなった。神様けいかくへきとうでもあった科学者の提案により全人類の意識が接続され〈電脳空間を継続させるべきかそくめつさせるべきか〉という投票が遂行された。電脳世界のサーバーの電源はおとされた。

 人類は破滅した。

 わたしは絶望した。


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